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第三話 遙の正義  [遙サイド]

「ただいまもどりました」

 周りをコンクリートの壁で覆われた無機質な部屋。そして、部屋のいたるところに怪しげな機械がある。

「おかえりなさい」

 1人の眼鏡をかけた白衣の女性が私を迎えてくれる。私は帰ってきたのだ。今日も無事に。

「ところであのパーツどうだった?」

「とても気持ちよかったです。空を飛ぶなんて、普通の人間じゃできないことですし。それに、私の家って、貧乏だったから飛行機にだって乗れなかったですし」

「暗い顔しないの! さあ。そっちの身体のメンテするから、プライベートモードに移って、休みなさい」

「はい」

 そうして、私は怪しげな機械が周りに置いてある椅子に座る。その横には、頭部のない女性の身体が椅子に座らせてある。といっても、首の部分からは、コードなどの接続部分が見えている。その部分は、大切な部分なので、透明のカバーで覆われている。そのカバーも白衣の女性が取り外す。

「それじゃあ、頭部の切り離しをするから、そっちで接続解除と補助の生命維持装置の起動をお願い」

「わかりました」

 そう言って、私は目を瞑り、いくつかのオプション設定を弄る。


≪補助生命維持装置起動≫


≪頭部接続解除≫


 私の視界に赤い文字が現れる。すると、私の首から下が動かなくなる。

「ロボットアーム起動」

 白衣の女性がパソコンを操作すると、上から大きなUFOキャッチャーのアームのような物が降りてくる。そして、私の頭の部分を掴む。

「頭部切り離し作業開始」

 そして、私の首から上は持ち上がる。何とも不思議な光景だ。首から下は感覚がないし、首だけぶら下がっているような感覚がする。ロボットアームにぶら下げられると、私の視界は横にスライドする。

「プライベートボディに接続」

 白衣の女性がそう言って、パソコンを弄ると、私の首は段々下に下がっていき、カチリという音がした。

「それじゃあ、接続の作業に入って」

「はい」

 そして、私は目を瞑って、またオプションの設定を弄る。


≪頭部接続完了≫


≪主生命維持装置起動 補助生命維持装置から主生命維持装置に切り替えました≫


 またも、私の視界に文字が現れる。

「お疲れ様。休憩に入ってちょうだい」

「ありがとうございます」

 そう言って、私は腰を上げる。さっきまで使っていた漆黒のボディは、横で頭部がないまま椅子に座っている。

「こっちのボディはメンテしておくから。ストレスには気をつけなさいよ。いくら、機械の身体でも頭は人間なんだから」

「それでは、おやすみなさい」

 そう言って、私は無機質な部屋を出た。




 私の名前は桜ノさくらのみやはるか。昼は高校生として、学校生活を普通に送る女子高生。でも、夜は月光に照らされた黒いボディで、世間の悪党を懲らしめる怪盗マリオネットを演じている。といっても、毎晩泥棒をしているワケじゃないし、私の都合で定休日の日もある。

 私の身体は機械でできている。でも、思考部分は生身の脳みそを使っている。所謂、サイボーグというものだ。私が機械の身体になったのは、4ヶ月前のことだった。私の家はとても貧しい家で、お父さんとお母さん、弟のあつしの四人暮らし。貧しい生活だけど、楽しい毎日だった。ある日、私は大切な家族と家、そして、私自身の身体を失った。私の家は、火災に遭い、私の家族は全員焼死。私は全身にやけどを負いながらも、何とか外に出ることができた。しかし、その姿はとても醜い身体だった。数十分前は、1人の少女だったとは思えないほど、全身が損傷し、生きているのが不思議な程だった。

 そこに、偶然1人の女性が通りかかったのだ。女性の名前は、京橋凪穂きょうばし なぎほ。彼女はサイボーグ研究に非常に優れており、二十代という若さで、数々の博士号をとった大天才だった。そんな彼女が、私を助けてくれたのだ。私は、大火傷を負った生身の身体を捨て、機械の身体という新しい身体で生活することとなった。最初は凄く嫌だった。生身と違った機械としての感覚は、私に多大なストレスを抱えさせ、一時期は死にたいと思っていた。でも、凪穂博士のサポートのお陰で、機械の身体で過ごす事も然程嫌ではなくなった。私が新しい身体になってからは、凪穂博士の家で居候している。というより、私には帰る家がないのだ。今までの家は燃えてなくなってしまい、私には帰る家がない。そこで、京橋博士は、自身の家・・・というより、ラボで生活するように勧めてくれたのだ。

