表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

マザーグース風・破滅ざまぁ短編集

“登った者は必ず落ちる”世界で、私を踏み台にした彼は頂点から落ちました〜前世持ちの私は巻き込まれません〜

作者: 本咲 サクラ
掲載日:2026/03/27

 この国では、“ジャックとジル”の童謡が語り継がれている。


 丘に登った者は落ちる——そう歌われている。


 けれど、それはただの歌ではない。


 この国では、出世した者から順に落ちていく。


 ……正確には、

 無理に登った者から、順に落ちていく。


 そして私は、それを知っている。

 前世で、この童謡を元にした“破滅の物語”を読んだから。



 その物語では、こう語られていた。


 丘に登ること自体が間違いなのではない。


 問題は──

 自分の器を超えて登ることだ。


 無理な昇進。

 見栄のための決断。

 実力以上の責任。


 そうして登った者は、必ず崩れる。


 例外は、一人もいなかった。



 だから私は決めた。

 絶対に、無理に登らない。



 私は王宮で働いている。


 地味で、堅実で、目立たない仕事。

 確実に成果は出していて、評価もされている。

 けれど、昇進は断る。


 理由は簡単だ。

 上に行きすぎた者は、必ず落ちるから。



 そんな私の婚約者は、真逆の人間だった。


 「俺は頂点に立つ」

 迷いなくそう言い切る人だった。


 出世欲が強く、才能もある。

 そして何より、自分だけは例外だと信じている。


 「この国では危険です」

 「迷信だろう」

 「違います。これは——」

 「俺は落ちない。選ばれた側だ」


 その言葉で、確信した。

 この人は、“無理に登る側”だと。



 彼は私を使って出世していった。


 政策の裏付けや、予算の調整。

 説得用の資料。

 全部、私が整えた。

 けれど評価されるのは彼だけ。


 若き才能。

 将来の中枢。


 評価は積み上がり、彼は登り続けた。

 ——自分の器を超える高さまで



 そして、私を切り捨てた。


 「婚約は解消する」

 大勢の前で、そう言われた。


 「お前は慎重すぎる。俺の足を引っ張る存在だ」

 「俺は、もっと上に行く」


 隣には、もっと“上”の家の令嬢。


 ああ、そう。

 さらに高く登るために、踏み台を乗り換えたのね。


 でも、もう関係ない。


 前世で読んだ物語と同じだ。


 評価を急ぎ、

 大きな役目を引き受け、

 自分の手に余るものを抱え込む。


 ——ここから先は、崩れる。


 「そうですか」

 それだけ言って、私は離れた。

 止める理由も義務も、もうない。



 三日後。


 彼は大抜擢された。


 王太子直轄の役職。

 若手では異例の出世。


 ──頂点に近い場所。


 王都中が彼を称賛した。


 だから私は、距離を取った。


 関わらないように。

 巻き込まれないように。

 落ちるときは、周囲も巻き込むから。



 崩壊は、早かった。


 彼は功を焦った。


 構造を理解しないまま、不正を断じた。

 結果、必要なものまで切り捨てた。

 事業は止まり、被害が出た。

 責任は、彼に集中した。


 さらに、周囲の証言。


 彼が理解していなかったこと。

 実務を他人に依存していたこと。


 すべて露見した。



 そして、その翌朝。


 王城の大階段で、彼は落ちた。


 大勢の前で、派手に。

 無様に。


 誰かが呟く。


 「……また“ジャックとジル”か」



 数日後、彼は私の前に現れた。


 「知っていたのか」

 そう聞かれた。


 「……ええ」


 「なぜ言わなかった」


 「言いましたよ。何度も」


 静かに答える。


 「でも、選んだのはあなたです」


 彼は黙った。



 「やり直せないか」


 その言葉に、私は首を振る。


 「私は、無理に登らないと決めているので」


 「逃げだろう!」


 「いいえ」


 私は微笑む。


 「これは、選択です」



 その後、私は少しだけ役職が上がった。

 けれど、それ以上は望まない。


 前世の物語では、

 “自分の高さを知っていた者”だけが生き残っていた。


 だから私は、急がない。



 子どもたちが歌っている。

 ──ジャックとジルは丘に登り、

 ──ジャックは落ちて、頭を打った。



 本当に、その通りになった。



 丘に登ることは、悪じゃない。

 けれど、

 無理に登れば、必ず落ちる。



 だから私は、選ぶ。


 登る高さを。


 それが、この国で生き残るための、正解なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