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第五話 互いの思い  [栄作サイド]

「うー・・・寒いなぁ・・・」

 俺は相棒?のホームズと一緒にY市民公園の青いベンチで少女を待つ。

 まさかの展開だった。怪盗マリオネットから俺に接触を持ちかけてくるとは・・・ 思いもよらなかったなぁ・・・ というより、まさか俺と話してくれるなんて、ちょっと驚いた。


『あなたを信じていますから』


 ふと彼女の言った言葉が脳裏を過ぎる。怪盗マリオネットも1人の少女なんだなぁ・・・ 本人はサイボーグだって言ってたけど、やっぱり1人の少女だと思う。俺の立場は、彼女とは敵対関係にある警察側なのに・・・ 全く・・・純粋な子だよ。


ニャー


「それにしても、寒いなぁ・・・」

 ベンチで1人と一匹でいるのも寂しいものだ。昼間はそれなりに人がいる公園もこの時間帯だと誰もいない。冬の夜にベンチで猫と二人か・・・ 俺の人生も寂しいものだなぁ・・・

「そろそろ・・・だな」

 腕時計を見ると、彼女との約束の時間まであと5分だと気付く。本当に来るのか? まさか、俺を騙して公園の外で凍死させようとか、現れたとしても、俺を縄でグルグル巻きに縛って、近くの海にドボンとか・・・いやいや。そんなことはないだろう。彼女に限って、そんなことするわけないだろう・・・たぶん。そんな妄想が頭の中で広がっていく。


「お待たせ・・・しました」

 突然ベンチの裏から少女の声がしたので、ビックリして振り向く。

「き・・・君は・・・あの時の・・・」

 ベンチの裏で俺を呼んだ少女。それは、昨日の昼にホームズを助けようとしていた少女だった。

「猫の件ですが・・・ありがとうございます。しっかり世話をしてくださっていたので、安心しました」

 そう言って、彼女はペコリとお辞儀をする。

「でも、どうして君が・・・」

 俺には彼女がここにいる理由がわからなかった。というより、怪盗マリオネットを待っているのに、何故彼女が「お待たせしました」なんて言うんだ? 俺の脳みその稼働率を30%ほど上げて考える。

「怪盗マリオネットこと桜ノ宮遙です。よろしくお願いしますね。探偵さん」

 ニッコリと笑いかける少女。確かに、顔の輪郭といい、パーツといい、どこか怪盗マリオネットの顔に似ている。これは、一本取られたもんだ。

「ここじゃ寒いので、場所を移しましょう。付いて来て下さい」

「あ・・・ああ」

 動揺しながらも俺は欠伸をしているホームズを抱きかかえて、ベンチから立ち上がる。

「あと・・・ 疑っているわけじゃないのですが、一応携帯電話を預からせてください」

「ん? わかった。警察には言ってないし、言うつもりもないけど・・・ でも、君が言うなら預けるよ」

 ホームズを一旦ベンチに置いて、ポケットの中に入っている携帯電話を彼女に渡す。

「ごめんなさい。私・・・警察からかなり嫌われているので・・・」

「まあ、泥棒だからね」

 ホームズを抱きかかえ、俺と彼女は公園を後にした。




「それで、俺は言ってやったんだ。「女を捨てていく奴に、情なんかいらねぇ」ってな」

「ふふ。探偵さんって、面白いかたなんですね」

 俺は彼女と一緒に夜の住宅街を歩く。ただ、何も喋らずに歩くのはなんだから、俺の探偵業の武勇伝?を話しながら歩く。それに対して、彼女は普通に笑ってくれる。こう見ると普通の少女にしか見えない。昨晩に怪盗マリオネットとして、泥棒を演じていたなんて考えられない。そもそも、彼女の言う「サイボーグ」であることも信じられない。でも、昨晩の彼女の起こした事件は、彼女のいろいろなギミックで警察を欺いたというデータもある。人間とは思えない、いかにもロボットのギミックといつもの人間離れした運動神経で狙った獲物を見事にゲット。俺も生で何回も見ているが、あの姿と運動神経は人間とは思えない。でも、その少女の正体が俺の横にいる少女だと言うのは、俄かに信じがたい。