 京橋博士はクールでキレる頭の持ち主だが、性格はとても温かい人だ。いや、熱すぎると言ってもいいかもしれない。困っている人は放っておけない。それが、大天才の凪穂博士の主義ならしい。そして、彼女のもう一つの変わった点。それは・・・

「うわぁ・・・ 凄い漫画の数ですね」

 凪穂博士は根っからの漫画オタクだ。サイボーグの発想も。漫画から得たアイディアならしく、彼女曰く、漫画が無ければ、私はただの科学オタクで終わっていた、とのこと。でも、初めて博士の漫画本の部屋に行った時は驚いたな・・・ 私の家は貧乏で、家電製品も充実していない。テレビなんて一台しかなかったし・・・ もちろん、漫画なんて持っていなかった。だから、博士の漫画の数にはかなり驚いた。

「でしょ? 特に私のオススメはコレ」

 そう言って、博士から渡された一冊の漫画本。

「『怪盗 ナイトライナー』・・・?」

 その漫画本には、1人の少女が黒と白のひらひらした衣装で、屋根の上を走っている表紙が一番最初に目に留まった。絵柄は、いかにも萌え~という感じの絵柄。ある層には、人気の高そうな漫画本。

「この漫画はね、泥棒だけれど正義の味方。市民、庶民、いや、弱いものの味方の少女が主人公の漫画なの。中身も面白いから、読んでみなさい」

 といって、私は凪穂博士にこの漫画本を薦められた。絵柄もそっち系だし、ストーリーも泥棒が主人公の漫画だから、最初は気が進まなかった。でも、読んでいく内にそのストーリーの虜になってしまった。1人の少女が悪徳政治家や悪徳商法を働く悪人たちから、その悪人に奪われた

物品を取り返すというストーリーで、ラブストーリーあり、コメディあり、シリアスありのとても奥の深い漫画だった。そして、私自身、この漫画の主人公のようになりたい。そう思い始めたのだった。

「博士。私も『ナイトライナー』みたいな弱者の味方になりたいです!」

 ついつい感情が高ぶってしまって、博士にお願いをしてしまった私。

「・・・でも、あれはフィクションの話しだし、泥棒は犯罪よ? その覚悟はできてるの?」

 真面目な顔で博士は私に問う。

「もちろんです。私がこの身体になったのも何かの縁かもしれないのです。どうせ、人間以上の能力をもっているなら、それを活かしたいです!」

 必死に私は博士に訴えた。そして・・・

「分かったわ。あなたの熱意には、負けたわ。でも、私自身もナイトライナーには憧れていたから・・・ 協力するわね」

 博士は私のお願いをOKしてくれた。本当に嬉しかった。




 そして数日後。

「遙。約束のものができたわよ」

 突然、博士は私をラボに連れてくる。メンテナンス以外はこの部屋には来ないんだけど・・・ メンテナンスは昨日やったばかりだし・・・

「じゃーん。これが、あなたのもう一つの身体よ」

 博士がシーツを取ると、そこには黒いボディに赤いラインの入った女性の首の無い身体があった。胸もまあまああるし、しっかりくびれも分かるほど、スタイルの良い黒い機械の身体。

「これは・・・」

「あなたの新しい身体よ。怪盗ナイトライナーに合わせて、黒いボディにしてみたの。ちょっとオリジナル感を出して、赤いラインも付けてみたわ。あと、予算の関係もあって、機械の身体ってのが分かっちゃうのは、勘弁してね」

