幻覚と感謝と正しい選択
鈍い音が響き渡った時アイだけでなく、国中にいた寝ていた者、起きていた者、全ての人々が強力な幻覚と錯覚を相手に喰らわせる呪いに襲われた。
なに…これ…意識が遠のく…視界が定まらない…それに体の自由も… 右腕を動かそうとしたら左足首が動く…力も入らない…
アイは力なく地面に倒れる…目の前にいた少年は逆に力強く立ち上がった。
「これで余計な邪魔は出来ないですね」
「何を…したの!!」
「俺の仲間がここに結界と呪いを展開したんですよ。全てはあの狂人を確実に殺すために…家族の仇…ユイトを…確実に……!!」
空が一瞬で夜の様に姿を変えた。彼はそれを満足そうに見つめたのちにとてつもない力を足に込め、地面どころか辺りにある建物が崩壊するほどの強力なジャンプをして見せ、そのまま鐘の元へと向かった。
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「遅いぞ…ファル」
「すみません…少し寄り道をしていまして」
鐘の元にはファルと同じ黒い服に身を通した男たちが四人いた。が、あとは任せたと言い残してブバリアは闇の中へと消えていった。
「コル・クーラ結界の方は」
「完璧だ。皆呪いに掛かっているし、結界もユイトしか通さないように出来たぞ…まったくブバリアが仲間だと言うから協力はするが俺たち四天王はお前ら二人を信用していないからな?忘れるなよ?」
灰色と黄色のメッシュの髪の男…コル・クーラはアサヒとファルに鋭い目つきと威圧的な魔力で牽制するが二人の目には全く映らない。その瞳が映し出すのはユイトのみだ。そのことに気づいたコルは今にも折れそうな細い腕を振り回しアピールする。俺を見ろと。飛び跳ねながらもアピールするが骨と皮しかない体が中を舞うだけで二人は気にも留めなかった。
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「ジックさん今暇ですか?」
「おー!ユイトじゃないか!どうした?今は特にやることはないぞ?」
「ミズナ様に無理やり長期休暇を取らされたので封印術を教えてほしくて」
ユイトやっと部屋から出てきたと思ったら結界術を…か。2日も部屋で泣いていたんだ。部屋から出ただけマシだが、ミズナ様が言いたいのは魔法や戦いから離れろってことなんだがなぁー
木からりんごを取り、りんごを集めていたジックは、頭を悩ませながらもユイトに封印術を教えることにした。
「─────なるほど、それなら…魔力の回路をこうすれば…あっ!出来ました!!」
「飲み込みが早いなぁー!俺なんてこの段階に行くまでに数週間は掛かったぞ!」
時間を忘れて術の講義をしていたジックと術の講義を受けていたユイトにミズナが昼食の準備が出来たと呼びに行く。
「今日の昼食はなんだか豪華ですね」
「えぇユイトがホーリーを救ってくださったおかげで他国に流れる輸入量が格段に増えたのです。流通の鹿目であるホーリーを救った恩恵は我々タイテンもしっかりと受けているのですよ」
「それのおかげで餓死者の数も格段に減ったんだ。もう少し自分のやった事に自信を持った方がいいぜ?お前の選択は何も間違えちゃいないんだ。今この瞬間にもお前の選択で助かった命があるんだからな」
僕の選択………良かった僕は間違えていなかったんだ… この血塗られた手でもまだ、まだ誰かを守れているんだ…
「ありがとうございます…ミズナ様、ジックさん」