「君は・・・本当に怪盗マリオネットなのかい?」

 やはり、気になるので少女にもう一度訊く。何かのドッキリ・・・の可能性だって全く無いということは無い。

「本当です。サイボーグであるのも本当ですよ」

「うーん・・・ 君のような可愛らしい子がサイボーグだなんて・・・ちょっと考えられないなぁ・・・」

「ふふ・・・ でも、これが現実なんですよ。さて。ここが私の家です」

 話をしているうちに、彼女の家の前に着く。見た感じ、普通の家。サイボーグだから、どこかの秘密基地みたいなところに連れて行かれるかと思っていたけど・・・ しかし、家の表札は彼女の苗字「桜ノ宮」ではなく、「京橋」と書かれている。

「家って言っても、私は居候の身なんですけどね。さあ。入ってください。温かいお飲み物を用意しますので」

 そう言って、彼女は家のドアを開ける。すると、開かれたドアの先には眼鏡をかけた白衣の美女がいた。

「いらっしゃい。ちょっと散らかってるけど、気にしないでちょうだい。探偵クン」

「は・・・はあ・・・」

 渋々、俺は彼女たちの誘いで家の中に入って行ってしまう。




「探偵クンはお茶とコーヒー。どっちがいい?」

「あ。じゃあ、コーヒーで」

 俺は彼女たちの家の中にあるいかにも「研究室」というような部屋の椅子に座っている。どこかくつろげないムードの部屋だなぁ・・・

「私は、京橋凪穂。遙の里親よ」

「えっと・・・西九条栄作です」

 俺は、凪穂さんに一礼する。

「なかなかのイイ男ね。頭脳明晰っぽい顔に探偵らしい冷静さを持っている顔。遙が目を付ける気持ちが分かるわ」

 そう言って、凪穂さんは俺にコーヒーを渡してくれる。

「あの・・・ 怒らないんですか?」

「ん?」

「いや・・・ 遙ちゃんを怒らないんですか?」

「?」

 俺の質問に、凪穂さんは首を傾げる。ちなみに遙ちゃんは、野暮用で部屋にいない。

「俺・・・警察側の人間ですよ? そんな人間をここに連れてくるなんて、かなり危ないことだと思います。それを許しちゃって良いんですか?」

 俺は思い切って、さっきから気になっていたことを凪穂さんにぶつけてみる。何故、警察に通報されるリスクを負うのに俺を呼んだのか。俺を呼んでも彼女たちには全くメリットがないのに、何故呼んだのか。そして、遙ちゃんが独断で決めたことに、凪穂さんは何故怒らないのか不思議で不思議で溜まらなかった。

「じゃあ、あなたは警察に通報するつもりだったの?」

 軽く答える凪穂さん。

「いや・・・ 通報はしないです」

「そう。なら、別にいいじゃない。西九条クンが警察側の人間であれ、通報しないならOKなのよ。私たちはそう信じてたから」

「でも・・・」

「それに、私は遙を操り人形にしたくない。遙が決めたことだから、私に止める権利も無いし、彼女を叱る理由も無い。わかった?」

 凪穂さんって、凄く若いのにしっかりした育成論を持っているなぁ・・・ 彼女が遙ちゃんの里親で本当に良かったと思う。

「怪盗マリオネットになるのも彼女の意思。決して、私が「やれ!」って言ったわけじゃないのよ。正直言って、驚いたわ・・・突然、「泥棒になりたい!」だなんて言い出すんだもの・・・」

 その後、凪穂さんから遙ちゃんが怪盗マリオネットになるまでの経緯、サイボーグになるまでの経緯を説明してもらった。なんだか、彼女の生い立ちそのものに同情するなぁ・・・ あと、漫画に影響されて泥棒をやりたいと言い出すなんてところからは、彼女の純粋さを感じる。


コンコン


「博士。準備の方が整いましたよ」

 ドアの向こうから遙ちゃんの声が聞こえた。

「わかった~。それじゃ、部屋を変えましょう。西九条クンは、まだ遙がマリオネットだってことを信じていないんでしょ?」

「えっと・・・まあ・・・」

 図星。正直、まだ遙ちゃんがサイボーグであるどころか、怪盗マリオネットであることも信じがたい。

「付いて来て。これで信じてもらえるでしょうから」

 俺は凪穂さんに言われて、散らかった部屋を後にした。





「ここ・・・は?」

 俺が入った部屋は、さっきの「研究室」よりも乱雑した部屋。怪しげな機械がたくさんあり、地面のあらゆるところにコードが張り巡らされている。

「ここは、メンテナンスルーム。遙がマリオネットに変身する場所、といっても良いわ」

 そんな暗く怪しげな部屋を俺たち3人は歩き続ける。

「これは・・・」

 暗い部屋の先で俺が見つけたもの。それは、椅子に座らされた怪盗マリオネットの身体。しかし、首の部分にはコードが繋がれているだけで、あの綺麗な少女らしい顔は見当たらない。

