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第四話 対決

<Haruka side>


カチャリ


 私の頭部と首から下の部分が切り離され、いつもの仕事用の身体に接続される。黒の金属表皮に赤のラインの入った私の身体。これが、私の作業服。・・・訂正。作業ボディ。

「今日のターゲットは・・・ わかってる?」

「大正菊輔。表では、大物政治家として名を知らしめているが、裏では賄賂、横領、談合などに手を出している悪徳政治家」

 私の視界に今日のターゲットの情報が表示される。

「そうね。それに付け加えるとしたら、国民から集めた税金を自分のスキャンダルに注ぎ込む国民の敵・・・ 許されることじゃないわね」

「ええ」

 私は京橋博士に頷く。今日の獲物は、政治家大正菊輔の真珠のアクセサリーセット。京橋博士の情報によると、この真珠のアクセサリーセットは、愛人へのプレゼント。そして、このアクセサリーセットは税金を横領して購入したものらしい。このような情報は、博士の関係者の情報屋から仕入れているらしい。この情報屋の情報は今のところは百パーセント当たっている。

「今回も警察の目は厳しくなっているらしいわ。気をつけなさいよ」

「はい」

 私は今から泥棒として働く。それなら、何故いちいち捕まるリスクを増やすための警察を呼ぶのか。それは、私が「物を盗む」ために盗みに入るのではなく、悪事をばらす為に盗みに入るからだ。警察にやってもらうのは、ターゲットの悪事を調査、そしてターゲットの逮捕。それが彼らの役目。だから、ターゲットが逮捕されれば、私たちは盗んだものは返している。本当の持ち主にね。本当の持ち主が

いない場合は、警察を通して福祉施設に寄付させている。これには、ちょっとしたカラクリがあって、盗んだものと一緒に警察の幹部のヤバイ情報と一緒に送る。寄付をしなかったら、情報を暴露すると添えてね。最初は巧くいかないと思っていたけど、警察と言う組織の官僚体制というか、自分の身を守るための根性というか・・・そんな感じで、今のところは巧くいっている。ただ、私が引退するときに

なったら、この情報も晒さないといけないと思う。だって、私は正義のためにやっているお仕事なんだから、悪事は見逃せないし。

「前回のお仕事で、左足部分のパーツに損傷が出ていたわ。一応、修理しておいたけど、無茶しちゃダメよ」

「わかってます。それでは、行って来ます」

「ええ。行ってらっしゃい」

 漆黒のボディが月の光に照らされ、綺麗に輝く。でも、大体ビルの上を跳んでいったりするから、人の目には留まらないんだけどね。

 こうして、私は夜の仕事に出かけた。




「ふーん。今日は和風の豪邸がターゲットか」

 大正菊輔の家は、平屋建ての大豪邸。日本庭園をイメージさせた大きな庭とそれを囲う高い塀。そして、とても大きな邸宅。これが国民の血税で造られているのなら、許されないことだ。

「今回もあの探偵さんはいるね」

 義眼をズームさせると、入り口のところにあの探偵さんがいることが分かった。あと、親父警部も。

「あの時、ネコを助けてもらったのは嬉しかったけど・・・ でも、仕事となれば話は別だからね」

 そして、私はバイザーを掛けて、大正邸が見渡せるビルから飛び降り、仕事場へと向かった。






<Eisaku side>


「今日こそは、あの憎き泥棒ネコを捕まえてやる」

 芦原橋警部は、事件が起こる前からやる気満々。そりゃ、11連敗を喫しているから、警察としての面子も危ういだろう。

「ところで、西九条君。彼女は誰かね?」

 そう言って、芦原橋警部は俺の助手を指差す。

「彼女は天王寺かなた。ボクの助手兼秘書です」

「よろしくお願いします。警部」

 彼女は警部に対して一礼。

「しかしだが・・・ そのネコはどうしたんだ?」

 芦原橋警部はかなたの抱いている子猫を指差す。

「このネコは、今日のお昼に拾ったんですよ。名前はホームズ。随分とボクに懐いちゃって・・・ 事務所に置いていこうとしたら、コーヒーカップを4つ割られちゃいまして、しょうがないので連れて来ました。お仕事には邪魔をさせないようにしますので、どうかよろしくお願いします」

 ホームズは、俺に凄く懐いてしまった。俺自身、子猫は好きだから悪い気はしないが、仕事で出かけるため、事務所に置いていったら、コーヒーカップを落とされて・・・ これ以上の損害を出さないために、ホームズの面倒をかなたに任せながらの出勤というわけだ。

「まあ、迷惑をかけなければいいが・・・ 今回の配置は大丈夫なのかね?」

 またも、眉唾顔で俺に問いかける警部。そんなに疑うなら、アンタが考えろ!っと言いたいところだが、言ってしまったら、怪盗マリオネットの事件に関われなくなるから、心の奥底に穴を掘って埋めておく。

「ええ。今回こそは、絶対に彼女を捕まえれるように配置してありますので」

 とは言っても、俺自身は彼女の逮捕に興味なんかない。ただ、彼女の正体を知って、彼女にこのような悪事はもう止める様に言うこと。それが俺の目的。だから、本格的に捕まえる配置ではなく、彼女を追い詰める配置を考えたのだ。もちろん、そんなことは口が裂けても言えないが。

