↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

サクッと読めるラブコメ短編集

最上位カーストグループ三番目に可愛い元気なムードメーカー負けヒロインの失恋話と愚痴を毎日聞いていたら、ぐいぐい距離感バクりぎみに近づきとうとう俺のベッドで寝息を立てる

作者: 神達 万丞
掲載日:2026/08/28


 十一月十日


 夜のイルミネーションは綺麗だ。クリスマスに向けて点灯すると心が踊る。

 そんな俺こと尼子出雲あまごいずもは近くのフラワーパークでボッチを満喫していた。この時期だとまだ人がまばらなので穴場。

 だからライフワークであるネットのアップ用ベストプレイスを求めカメラが光る。

 

「越前うちと付き合ってください!」

「ごめん、付き合っているやつがいるんだ」

「もしかして駿河?」

「ああ。勝手なお願いだけど長門はこのまま友人でいてくれないか?」

「そうなんだ……。うん、わかった。うちの大事な親友なんだからあの子を泣かすなよ」

「わかっている」


 少女は笑顔で別れを告げ、男は走り去っていく。 

 俺はどうやら振られた現場に居合わせたらしい。 

 まあ俺には関係のないことなんだけど居心地悪いな。SNSにイルミネーション煌めく夜景をアップしようと計画していたけど、ここには居づらい。

 休日の部活帰りだしそろそろ退散するか。


「あ、雨だ」


 一応曇り予想だったが傘を持参してきてよかった。郊外の公園だから悪天候になりやすいと踏んだファインプレー。


 俺が帰り支度しようとしているも、振られたショートカットの女子が佇んでいる。雨に濡れながらうつむいて身じろぎする様子はない。男とデートだったのだろうか、だいぶめかし込んでいた。

 

 しかし部外者だからそのままスルーを決め込む。関わらないのが一番。

 うん、俺は何も目撃してなかった。


「君」

「…………」   

「ちょいちょい、そこの君」

「なんでしょうか?」


 入り口に向かい踵を返すと、何故か女の子が関係ない俺に話しかけてくる。

 唯一現場に居合わせたので気まずい。


「ねえねえ今、うちの告白シーン、カメラで写してなかった?」

「イルミネーション撮っただけですが、もし写っていても邪魔なのでそこだけ消しておきますから心配しないでください」

「そうなんだ。ならいいか……じゃなくてサイテーな姿カメラに撮られて気分いいものじゃないよ。大体その振られて弱った美少女を放って家路につくつもり?」

「面識がない人へ話しかけてトラブルに巻き込まれるのは御免被りたいだけですが……」

「その制服、君うちの学校の人でしょう。もう身内じゃん。それなのに酷くない?」

「酷くないですよ。それどころか傷心の乙女をそっとしておくのは紳士的行為だと俺的に判断します。それに僕は貴女を知りませんよ」


 厄介な手合いに絡まれてしまった。ここは逃げの一手なのだが、このままじゃ帰してくれそうもない。

 さてさて、この面倒な女どうしたもんだろう?

 


