これまでの全てから、卒業する日
「ねえ、貴方は本当にこれでいいの?」
「もちろんです。貴女こそよかったのですか?」
「よかったわよ、だって窮屈だったから」
貴族の子というのは、大体生活は保証されるが自由はない。
それは一般的に言って贅沢な悩みで幸せなこと。
でも、そのままでは貴方と一緒にいられないから。
「貴族という括りから、逃亡者となるわけですが」
「うん」
「覚悟は良いですか?お嬢様」
「…うん」
本当は、ちょっとだけ怖い。
それでも貴方と生きていたいから。
「貴族社会からの卒業、ね」
「卒業式でもしますか?」
「ふふっ」
彼の手を取って、走り出す。
「それは逃げ延びた先で、安定した生活を得た後に」
「ええ、そうしましょう」
「その代わり、もう一個卒業しましょう」
「え?」
きょとんとする彼も可愛い。
だけど、卒業しなければ。
「お嬢様呼び。あと敬語。もう、どちらも要らないわ」
「…レイチェル」
「リカルド」
「愛してる、レイ」
「ふふ、私も愛してるわ」
お嬢様呼びも敬語も、もう要らない。
貴族という立場も、お金も。
二人で生きていければそれでいい。
今までの全てにさようなら。
私たちはこれから、二人で生きていくわ。
「愛さえあれば生きていけるほど甘い世界ではないけど、俺がレイをこれから先ずっと守るよ」
「あら、私だって貴方を守るわ」
「レイ」
甘い視線。
お互いにキスをして、また走り出した。
ごめんなさい、お父様、お母様。
きっと貴方達は怒るでしょう。
でも、いつか親から卒業するのが子供というもの。
どうかわがままを許してね。
「聞いたか?遠くの国で貴族のお嬢様と従者が駆け落ちだってさ」
「いやぁ、愛だねぇ」
「親は血眼で探してるらしいが…見つかるのかね」
「少なくとも我が国まで逃げ延びたなら捕まらないだろうな。なにせ人種の坩堝だ」
「ここに逃げてきてりゃいいが…さて」
二人で営む定食屋でそんな会話が聞こえて、思わず口の端が上がる。
「ですって」
「いやぁ、素敵なお話だなぁ」
「ふふっ」
「まあ、しがない定食屋さんの夫婦には関係のない話だけどな?」
「ふふふっ」
過去の全てと完全に決別した。
過去のしがらみ全てから卒業した。
そして今手にあるのは愛する人との幸せのみ。
「幸せね」
「幸せだな」
願わくばどうか、この幸せを手放す日が来ませんように。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
楽しんでいただけていれば幸いです!
1000文字でどこまで描けたでしょうか…。
ハッピーエンドではありますが、まだまだ苦労もありそうな二人ですね。
作者としては、これからも二人が幸せに暮らして行けたらいいなと思います。
また、ステキな絵を頂きましたので挿入させていただきました!ありがとうございます!
ここからは宣伝になりますが、
『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』
というお話が電子書籍として発売されています。
よろしければご覧ください!