スダチ
「はぁぁぁぁぁッ!?ちょっと意味わかんないんだけど!?あのバカなに考えてるわけ!?」
それはユイトが朝起きる原因となった。城内に響き渡る悲鳴にも似た叫び声がユイトの耳を激しく貫く。その声の主はドンドンと足音を響き渡らせながらついにユイトの部屋のドアを蹴り開ける。吹き飛んだドアが壁を貫き城外に飛んでいく。あぁうるさいなぁ…なんてユイトが思いながら重たい瞼を擦っていると彼女が布団を吹き飛ばし、胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「ユイトッ!!一人でホーリーに行くってどう言うこと!?ちゃんと説明しなさいよッ!!」
なんだろうと思いながら目を開き良く見ると、そこには般若の様な顔でこちらを睨むアイがいた。ユイトは未だかつてない恐怖に駆られながらも、しっかりと説明をする。それでも納得しない彼女にユイトは「君の思いが”また”僕を守ってくれるから大丈夫だよ」と勢いで誤魔化し、部屋からなんとか追い出した。吹き飛んだドアは僕が回収するのかなぁ…そもそも壁が歪んでるし崩れているから、治らないか…作り直しやらされるのだろうか…なんて考えながら歯を磨き、水を飲み、朝日を浴びる。穴の空いた壁から下を覗くと、木っ端微塵になったドアが見える。もう二度アイを怒らせないと密かに誓うユイトだった。
そのままクローゼットからリッターの制服を取り出し着替える。これに着替えるのは神父達に集団攻撃を喰らう前日ぶりだと、しみじみとしながら裾に腕を通す。ボロボロで着れないから新しい制服を貰おうとしていた矢先の事だったから。だが、制服は意外にも綺麗に縫われており、以前の服とは到底呼べない姿とは見違える姿であった。所々縫ったであろう箇所や後から生地を足したのだろうと分かる様ではあったが、ユイトにはアイが直してくれたと言うだけで特別なものなのだ。
「おはようアイ、アサ、ガロン、ヤヨイ、サナ、それからジックさんにミズナ様」
「えぇおはようございます…朝食は出来ているのですが…まだハルマ様が来ていなくて」
「そうですか…昨日も話した通り、ハルマは五百年も日の当たらない場所にいたので、体内時間がずれているから、起きたらご飯を食べさせてください」
ユイトは着席し、皆とご飯を食べ始める。パンにハム、ウインナーに、ザワークラウト、キャロペット、そしてミズナが育てているりんごの木から取れたりんご。りんご以外は全て保存食である。理由は簡単、流通網が崩れたから。ホーリーは世界の秩序だけでなく、世界全体の物流の鹿目でもあった。それが崩れた今、豪勢なものは王族であっても、食べられない。もっとも、民間人よりはかなり良いものを食べている事には変わらないのだが。
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「ユイト…本当に一人で大丈夫?」
「あぁ心配しなくても大丈夫…なんたってアイツと戦うのは4回目だからね!もう負けないよ…!」
アイはその言葉を聞くとゆっくりと近寄り、青色のペンダントに触れ、自身の魔力の全てを注ぎ入れる。
「お…おい!そんなに魔力を注ぎ入れたら、しばらく魔法が!」
「だって…”私の思いがあなたを守る”んでしょ?ならしっかりと守れるようにいっぱい入れないとでしよ?」
少し悪い顔をするアイを見つめ、微笑む。やがてアイは魔力を使い果たし、倒れる。間一髪ユイトが抱きしめて、アサに頼むと言い残し、預ける。ユイトは指輪に触れ、呪文を放つ。
「《ヤタガラス》」
ユイトから生えた黒い翼はユイトを空へと連れ去った。