十一月十四日


 青春で花咲くクラスは賑やか。修学旅行終えたばかりなので何処か連帯感が残っていた。

 うん、今日も平常運転。俺は誰とも関わらない。

 課金ゲームやりながらまったりラノベを読む。

 俺はぼっちをこよなく愛する男。なので学友とかそういう面倒なものはいない。それどころかこのクラスで俺を認識しているやつはほぼいないのだ。

 先生でさえ出席確認で俺だけ抜かす。親からの仕送りに左右される通知書を忘れられた時は焦ったもんだ。


「——あー! こんな所にいた。うちと同じクラスだったんだね」

「………………?」

「存在感がないからあっちこっち探したよ」

「目立たないので」


 ショートカットの明るい女子が俺に話しかけてくる。珍しいこともあるもんだ。

 特筆するならアイドル並に美少女。仄かなコロンの香りが鼻孔をくすぐる。


「ねえ、君なんで逃げたのさ?」

「貴女は?」

「この前フラワーパークにいたでしょ?」

「ああ、振られた腹いせに難癖つけてきた女子」

「うっさい。デリカシーないのかな」

「ないですね。とうに捨てました」

「拾ってこい。それより傘とタオルありがとうね。助かったよ。お礼がいいたかったんだ」

「それは何より、お陰様で俺は風邪を引きました」

「駄目だね。自己管理できない男子はモテないぞ」

「興味ないです」


 言うに事欠いておまえいう? 数日間熱が下がらなくて地獄をみた。

 振られて無残な姿が見るに耐えられなかったとはいえ、他人に傘とタオルを無理矢理渡し走り去ったのは我ながらどうにかしている。


「というか君、同じクラスなのにうちのこと知らないの?」

「それはお互いさまですよ。貴女も俺のこと知らないでしょ?」

「興味ないからね」

「俺も興味ないです。はい、ということでさようなら」

山内長門やまのうちながと。うち名乗ったよ。君の名前教えて」

「いずも」

「聴こえない」

「尼子出雲です」

「わかったあまご」

「君をつけてください山内さん」

「いやでーす」


 うんべーとベロを出す陽キャは嵐の如くカースト最上位仲良しグループに合流。俺の静かな学園生活をかき乱さないでほしいもの。


 山内さんか。学年カースト最上位グループ三番目に可愛い女子だ。学園の情報に疎い俺でも知っている。もちろん人気者、社交的で友達も多い。

 だから俺と話したことも野良猫に声を掛ける程度であろう。もう話すこともあるまい。



 十一月二十三日


 昼休みの食堂。金に余裕あるうちはいつもの定食で済ます。これはジンクスだ。食べると今日一日平穏無事に終わる。

 学園生活とは学ぶ場なのだ。それ以外は必要ない。もちろん人間関係もそれに該当する。

 なんだけど……。


「サバ定食。あまごはいつもそれだね」

「好きなんですよ」


 折角目立たないよう注意しているのに、陽キャ美少女によってスポットライトが当てられてしまう。陰の者にはまばゆいので近寄りたくない。こうやってぐいぐいくるのもやめてほしいもの。

 相席だったのにわざわざ代わってもらう図々しさ。学園カースト上位だからできる力業だ。

 

「聞いてよあまご。グループで越前と駿河が付き合っていたの知らなかったのうちだけってバカみたいじゃない。なんで教えてくれなかったのかな?」

「あの……」

「しかもうちをのけ者にして皆でお祝いしたってありえないんですけどね」

「興味ないです」

「薄情者! うちが相談できるの君しかいないんだからね」

「自分勝手すぎますよ」

「いーや、一世一代の告白を見届けた君には聞く義務があるの。義務!」

「拒否します」


 そうであっても会うたびに振った奴の愚痴を聞かせるのはやめてほしい。

 大体、振られた相手とその彼女がいるコミュニティーにそのまま居座る豪胆さは真似出来ないな。幾ら大事な友達であってもだ。

 それが社交力もしくは女の意地なのだろうか。



 十一月二十九日


 お昼の購買部は賑わっている。食堂で食事できない貧民が最後に頼るサンクチュアリ。ワンコインで買える塩パンとバターパンは所持金がやばい時の俺にとって大事なライフラインだ。

 ちなみにパンに変えたことは山内さんへ報告してない。お陰で最近は静かなランチを満喫。


「聞いたか、今川駿河ちゃん付き合っているらしい」

「まじか、駿河ちゃん可愛いもんな。俺も告っておけばよかった」

「越前の野郎羨ましい」

「でも目一杯朝倉へアピールしていたのに、振られた長門ちゃん可哀想だな」


 このように最近、山内さんがいる仲良しグループのイケメン朝倉越前と一番目に可愛い今川駿河さんが交際していたって噂になっているらしい。

 山内さん大丈夫だろうか?