「ありがとうございます! すっごくカッコいいです」

 私は博士の作ってくれた新しい身体に惚れていた。そして、早速、頭部を外して、新しい身体にジョイントさせる。

「思ったより軽いですね」

 新しい身体は、思っていたより軽かった。というより、いつも使っているボディよりも動きやすかった。

「いつも使っているあなたのボディより、人工筋肉やモーターを強化させたの。その他に、泥棒には役立つパーツも仕込んでおいたから」

「ありがとうございます。これで、私も正義の味方ですね」

「ええ。でも・・・名前はどうする? ナイトライナーみたいなカッコ良い名前・・・私は思いつかないわよ?」

「うーん・・・ そうですね・・・」

 私は頭の中の単語を総動員させて、アイディアを考える。

「マリオネット・・・」

「え?」

「マリオネットなんて、どうですか? 私の身体って、機械でできているから、人形に例えてマリオネット。怪盗マリオネットというのは・・・」

 突然頭に浮かんだのは、マリオネットだった。私自身の身体を人形に例えてみて、思いついたアイディア。

「なるほどね。カッコいいじゃない。でも、あなたは大丈夫なの? 自分で自分をを人形呼ばわりするのよ?」

「いえ。大丈夫です。もう、この身体には慣れていますし・・・ それに、この身体でしかできないこともあると思います。それなら、この身体をネガティブに考えるのではなく、ポジティブに考えてみた方が良いのでしょうか?」

「確かにね。それじゃ、怪盗マリオネット。活動開始としますか」

 こうして、この世界に1人だけの機械の身体を持った泥棒。怪盗マリオネットが誕生したのだった。




 天満金融の社長宅に忍び込んだ日の翌日。

「ごめんね。私はあなたを助けられないの。ごめんね」

 博士に頼まれた部品を買って帰る途中、私は一匹の捨てネコを見つけた。とても可愛らしい子猫。どうにかしてやりたいけど、博士が飼うのを許してくれるかどうか・・・ それに、何だかお腹を空かせているようだ。食べ物を必要としない私の身体。だから、食料なんて持っているはずがない。といっても、生身の人間でもそうそう食べ物を持ち歩いている人は、限定されるが・・・

「どうしたんだ?」

 突然後ろから男の人の声がしたので、振り返ってみる。すると、茶色のコートを着込んだ若い男性が立っていた。歳は、二十代前半。顔は結構美男子。でも、この顔・・・ どこかで見たことがあるような気が・・・

「どうしたんだ?」

「ネコが・・・いるんです」

 男性が訊いてきたので、私はその質問に答える。

「捨て猫か・・・ お腹・・・空かしてるのか?」

 ネコがニャーニャー鳴いていることから、男性はそう察知する。でも、私は食べ物を持っていないし・・・ 家では飼えないかもしれないし・・・

「ごめんなさい。私・・・何も食べるものを持っていなくて・・・」

「どうしたものか・・・!?」

 男性が考えながら、ポケットに手をやると、突然ビックリした表情に変わる。

「かつお・・・ぶし?」

 男性のポケットに入っていたのは、かつおぶしの袋。そして、男性はまた少し考える。

「これをやろう。不味いかもしれないが、食え」

 そう言って、男性はポケットから出てきたかつおぶしの袋を開け、かつおぶしをネコに与える。

「ありがとうございます」

 何もできない私よりも、この男性は凄く頼りになる人だ。そんな彼に私は深々と頭を下げる。

「いいんだよ。ただ、こいつを・・・どうするかが問題なんだが・・・」

 肝心の問題を忘れていた。この子猫を飼いたいのは山々だけど、博士が何て言うか・・・

「でも、私は飼える様な環境じゃないですし・・・」

 私がそう言うと、男性はまたも深く考え出す。

「じゃあ、俺が飼う」

 男性の言った言葉に、私は驚く。

「本当ですか?」

「まあ、かつおぶしならもう少しあったと思うし・・・ 別に飼っても問題ないだろう」

 本当にこの子猫は幸せ者だ。私だけではどうしようもできなかったけど、この男性に拾ってもらえて、本当に良かっただろう。そう思うと、私も凪穂博士に拾って貰えて、幸せ者だなと気付く。

「ありがとうございます! よろしければ、連絡先を教えていただけませんか?」

 私は、持っていたカバンから一枚の紙を出し、それを男性に渡す。

「ん? ああ。わかった」

 サラサラとボールペンで住所と連絡先を書く男性。

「ありがとうございます。また、伺いますね。それでは、さようなら」

 男性から住所と連絡先を書いてもらった紙を貰い、博士の家へと向かった。

 ちなみに、博士にネコを飼って良いか聞いたら、すんなりOKしてくれた。・・・訂正。博士は「飼いたい!どうして持って帰らなかったの!」

 と言っていた。あの男性には、申し訳ないことをしたな・・・とちょっと反省。

 そういえば、あの男の人・・・ 毎回仕事中に出てくる探偵さんだった。私の邪魔ばかりすると思っていたけど・・・ 案外良いところもあるんだな・・・



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