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第六話 探偵の覚悟  [栄作サイド]

「あー・・・ 寒いなぁ・・・」

 俺は今、駅前の喫茶店の前で1人の女性を待っている。と言っても、彼女とかそういう方面の人ではない。

「凪穂さん遅いなぁ・・・ 呼び出しておいて、10分遅刻か・・・ デートだったら、別に構わないんだけど・・・」

 俺が今、待っている人、凪穂さんは怪盗マリオネットこと桜ノ宮遙の里親で、彼女をサイボーグにした天才博士。サイボーグに改造したと言っても、悪の科学者みたいに無理矢理強制改造したのではなく、火災で大火傷を負った遙ちゃんを救うために、サイボーグにした言わば命の恩人。

「それで・・・ 何で俺、呼ばれたんだろう・・・」

 外の寒さに凍えながら、ふと思う。昨日、ポストの中に入っていた一通の手紙。送り先は、凪穂さん。内容は、22日の朝10時に駅前の○○屋という喫茶店の前で待つように、とのこと。そして、約束の時間に約束の場所で俺は待っているワケなのだが・・・

「デートじゃ、待ち合わせで彼氏が彼女が遅れてくるのを待つってのがセオリーだけど・・・ あれの許される限度って、何分までなんだ?」

 1人でブツブツ呟きながら、約束の時間をオーバーしている凪穂さんを待つ。凪穂さんには、住所と郵便番号しか教えていないから、携帯で連絡するのもできない。連絡先を教えていない理由は、正直俺の教え忘れ。探偵の癖に、俺ってよくドジるよな・・・ そんな自分が恨めしい。

「西九条くーん ごめんなさーい  お待たせー」

「はい・・・ 自分もさっき来たばかりなんで・・・」

 駅の方向からパタパタと走ってくる凪穂さん。俺は、デートでありがちな「結構待ったのに、さっき来た」という嘘をつく。いくら、今日がデートじゃないにしても、女性に心配をかけるのは、男として情けないでしょ?

「でも・・・ ちょっと顔が青ざめてるわよ? 大丈夫?」

「大丈夫ッス・・・」

「取りあえず、お店に入ろっか」

「ウッス・・・」

 今日は、今季一番の冷え込みだって、天気予報でやってたな・・・ まさに予報的中。その寒さのせいで、俺はかなり凍えていた。




「はぁ・・・ 生き返る・・・」

 やっと、暖房の入ったお店に入れて、幸せ。今までの寒い中待った地獄のような10分が、どんどん消えていくような気がした。その後、俺たちはホットコーヒーを飲みながら、談話していた。

「ごめんなさいね。遙の破損パーツを弄っていたら、時間を忘れちゃってて・・・」

「いや、イイッスよ。それで・・・俺を呼んだ理由は何ですか?」

 俺は、呼び出しの理由を彼女に問う。

「えっと・・・ この間の件覚えている?」

「まあ・・・はい」

 凪穂さんの言う「この間の件」。それは、この間、彼女と遙ちゃんの家にお邪魔した時に約束した話。次の怪盗マリオネットの獲物を無事に守りきったら、俺の勝ち。遙ちゃんは怪盗マリオネットを引退し、普通の女の子としての生活を送ること。しかし、獲物を奪われてしまったら、俺の負け。俺は、遙ちゃんの行為を止めさせることができなくなる。と言う、一種のゲーム。ゲームと言っても、俺も遙ちゃんも互いに大切なコトを守るための闘いなので、決して軽い物ではない。

「それで、今回のターゲットはここ」

 そう言って、凪穂さんは二枚の写真を取り出す。一つは、大きな建物の写真。もう一つは、その建物の上空写真。とても広い工場のような建物。そんじょそこらの大学の敷地よりも大きいことが分かる。

「玉造電気工業・・・の写真ですか?」

「そう。流石は、東大卒の天才探偵クンね」

 凪穂さんは、そうやって言っているが、別に俺が東大にいたから知っていたというワケではない。それに、俺は東大中退だし・・・

 玉造電気工業は、この辺りではとても大きな工場を構えている会社で、ロボット産業に力を入れており、その実力は世界レベルに匹敵するほど。ただ、何故今回のターゲットが玉造電気工業の本社工場なのだろうか。

「今回のターゲットは、玉造電気工業の極秘資料よ」

「極秘資料・・・ですか?」

 彼女の言う「極秘資料」という言葉に非常に興味をそそられる。

「実は、玉造電気工業は表では、ロボット開発やエレクトロニック技術を売りにしているけど、裏では兵器開発をこっそりやっているらしいのよ」

「・・・え?」

 俺は、彼女の言っていることを疑った。

「あなたも知っていると思うけど、この国では海外輸出用の兵器開発は禁止されているってことを。それをこの会社はやっているのよ」

 凪穂さんの言うとおり、この国の法律で、海外輸出用の兵器の開発、販売、流通は禁止されている。でも、何故玉造電気工業がそれをバレないで行うことができるのだろうか、疑問に思う。

