くだらない日常を
心地よい風が当たり、ユイトはゆっくり目を覚ます。不思議と体は痛くはない。むしろ絶好調と言った所だ。ユイトはボロボロになってしまったリッターの制服を取り、包帯だらけの体を覆い隠す様に着る。そのまま病室のドアを開けるとそこには数え切れない程の怪我人が倒れていた。医者が一人一人を丁寧に治療しているが、やはりこの数の怪我人を治すのは難しくその瞬間にも死体が一つまた一つと増えていた。その遺体を看護師やリッターなどが泣き叫ぶ遺族から引き剥がし丁寧に運ぶ。それを見てユイトはあの時の自身の判断が正確ではなかったと強く後悔するその時人混みから聞こえた声をユイトは聞いてしまった。
「ふざけんなッ!!オレの家族はコイツが!!殺したんだ!!なんでオレを押さえつけるんだよ!!」
僕が殺した…殺したんだ…
「おいッ!!《英雄》ユイト!!お前に教えてやる!!オレたちは凍っている間意識はあったんだよ!みんな見ていた!!お前が民間人を巻き込んで術を使っていたことも!!家や土地を壊したことも!!みんなお前を恨んでいるんだ!!」
14歳ぐらいの少年が涙を流しながらこちらに向かって叫ぶ。その時少年から大量の魔力が溢れ始めた。人が魔力を得るには”人生が変わるほどの憎しみや悲しみの感情”か”強力な魔力を浴びる”そのどちらかが必要不可欠。この少年はきっとこの先僕の首を取るために戦い、鍛える。そう言う人生になってしまったのだろう。ユイトはそんな事を考えながら少年を見つめる。ついに少年は取り押さえていたリッターを弾き飛ばしユイトに殴り掛かったが、ふらりと現れたローズの手刀により一瞬で気絶させられる。そのままローズはユイトに少し散歩するかと言い、病院から連れ出す。出口までわずか数秒だと言うのに数時間にも感じられる。額には嫌な汗が滲み出ていた。人々の視線が槍の様にユイトの体に突き刺さり、思わず顔を下げる。やっと出られたと思い、顔を上げるとそこには病院内の数倍の数の怪我人が横になっていた。目を背けて遠くを見つめると大きな火が立ち込めていた。遺体を運んでも丁寧に弔うことはできない。数週間も放置すれば感染症が蔓延する。すぐに燃やしているのだろう。ローズは気まずそうな顔をしながら火や人々が居ない場所まで案内する。
「気にするなユイト。その場での最善をユイトは取ったんだ。大勢を救うために少数を切る。俺でもそうするはずだ」
「間違ってない…と?」
ローズはその問いに頷く事はなかった。
「次は……誰を救えばいいんですか?」
救う…救って救って”普通”を…”当たり前”を…じゃなきゃきっとこの手についた血は消えてはくれないのだから