「警部! 怪盗マリオネットが現れました!」

 1人の女性警官が芦原橋警部に向かって叫ぶ。

「出たな。泥棒ネコ。よし! 全員配置に就け! 今日こそはアイツの正体を世間に晒してやる!」

 相変わらず悪役っぽい警部さんだこと。アニメだったら、こういう役は大体悪役なんだがな・・・ 警察って正義の味方だろ? 世の中可笑しな物だ。

「それじゃ、ボクも配置に就きますので」

「今日は一緒じゃないのかね?」

 今日は珍しく、警部との行動を避ける。これも一つの作戦ですから・・・

「ええ。今回はボク自身にも配置がありますので。それでは、失礼します」

 そう言って、俺は警部とは別の行動をとる。

「それじゃ、行くぞ」

 警部もさっきの女性警官とともにターゲットの在り処へ急ぐ。今回の怪盗マリオネットの獲物「真珠のアクセサリーセット」の在り処は、警部と俺しか場所を知らない。それに、警官の配置も獲物が分からないように配置してあるから、彼女には絶対に分からないはずだ。彼女が探し回ってるうちに、何とか彼女と出会って話を機会を作る。それが今回の作戦だ。





「さあ。何処だ? あの泥棒ネコめ」

 1人の女性警官とともに、広い大正邸を歩き回る中年警部。

「大変です! 警部! 怪盗マリオネットが獲物を奪ったようです!」

 女性警官にかかってきた一本の電話。それは、マリオネットが見事獲物を獲得したという情報だった。

「クソッ! 取り敢えず、獲物のある部屋に行くぞ!」

「あ、ハイッ!」

 中年警部の表情は焦りと怒りで溢れていた。いとも簡単に秘密の場所に隠してあった真珠のアクセサリーセットを見つけ出した怪盗マリオネット。折角、考えた作戦が水の泡になってしまった。その焦りと怒りが彼を追い詰める。

「どこだ! 怪盗マリオネット!」

 中年警部がやってきたのは、大正邸の一番中央にある畳張りの大広間。

「警部。一度、盗まれたかどうか確かめてみてはいかがでしょうか? 私が受けた情報もデマの可能性がありますし・・・」

 女性警官は心配そうに警部に問う。

「そうだな。一応、確かめてみよう」

 そう言って、中年警部は部屋の中央にある畳を持ち上げる。すると、そこには隠し金庫があった。中年警部は、金庫に鍵を差し込み、金庫の扉を開ける。

「・・・入っている。まだ、獲物は盗まれていないぞ! どういうことだ!」

 隠し金庫の中には、真珠のアクセサリーセットの入ったカバンが入っていた。つまり、女性警官が受け取った情報は嘘だった。

「どういうことと言われましても・・・こういうことですよ」

 突然、女性警官の真面目な顔が妖しげな笑みに変わる。

「ま・・・まさか・・・」

 中年警部に嫌な予感が過ぎる。

「そうですね。警部さんの思っているとおりです」

 そう言って、女性警官は一気に着ていた制服を破り捨てる。

「怪盗マリオネット ただ今参りました」

 女性警官の招待は、1人の高校生くらいの少女。しかし、少女の身体は漆黒の金属でできており、人間らしさよりは、ロボットらしさを醸し出している。

「女性警官に化けていたとはな・・・」

 中年警部の額に冷や汗が垂れる。彼の予感は見事に当たっていた。しかし、時既に遅し。彼女に獲物の場所を自分で教えてしまったのだ。その自分自身の愚かさに後悔する。

「それでは、ちょっと眠っていてくださいね」

 そう言って、マリオネットは警部に向かって手をかざす。


プシュー


 彼女の手首から催涙ガスが噴出。ガスは警部の顔にかかり、一瞬で中年警部の意識は飛んでしまう。

「それじゃ、今回もいただきますね」

 操り人形のプリントがされたジョーカーのトランプカードを気を失っている警部のポケットに入れ、獲物の入ったカバンを持ち去っていく。


ビービービー


「何?」

 部屋を出ようとした時に、突然鳴り響く警報機の音。

「なるほど。この部屋を出た瞬間に、警報が感知するということね。随分と凝っているものですね」

 警察の進歩振りに少し感心するマリオネット。

「いたぞー!」

 そこに登場する何人もの警官たち。

「余裕はナシ・・・ってことか」

 そして、怪盗マリオネットは警官たちとは逆の方向へと逃げていく。





『所長。怪盗マリオネットが警報に引っ掛かったようです』

 かなたからの電話だ。

「ああ。分かった。今の現在地と向かっている方向はわかるか?」

『現在、東北東の方向に向かって逃走中。あと、1分ほどで邸宅を抜け出せると考えられます。うまく抜け出した場合は裏山に逃げられる可能性があります』

「分かった。取り敢えず、君は庭から彼女が逃げるまで見張っていてくれ」

 そう言って、俺はかなたとの通話を切る。

「さて。出陣しますか」

 庭に停めてある俺の愛車・・・と言っても、中古ショップで買った原付バイクなのだが。その愛車に跨り、エンジンをかける。

「今日こそ負けねえぞ」

 そして、原付に乗って、大正邸の裏山の方向へと向かう。俺の目的は、彼女を追跡すること。警察は炙り出しのための道具に過ぎない。あっちは、俺を利用していると思っているが、俺は警察を利用している。まあ、頭の出来が違うということだな。もちろん、これも口が裂けても言えない事だが。