 今日は天気がいいから中庭で枯れ木を愛でながらパンを食う予定。

 なんだけど——


 中庭のベンチで山内さんが泣いていた。仕方ない。他で飯を食うか。

 失恋はそんな簡単に吹っ切れるわけないもんな。俺も経験あるからわかるわ。

 気づかれないようにハンカチとポケットティッシュをベンチに置いておく。


 …………………………ああああ、もう。俺は気が付いたら山内さんの隣に腰掛けていた。


「山内さん愚痴聞きますよ」

「ぐす……あまごありがと。ってかなんでうちを避けていたのかな?」

「金がないからパンにしただけです」

「本当に?」

「でも普通にクラス内でいいじゃないですか?」

「教室で失恋話できるわけないでしょ。相変わらずデリカシーないよね」


 傷心の女子に逆らうべきじゃない。よって俺の選択ははいかイエスしかないのだ。


「精進します」

「うちまだ越前が好きなんだ。もちろん、親友の駿河には幸せになって欲しい。その為なら幾らでも身を引くよ。でも……諦めきれないよ」

「朝倉が好きでもいいじゃないですか。それは本人の自由ですからね。誰にも止める権限はないし、諦める必要ないと思いますよ」

「あまご! 他人に興味ない振りして本当はいいやつなの?」


 ただの気まぐれだ。なので他意はない。あと俺のハンカチで鼻かむな。



 十二月十二日


 放課後。外はマフラー巻いていても寒い。

 最近は山内さんと共に過ごす学園生活が多くなったせいで、登下校が学生シングルライフを実感できる場になりつつある。


 なんだけどふいに、「あーまーごー!」背中を叩かれてむせた。


「ゲホゲホ、山内さんなんですか?」

「もう、聞いてよ。最近仲間達がよそよそしいの。うち達の友情はそんなものだったのかな?」

「さあ? リア充の世界に縁がないので明確な答えを陰キャラボッチに望まないでください」


 いつもなら仲良しグループで帰るのに珍しいこともある。

 あと、どうでもいいが俺の背中をパンパンするのはやめてほしい。思わず食べ合わせが悪かったアンコ&生クリームパンが口から戻しそうだ。


「むう、薄情者」

「大体俺にかまっている暇あったらアタックしないと。まだ諦めてないんでしょ?」

「そうなんだけどね。やっぱ気まずいじゃん。ここまで噂が広まったらブレイクタイム設けないとさ」


 それはそうか、知らないとはいえよりにもよって親友の彼氏に告白して自爆したんだもんな。しかも今まで通りでいてくれなんてなんの拷問だよ。


 彼女が次の恋を見つけるまでは、愚痴を聞いてやろう。モテ女だからすぐにカレシ作ってそのうち俺の存在なんて忘れるさ。


「そういうわけで、当分の間一緒に登下校するからLINEとスマホの番号教えてね」

「俺に拒否権はないのですか?」

「ないよ」

「そっすか……」

 

 こうして最後のオアシスも台風少女に占領されてしまうのだった。



 十二月二十四日


 クリスマスイブ。

 今日はバイト。人通りが多い駅前通りで、ケーキ屋さんの街頭販売だ。陰キャラボッチにイブの予定などないのでこれが平常運転。

 

「あまご、そんなにお客さんこないね」

「ここあまり人気ないんですよ。駅中にある美味いお店に持って行かれているんです」

「ああ、みんなと行ったことある」 

「そしてここは不味い」


 残念ながらここのケーキは美味くない。もちろんそれを目論んでバイトしている。楽してお給金もらえたら最高じゃないか。

 サンタ衣装に身を包んだ山内さんは可愛さレベルアップしているから客が殺到する危機感も募る。しかし声を掛けてくるのはナンパ目的のチャラ男ぐらいなので一安心だ。


「なーる。だからカップルとか家族はここガン無視なのね。折角このナガトちゃんがひと肌脱いでいるのにやり甲斐がないな」

「山内さんは友達とクリスマスしなくてよかったんですか?」


 俺と違いリア充の山内さんが何故ここで売り子をしているかというと、予定聞かれてるとうちもやると強引に言いくるめられたのだ。


「断ったって言っているじゃん」

「何故に?」

「だってみんな恋人持ちになってうちのこと心配してくるんだもん。クリパに参加しても肩身狭い」

「だからといって俺とバイトすることもないでしょ?」

「家でふて寝しているぐらいならなんかやって気を紛らわしたいの」

「そんなもんか」

「そんなもんよ」

「陽キャにも陽キャなりに気苦労があるのですね」


 さすがリア充軍団。恋人には困ってない様子。

 だから山内さんは空いているのをごまかすため、俺に頼みここで共に売り子をする。


「リア充爆発しろー!」

「俺からしたら山内さんも十分勝ち組なんですけどね」

「うちは負けヒロインだよ。友達グループにガラスの器扱いされてとても居づらい」

「確かに微妙な空気になるかもね」

「駿河達うちの前でイチャコラ抑えているから居た堪れないのです。なれど今更別のグループへ行くのも恋に破れた乙女みたいで世間体が悪いんだよ」

「まだ朝倉のこと諦めてないですしね」


 最近それは優しい誰かさんのお陰で薄れてきたと呟くも聴き取れなかった。

 


 一月一日


 深夜0時。


「あまご、あけましておめでとう!」

「山内さんおめでとうございます」


 山内さんのゴリ推しで初詣に神社へ。普段なら自宅で寝正月一択なのだが、OKするまでLINEを使い連打されては選択権がないだろ。

 ちなみに山内さんはラフな普段着だ。最近仲がいいといっても晴れ着など夢をみてはいけない。


 人混み嫌いだけど我慢して二礼二拍手一礼。お願い事を唱える。

 