「玉造電気工業は、日本でもトップクラス、世界でもトップクラスの技術力を誇っている会社よ。それ故に、海外からの兵器の注文も結構多いの。日本政府は、海外の圧力に弱い上に、いくらか玉造電気工業からお金を頂いている。だから、政府は会社に口出しできないのよ。おまけに内部関係者は、しっかり口止めされている。だから、内部告発も考えられない。結果、外には漏れる事は殆ど無いの。まあ、私がゲットしたネタの提供者は、命を張ってでも平和を守りたいと言う勇者だったから、良かったんだけどね」

 かなり危なげな話を普通に話す凪穂さん。ただ、喫茶店の中はオバサンが結構多く、騒がしい状態だから、聞かれる心配はないけど・・・俺自身は少し心配。

「それで、警察には挑戦状を送ったんですか?」

「いいえ。警察には送ってないわ。今回は玉造の社長にだけ送っておいたわ。まあ、あそこの社長も兵器開発のことは知っているから、あたふたしているでしょう。ただ、玉造が警察に頼らない可能性は大ね」

「ちょっと待ってくださいよ! それじゃあ、俺は事件と関われないじゃないですか!?」

 今までの事件で、俺が怪盗マリオネットに関われたのは、警察が俺を頼っていたから。しかし、その警察が動けないとなると、俺は事件に関われなくなる。

「大丈夫よ。ハイ。コレ」

 そう言って、凪穂さんがバッグから取り出したのは、一着の白衣と俺の名前の書かれたカードキー。

「これは、ネタの提供者がくれたモノよ。これさえ使えば、あなたも玉造の社員になれるというワケ。まあ、玉造の社員は何百人もいるんだから、人の目での判断は難しいだろうし、コンピューターもこのカードキーがあれば、ある程度は騙すこともできるわ。それに、当日はセキュリティコンピューターにウィルスを送り込むから、大丈夫だと思うわよ。これは、西九条クンの援助でもあり、遙の援助でもあるからね」

 俺は、彼女の言っていることを、ただ聞いているだけだった。凝っているなぁ・・・ しかも、ウィルスまで送り込むなんて・・・ この人を敵に回してはダメだと思う。

「でも・・・ これって、俺自身も不法侵入で犯罪ですよね・・・ こんなことして、本当に良いのかなぁ・・・」

 少し弱気になる俺。今の今まで、犯罪なんかしたことがない。俺の人生で一番悪いことをしたと言えば、小学生の時に女子生徒と喧嘩して泣かせてしまったことくらいかな・・・ そんな俺にとって、不法侵入でもやるのは躊躇う。

「あなたにとっての遙を止めさせたいって思う気持ちはそれだけなの?」

 凪穂さんの言葉が胸にグサリと来る。

「いや・・・ そういうワケでは・・・」

「なら、そんな細かいことで優柔不断にならないの! 男なら女のために警察や法律を恐れないの! それが日本男児でしょ? 目先の恐怖にビビっていて、どうするの! あなたが本当に遙を今の仕事から辞めさせたいのなら、それくらい身体を張るのが普通じゃないかしら?」

 凪穂さんの言っていることは、筋が通っていると感じた。確かに、俺はちょっと警察や法律を恐れていたのかもしれない。それは、本当に遙ちゃんを救いたいと言う気持ちなのだろうか? いや、違う。俺は、大きなハードルを越えなければならない。それは、遙ちゃんを助けるためでもあるし、1人の漢の使命としてのことだった。

「分かりました。俺、やります。絶対に遙ちゃんを普通の生活に戻してみせます」

「そう。なら、大丈夫のようね。これで、遙もやる気が出るでしょうね。敵が強くなければ、自分も強くなれないもの。安心したわ」

 さっきまで、本気の顔をしていた凪穂さんだったが、ニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「ゲームは、クリスマスに開催。夜の8時から9時半までの間に遙が獲物を盗み出して、敷地内から無事に出られたら、遙の勝ち。9時半まで獲物を盗まれなかったり、遙が9時半までに脱出できなかったら西九条クンの勝ち。それで良いかしら?」

「ええ。わかりました」

「ありがとう。それじゃ、ここにコーヒー代を置いておくから、私は先に帰るわね」

 そう言って、彼女は店を先に出て行った。彼女が置いていったお金は80円。どう考えても、コーヒー一杯分より少ない。仕方なく、俺は切り詰め状態の財布の中から俺と凪穂さんの分のコーヒー代を払い、家路へ急いだ。ちなみに、俺は後になっても凪穂さんにコーヒー代を請求はしなかった。

 何てったって後が怖いから・・・




怪盗マリオネットとの直接対決まであと3日。



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