「それじゃ、遙。準備の方、よろしく」

「はい」

 遙ちゃんは、首なしのマリオネットのボディの横にある椅子に座る。凪穂さんは、首なしのボディの首の部分に繋がっているコードを抜き、その後近くのパソコンを弄りだす。

「遙。接続の準備をして頂戴」

「わかりました」

 すると、遙ちゃんは目を瞑って、何か呪文を唱えるようにぶつぶつと呟く。その間に、ロボットアームが上から降りてきて、彼女の頭部を掴む。

「ロックの解除が終わりました」

「わかったわ。それじゃあ、接続作業に入るわよ」

 カチリという何かが外れる音が遙ちゃんの身体から聞こえた後、俺は度肝を抜かれる光景を目の当たりにする。

「あ・・・あ・・・」

 俺の目にした光景。それは、遙ちゃんの首から上がロボットアームに持ち上げられて、横の黒い機体に向かって移動しているという、なんとも考えられないものだった。あまりの光景に、今、夢を見ているのかどうかも確かめれないほど、絶句していた。

「接続の作業が終わりました」

 彼女の首がマリオネット用の黒い機体に接続されると、その身体で立ち上がり、手を動かしたり、跳ねてみたりする。さっきまでの彼女の身体は、首から上の部分を失い、ぐったりとしている。

「調子の方はどう?」

「いつも通りです」

 今まで普通の女の子のように見えていたが、こうやって見ると確かに怪盗マリオネットだ。しかも、目の前で実演付き。俺はあまりの衝撃的出来事に開いた口が塞がらない状態。

「あれ? 探偵さん? 大丈夫ですか?」

「西九条くーん 西九条くーん」

 俺は気を失っていた。二人が俺を呼んでいるのに、俺はそれに応えることはできなかった。




「ん? あれ?」

「探偵さん? 大丈夫ですか?」

 俺の目が覚めた時、目の前にいたのは、遙ちゃんだった。しかも、マリオネットのボディで。

「信じて・・・もらえましたか?」

「あ・・・ああ」

 信じるも何も、あんな実演をされたら、信じないわけにいかない。TVで見たマジックショーとはワケが違う。どう考えても、あれはマジックなんかじゃない。

「君は、どうして俺に正体を明かしたんだ? 俺は警察側の人間なんだぞ?」

 さっき凪穂さんに訊いたことを遙ちゃんにも訊いてみる。彼女が何故、俺を呼んでまで正体を明かしたのか・・・ その答えが全く思いつかなかった。

「えっと・・・ あなたが根っから悪い人じゃないと思ったからです」

「え?」

 彼女の予想外の言葉に俺は驚いた。

「お仕事中の探偵さんは、私を捕まえるために必死で、私からしたらちょっと嫌な存在でした。でも、昨晩の件で、探偵さんが自分のために私を追っていたのではなく、私の為に追っていたということがわかって・・・ そんな人なら、私の正体を明かしてもいいかなって思って・・・ それに、猫も助けてくれた人ですし・・・」

「・・・」

 俺って、そんな風に思われていたのか・・・ 今まで気付かなかったなぁ。

「えっと・・・ それじゃあ、本題に入るが・・・ お願いだ。怪盗マリオネットを引退してくれ!」

「それは、できません!」

 きっぱりと俺のお願いは、打ち破られる。しかし、俺もここで引き下がってはいられない。

「君のやっていることは、犯罪だ。確かに、今までの君がターゲットにしてきた人物は、何らかの犯罪や裏の事情に手を染めていた人物ばかりだ。しかし、君がやっていたことは、いくつかの罪に当てはまる。俺は君に犯罪者になってほしくないんだ」

 一生懸命に彼女に訴える。

「探偵さんのお願いでも、それだけは聞けません」

 しかし、やっぱり断られる。

「それでは、探偵さんに訊きますが、正義ってなんですか?」

「正義・・・か?」

 逆に質問されて、俺は少し困る。まさか、こんな展開になるなんて思いもしなかったから・・・

「今の世の中は可笑しいです! 正義を名乗るべき人物が悪いことをしていて、人を欺き、傷つけ、それでも謝らない。謝っても、うわべっつらだけ。人が悪いことだと言ったら、口封じや隠蔽を重ねる。そんな人間が正義を名乗って国を経済を動かしているんですよ? そんな世界をどう思いますか?」