「あまご何お願いしたの?」

「今年もぼっちでありますように」

「駄目。今年もうちが一緒だからそれはないよ。よって一人にはさせない」

「冗談ですよ。普通に山内さんに恋人できますようにとお願いしました」

「ありがとう! それは叶うかもしれないよ」

「ほう。それは楽しみだ。それで山内さんは?」

「な・い・しょ」

「俺にだけ言わせるのはずるいです」


 歯を見せてにひひと笑う。


 「——あれーなんで長門がここにいるの?」「山内一人なんてめずらしいじゃん」「彼氏できたんだろう」


 見知った連中に邂逅する。うちのクラスメート達だ。

 皆で初詣に来ているらしい。

 これは気まずい。俺は山内さんから離れようとしたら気付かれないように手を握られて動けなかった。

 山内さんは一緒に来るかと誘われるも幼馴染みと来ているからと断る。

 どうやら俺が設定された幼馴染みのようだ。

 

「あまご、なんで逃げようとしたのさ」

「俺と一緒じゃ立場無いですよ」

「そんなことない。うちはあまごと一緒で毎日楽しいよ」

「お世辞でも嬉しいです」

「自己評価低いな。あまごのお陰でうちは助かっているんだよ」

「山内さんありがとうございます」


 俺達は偽りの関係。心の傷が癒えればいずれ自ずと疎遠になるはず。最近、山内さんと過ごすことが多くなってきたので寂しくはある。しかし、元々は違う世界の人間、俺達は陰と陽、相容れることはないのだ。

 ただ、なんだろうか、この関係がまだ続いてほしいと思っている俺もいた。


「ああ! おみくじ大吉だ!」

「良かったですね。今年いいことありますよ」

「ならさ、ねえ、あまご一つお願いがあるんだけど……」

「何でしょうか?」

「うちのこと名前で呼んでくれない?」

「何故に?」

「うちら親友でしょ? 他人行儀過ぎるんだよ。あまごも名前で呼ぶから駄目かな?」

「難易度高いですね」

「お願い」

「わかりました。出雲と呼んでください。俺も長門さんて呼びますから」

「いずも呼び捨てでいいよ。それと敬語禁止。なんか遠くに感じる」

「了解。慣れるまでに時間がかかりそうだ」


 そうか俺を親友として捉えてくれていたのか。初めての友達だ、大切にしないといけないな。

 俺はまだ繋いでいる手に温もりを感じながら、山内さん、いや長門の優しさに応えたいと誓うのだった。



 二月十四日

 

 一日中ざわめいていた教室。


 バレンタインデー。


 今日は男子も女子もそわそわしている特別なアニバーサリー。青春で男を磨いた全男子高生へ言い渡される審判の日。

 あるものは歓喜に、あるものは悲壮に、アオハルの大事な1ページを制作していた。


 俺も高校男子の端くれ、バレンタイン当日に起きる胸の高鳴りを理解するし興味もある。しかし元々モテないので無縁の世界だった。

 今日も極ありふれた一日だと己に暗示を掛ける。

 なんだけど面倒みの良い二番目に可愛い委員長から、哀れみの義理チョコをもらったのでゼロではなかった。


「いずもいずも! 今年もチョコ貰ってないでしょ。可哀想だね。同情するよ」

「拝受しました」

「そうだろそうだろ。女子にモテない君が貰える筈もないもんね。いいだろう。うちが特別に——え? 貰ったの?」

「人生で初めてのチョコ」


 自慢するつもりはない。しかし親友の長門だけには報告するつもりだった。瞳にハイライトがないぐらい驚いてるけど喜んでくれるはず。

 長門へチョコを披露。装飾が豪華でリボンも付いていた。貰ったことがないから基準はわからないけどこんなもんじゃないのかな?