<Haruka side>


「このまま行けば、裏山に逃げ込めそう。計画は順調ね」

 視界の一部に表示されている、大正邸の見取り図。そして、その見取り図には赤い点が右斜め上の方向へと移動している。この赤い点は私の現在地点。順調に行けば、巧く逃げ出せそう。

「さてと、それでは行きますか」

 外と部屋との境界となる襖を開ける。すると、大きな庭が広がっており、その先に目的地の裏庭が見える。

「この難関を突破しないとね」

 大きな庭にはたくさんの警官が私を待っていたと言わんばかりに待ち構えていた。

「でも、予想済み」

 私は右胸のハッチを開けて、一つの白色の球を取り出す。

「残念」

 そう言って、白色の球を地面に向かって、投げつける。すると、白色の球は眩い光を放ち、警官たちの目を晦ませる。そして、そのうちに私は警官のいない場所を翔っていく。高い塀に近づくと、大きくジャンプ。人間業とは思えないジャンプ力で、高い塀を飛び越える。

「ちょっと、手ごたえアリかな? でも、私を捕まえるには不十分ね」

 誰もいない裏山に入ろうとした。その時だった。

「待て!」

 聞いたことのある青年の声に、私の聴覚センサーが反応する。

「誰?」

 周りを見渡すが、見たところ誰もいない。一応、私の義眼は赤外線モードにもなるから、暗闇にも対応できるんだけど・・・

「俺の顔を覚えていないかい?」

 木の陰から出てきたのは、2回目以降の仕事で警察側に就いていた探偵さん。そして、今日のお昼に子猫を助けてくれた青年。つまり、あの探偵さんだ。

「探偵・・・さん?」

「ああ。その通り」

 私の質問にクールに答える探偵さん。

「それなら、話は早いです。私はあなたに捕まりたくないので」

 そう言って、私は裏山の奥の方向へ逃げようとする。

「待ってくれ!」

 探偵さんにそう言われて、思わず身体が止まってしまう。

「俺は警察と違って、君を捕まえようなんて思っちゃいない! だから、待ってくれ!」

「なら、どうして私を捕まえようとする警察に手を貸すのですか?」

 私は立ち止まり、彼に向かって質問する。

「君を・・・君を助けるためだ」

「え!?」

 彼の言葉は予想外だった。私を助けるため? どういうことなの?

「俺は君にこのような悪事を止めて欲しいんだ。できれば、普通の女性として、幸せに生きて欲しい。だから、俺は君と話がしたくて・・・」

「私は今の生き方に後悔はしていません!」

 彼の言葉を遮るように、私は力強く主張する。

「私は、この世の悪事を働く人たちが許せないんです。これは、私なりの天誅なんです!」

「しかし・・・」

 暫く、二人の間に静かな空気が漂う。


「探偵さんは、私の身体が変なのは気付きませんか?」

 私は探偵さんに私の身体について訊いてみる。

「ああ。少女としての顔つきにしては、少し立派な身体だな」

 フォローをしているつもりなのだろうか・・・ しかし、彼の言葉はフォローになっていない。

「私は、こんな身体ですけど、元人間です」

「え!?」

 驚きの表情を隠せない探偵さん。

「サイボーグ・・・って知ってます?」

「ん? ああ。人の身体を機械の身体に置き換えることだろ?」

「はい。私はサイボーグです。機械の身体なんです。普通に生きていこうと思っても不可能なんです・・・」

 何故か、心臓も無い身体なのに胸が痛くなる。涙も出ない身体なのに、目頭が熱くなる感じがした。

「だが・・・君は・・・」


ニャー


 そこに一匹の子猫が私に近づいてくる。

「ホームズ!」

「ホームズ?」

 ホームズと呼ばれた子猫は、今日のお昼に探偵さんが拾っていった猫だった。この子猫は私の足元までくると、私の足元で丸くなってしまう。

「珍しいな。ホームズが俺以外の人に懐くなんて・・・」

 どうやら、私はこの猫に懐かれてしまったようだ。やっぱりお昼のことをこの猫は覚えているのだろうか・・・

「いたぞー!」

 彼が話そうとしている途中で、警官の1人に見つかる。

「明日の夜の8時。Y市市民公園の青色のベンチ。私のことが知りたいなら、警察は呼ばないで来て下さい。あなたを信じていますから。あと、この子猫はお返しします」

 私は子猫を抱きかかえ、彼に渡す。

「狙った獲物以外は、盗まない主義なんで」

 そう言って、私は彼に微笑んで、裏山の奥へ翔って行った。

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