「・・・」

 何とも言い返すことができない。確かにその通りだ。彼女の言っていることに間違いはない。今まで、彼女の事件によって秘密を世間に晒された人たちを思い返すと、そのような人物ばかりだ。

「私1人がこんなことを訴えても、一向に運命は変わらない。だから、これくらいしないと何も動かすことはできないんですよ!」

 涙声で必死に俺に訴える彼女。残念ながら、彼女の今の身体では、涙を流すことはできないらしい。しかし、感情は声に現れている。

「私の家族は、4ヶ月前に起きた火災で亡くなりました。でも、それは事故じゃなくて、事件だったんです。後日知ったのですが、この火災は放火だったそうです。犯人も捕まえられた。でも、不起訴になって、犯人は自由の身となった。何故だかわかりますか? 犯人は、県警幹部の息子だったそうです。警察の方で事件の証拠などが揉み消され、結果不起訴となったそうです・・・ こんな正義が通ると思いますか? 私の家族を奪った人間が許されるんですよ!? お父さんもお母さんも弟の篤も帰ってこない・・・ でも、悪は正義を名乗って、許される・・・ こんな世界を私は許せないんです!!」

 俺は、彼女の言うことに何も答えることができなかった。


「話は聞かせてもらったわよ」

「博士!?」

「凪穂さん!?」

 突然、部屋の扉が開き、凪穂さんが入ってくる。しんみりしていた雰囲気が一変する。

「西九条クンは、遙に泥棒業を止めてもらいたい。そして、遙は正義の為に続けたい。そう言うことでしょ?」

「え!? ええ。まあ」

「それなら、賭けで決めない?」

「「賭け・・・ですか?」」

 思わず俺と遙ちゃんはハモってしまう。

「そう。次の怪盗マリオネットの獲物を食い止めたら、西九条クンの勝ち。遙は引退。逆に獲物を無事に奪えたら、遙の勝ち。西九条クンは、怪盗マリオネットの事件から身を引くこと。これでどう?」

 確かに、案としては良いかもしれない。でも・・・

「しかし、凪穂さん。遙ちゃんは、警察を12回も破った腕の持ち主ですよ! こっちが明らかに不利ですよ!」

 怪盗マリオネットは、12回連続で狙った獲物をゲットしている。そんな相手にハンデなしは、かなり辛い。

「実は、かなり良い獲物を仕入れてきたのよねー。今回の獲物は、遙でもかなり難しいから、西九条クンにとっても良いハンデになると思うわよ。もちろん、警察に手伝ってもらってもOK。どう? 良い条件だと思うけど」

 ハンデか・・・ 確かに、ハンデありなら同等に彼女と戦えそうだけど・・・ 大丈夫かなぁ・・・

「私、やります!」

 答えを先に出したのは、遙ちゃんだった。

「怪盗マリオネットに盗めない物は、ありません! 今回の悪事もしっかり裁かせていただきます!」

 遙ちゃんはやる気満々。まあ、連続で成功しているから、そのやる気はどことなくわかるけど、連敗の側からしたら・・・ ちょっとなぁ・・・

「一応、断っておくけど、私は遙に泥棒業を続けさせたいから、グルになっているというのは無いからね。その点は理解して頂戴」

「は、はぁ・・・」

 もし、凪穂さんがグルになっていなくても、勝てるかどうかは微妙なところだ。今の警察の力では、本当に勝てるのだろうか・・・ しかし、このチャンスを逃したら、後は無くなるだろう。どうする・・・どうするよ・・・

「わかりました。探偵西九条栄作。この勝負受けて立ちましょう!」

 決めた! 俺は一世一代の大勝負に出ることにした! 男ならこの勝負、勝ってみせる!

「ありがとう。それじゃあ、後日警察とあなたの事務所に手紙を送っておくから、その日まで待っててね」

「わかりました。絶対にこの勝負、負けないからな」

「私もです! 正義は絶対に負けませんから!」

 こうして、俺は怪盗マリオネットと対決することになった。勝つのは、俺? それとも遙ちゃん? どちらにせよ、俺はこの勝負には負けられない!俺のプライドの名に賭けて!!


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