「むううう…………義理チョコの割にはデラックスじゃない? しかもハート型」

「でもあの真面目な委員長が義理チョコだから勘違いしないでよねと念押していたから疑いようがないよ。揶揄うタイプじゃない」

「そういえば最近いずもに急接近していたよね……魅力に気づいたか。あの子ツンデレだから随分前から?」

「それで長門は何の用?」

「ううん、何でもないよ」

「そう」


 咄嗟に何かを隠す仕草。なにか用事だったのか? まあ深くは追求すまい。


 この後、イケメンチャラ男達から立て続けにチョコをねだられたが今年より義理チョコは渡さないと断る長門。


 そうか、義理チョコ配らないのか……じゃあ俺もくれないな。そもそも学園のアイドルからいただくのはアニメ並の夢物語だ。


 俺達は下校途中公園へ寄る。ベンチに座りながら空を見上げた。そういえば今日長門にいい物あげるから昼何も食べるなと厳命されたので腹が減る。


「お腹の音すごいね」

「長門が何も食べるなって指示出したんじゃないか」

「そうだっけ?」

「そう」

「じゃあ仕方ない。君にチョコを進呈しよう。うちの手作りだから味わって食べなさい」

「長門、義理チョコはあげないって宣言してなかった?」

「そうだよ」

「なるほど、チョコ作ったけどいびつだったから皆にあげるのやめたんだね」


 長門は死ねこの鈍感野郎とでっかいハート型を俺の口へ無理矢理ねじ込んだ。

 何か下手打ったか?



 四月二日


 春休みだ。

 なんだけど…………


「あああ! また負けたぁ! 手加減してよ」

「しているよ」


 長門と部屋でゲーム三昧だった。


「まじムカつく!」

「お昼なにか作るけど食べる?」

「もち食べる! いずもの料理絶品だべさ!」

「ちょっと待ってて」


 長門は返事の代わりに投げキッスをする。相変わらずテンションが高い。男は狼。誰にでもこんなことやっているのではないかと友人として心配だ。


 最近、長門は気兼ねなく俺の部屋によく来る。それはいいがマンションの独り暮らしなので、朝から晩までここにいるのは春休みだからといって無駄な時間を過ごしているのではないかと不安。


「長門、幾ら親友でも男の部屋でそんなに警戒心緩めたら駄目だ。なにか過ちがあったらどうするんだよ」

「いずもならいいんよ。うちの初めてあ・げ・る」

「長門!」

「ばーか。それだけいずもを凄い信頼しているんだよ。光栄に思いたまえ。あ、オムレツ食べたい! もちハート書いてね」

「はぁ……了解」


 長門は最近すっかり朝倉やカーストグループの話をしなくなった。いい傾向だ。このままいけば新しい彼氏ができるのも時間の問題。

 なんだけど、それなら俺と春休み家でダラダラ過ごすのはいかがなもんだろうか?

 彼女のコミュ力ならイケメンなんて引く手あまただろうに、こんな陰キャラと一度きりの青春を浪費するべきじゃない。

 それとも俺に遠慮しているとか? 一人に慣れているから気にすることはないのに律儀なリア充だ。


 そして夜中。


「あん♡ いずもはうち以外のメロン食べちゃだーめ」

「………………長門なんの夢みているんだ?」


 深い眠りから意識が覚醒すると嘆息をつく。

 隣で寝息を立てる長門は大きな胸が潰れるほど俺に抱きついていた。夜中まで遊んだあと記憶がない。

 お互い遊び倒し寝落ちしたのだ。


 長門はベッドに不法侵入して潜り込む。最近、これが当たり前になりつつある。彼女は俺を抱き枕かなんかと思っているのではないか? 

 幸い山内家公認なので心配されることはない。それどころか元から弾丸放蕩娘なので一か所に留まってくれているから安心だそうな。


「いずも大好き♡」

「はいはい、俺も愛してますよ」


 寝言へ呼応して布団をかけ直しながら適当に相槌を打つ。


「……………え?」

「長門起きてるのか?」

「…………………」

「気のせいか」


 何処か長門の顔が紅かった。暖房が暑いんだろう。



 九月十七日

 

 夏休みも終わり、大学受験または就職へと舵取りをする中、教室にニュースが飛び込んでくる。

 去年長門を振った朝倉と今川が別れたそうだ。原因は進路の関係。

 周囲の人間を傷つけながら結ばれたのにそんな理由で縁はキレるものなのか? 


「納得できないけどしょうがないね。こればかりは恋人同士の問題だからダチのうちがとやかく介入することじゃない」

「でもさ、朝倉達に食ってかかった時は焦ったよ」

「それは友達だからね」

「でもこれで朝倉は一人か。ねぇ長門——」

「それ以上はいずもでも怒るからね。既にうちの中では過去。越前に再び恋心を抱くことはない。それより傷心なんだか駿河に告白したら駄目だよ」

「親友の長門がいればそれで十分」


 おお、いずものくせに嬉しいこと言ってくれるじゃん——と俺めがけヘッドロックを仕掛ける長門。巨乳がクッションとなり苦しくないけど、それより男子達の殺気篭った視線が痛かった。


 最近は教室でも俺といることが多い長門。女子への牽制とか冗談が上手い。

 そういえば下駄箱に入った手紙とか、見知らぬ後輩とか声を掛けられると処理してくれる。正直人付き合い苦手なので長門に感謝。


 このように負けヒロインを克服した長門は別段動揺することはない。モテ女のくせに恋人作らないで学園生活を終焉させるのは勿体無いけど、本人はその気がないのに無理強いするのも如何なものか。


 ただいまーと長門は放課後になるとそのまま俺の家へ上がり込む。

 合い鍵・歯磨き・代えの下着・ペアルック。

 もう同棲していると誤解されそうなほど部屋が侵食していた。


「さてと♡」

「なんで俺のひざに座るのかな? 椅子じゃないよ」

「ひどーい君とうちの仲でしょう? 毎日寝食を共にしているナガトちゃんにそんなこと言うの?」

「確かに。近頃は夢の中にまで出てくるよ」

「にひひ、それは朗報なり」

「しかし俺達もこのままというわけにはいかないだろ? いつから離れ離れになる」

「いやだ。いずもとは一生このままがいい」

「おいおい」

「うち好きなやつできたんだ」

「そうか、よかった……」 

「でもさ、超がつくほど鈍感野郎でどんなにアピールしても気づかないんだよね。いつかは決着つけるつもりだから、もう暫くはこのままでいさせてよ」


 と長門は僕に体重を預けてきた。心地よい温もり。

 長門の新しい恋。嬉しいはずなのに何処か心が晴れない。

 この関係もあと僅かか……。



 十一月十日


 フラワーパークのクリスマスイルミネーションが今年も灯火された。

 今日はここで長門と待ち合わせ。

 一年前、ここで俺と彼女は出会った。

 何故ここを集合場所に指定したのかはわからない。でも俺達にとっては思い出深い場所。


「いずもお待たせ!」

「気にしてないよ。長門が時間にルーズなのは今に始まったことじゃないからね。お陰様で読みかけだったラノベを読破できたよ」 

「うわ、遠回しな嫌味。それいうなら今来たところでしょ。相変わらずデリカシーないな。女の子は準備に色々と時間が掛かるもんなのさ」

「おお、今日も決まっているね。可愛いよ」

 

 もっと褒め称えよとポーズをとる長門。


「うち達が仲良くなってあれから一年か」

「早いね」

「ここで越前に振られた時、いずも写真撮っていたんだっけ。あの時傘貸してくれたのマジで嬉しかったんだよ」

「だからあれからぐいぐい接近してきたと?」 

「話してるうちにとてもいいやつだとわかってね」

「幼い頃から独りでいるのが当たり前だと達観していたから、喧嘩したり仲直りしたり今まで経験したこともないこと一杯体験した。だからこんな陰キャと友達になってくれて長門には感謝してる」

「へへへ、そういう風に言われると照れくさいね」

「そう? でも長門も新しい恋を始めているみたいだし、俺達の関係を勘繰られるのは不利だからそろそろ距離をおく時期かな」

「そのことで大事な話があります」

「改まって何かな?」


 俺達の終焉がついに来たか。

 覚悟は決まっていたが改まって口にさせるとザワザワと胸が騒ぐ。


「いずも、そ、その……うちと付き合ってください!」

「俺?」

 

 予想外の告白に俺は思わず自身へ指を向ける。


「いずもじゃなきゃ嫌だ。これからも一緒にいたい。駄目? うちの本心を全部曝け出せるのは君だけだよ。全部受け止めてくれるのも君だけ」

「長門……」


 俺は後悔しないように考えを巡らせる。俺は長門が好きだ。答えは出ているがそれでも彼女を幸せにできるのか自問自答を繰り返す。

 

 そして——


「どうかな?」


 頭を下げて、「こんな俺で良ければよろしくお願いします」同時に長門は抱きついてくる。


 長門はまた泣いていた。去年のようにハンカチを貸すとまた鼻をかむ。

 ただ違うのは雨じゃなくて夜空に星が煌めいていたこと。


 こうして俺達は付き合うことになった。

 学園のアイドルと恋人になるなんて夢のような話だが、『最上位カーストグループ三番目に可愛い元気なムードメーカー負けヒロインの失恋話と愚痴を毎日聞いていたら、ぐいぐい距離感バクりぎみに近づきとうとう俺のベッドで寝息を立てる』長門以外には考えられなかったから良かったのかもしれない。

 


 おしまい



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。