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地球の土地権利書

作者: 雉白書屋

 ある日、一隻の宇宙船が地球に着陸した。その現場には政府関係者、マスコミ、野次馬などが集まったのだが……


「まさか、地球の土地権利書を持ってくるとはな……」


 緊張の面持ちで出迎えた彼らに、宇宙人が差し出した手は握手のためではなく、【地球の土地権利書】を見せるためだった。

 宇宙人から身振り手振りや絵を用いた説明を受けたところ、これは一国だけで判断を下せるような問題ではないと判断した。よって、政府関係者は宇宙人たちをホテルに案内し、少し時間をもらうと、各国の首脳に連絡を取って緊急オンライン会議を開いた。


『それは、月や火星の土地権利書と同じようなものなのか』

『あれはジョークグッズでしょう』

『私はあれ気に入らないね。いったい誰の許可を取って売り出しているんだ』

『そんなことは今はどうでもいい。宇宙人たちは冗談で言っているわけじゃないんだろう』

『ああ、だが詐欺の可能性を疑ってしまうな』

『詐欺だとしても、それを指摘したところで、彼らが「はい、そうです」と認めてくれるとは思えませんね』

『そもそも、なぜ我が国に降りて来なかったのだ。我々なら堂々と対応してやったのに。武力を誇示してな』

『どこの国に降りて来ようが同じさ。あの宇宙船の映像を見ただろう。科学力は向こうのほうが圧倒的に上だ。戦争になって勝てるとは思えないね』

『しかし、それでは全面降伏したも同然だ』

『それで、相手の要求はなんだ?』


「彼らの要求は権利書の買取です。ただし、支払いは紙幣ではなく、彼らが貴重とする鉱石など地球の資源と引き換えです。計算したところ、その金額はおよそ――」


『……到底受け入れられない』

『各国が出し合えば、まあ、なんとかと言ったところでしょうか……』

『ますます、きな臭いな……』

『しかし、今から買い集めるのか?』

『そのために時間はもらったんだろう。それに、強制的に徴集すればいい。何せ、これは地球人類の危機なのだからな』

『企業がそれを納得するはずもないでしょう』

『しかし、ははは、地球を買えるだなんて信じられんよ』

『買うも何も、もともと我々のものだろう』

『いやぁ、惑星一つ買えるだけの富が世界にあるということを言いたいのでしょう』

『確かに。地球はもっと高値がついてもおかしくなさそうなのにね』

『彼らからしたらそんなものなのでしょう』

『ド田舎の土地といったところか』


「それで、どうしましょうか。今、最高級ホテルで彼らをもてなしている最中なのですが、どうも彼らはお気に召さないようで、早く結論を出すように急かされている状況です」


『それこそ詐欺師の典型的な手口だな』

『ええ、落ち着きがないのは、緊張していることを悟られないようにしているからでしょうね』

『だから、たとえそうだとしても、我々には連中に対抗する武力がないじゃないか』

『核を撃てばいい。それこそ各国が協力して同時にな』


「冗談じゃない! 宇宙船は我が国にあるのですよ!」


『その補償のほうが安く済みそうだな』

『うふふっ』

『ハハハッ』

『ははははははっ!』

『まあ、冗談はさておき、宇宙船はそれ一隻だけなのだろう? 当然、中に何人か待機しているだろうが』

『奪うというわけか。ホテルにいる宇宙人を人質にするのもいいな』

『物騒な話だ。もっと平和的に解決できないものかね』

『あれ一隻を奪ったところでな。うまく技術を吸収し、宇宙船を量産できるようになった頃には、向こうの宇宙戦艦が押し寄せて来ていることだろう……』

『衰退国は悲観的だな』

『なに?』


「言い争いはやめましょう。今はその時間も惜しいのです。一度、採決を行うのはどうでしょうか」


『ああ、いいだろう』

『ええ、いいわ』

『同意する』

『待て。各国が出し合うと言ったが、その割合はどうする?』

『まあ、当然同じというわけにはいかんでしょう』

『なんのためのGDPとそのランキングだ』

『おいおい、改竄している国もあるというぞ』

『それこそデマだ。我が国を侮辱するつもりなら容赦しないぞ』

『改竄していたとしても、上向きだろう。損するのはその国さ』

『いや、やはりここは平等に分担すべきだ』


 もつれにもつれた会議だったが結論は出ず、しかし、そもそも短時間で結論を出すなど土台無理な話である。やはり、あれは詐欺なのでは? と半ば希望的観測が入った結論に落ち着こうとしたとき、ホテルにいる宇宙人監視班から報告が入った。


「えー、はははっ、皆さん、お喜びください! 宇宙人たちはもう帰るそうです! ああ、ほら、テレビカメラの映像でも確認できますね、慌てた様子で宇宙船が帰っていきましたよ! いやぁ、はははははは!」


 各国首脳らは地球を去っていく宇宙船の映像を見て、ほっと胸を撫でおろした。


『やはりな。最初から詐欺だと思っていたよ』

『まったくです。毅然とした態度を示せば、相手はすごすごと引き下がるしかない』

『いや、詐欺だと決めつけていますが、艦隊を引き連れて、改めて侵略しに来る可能性はないのでしょうか?』


「いえ、それなら彼らはそうこちらに伝えてきたはずです。ですが、ただただ慌ただしく、そう、逃げるように帰っていったようです。ははは!」


『我々に見破られたことに気づき、捕まることを恐れて、逃げ帰ったというわけだな』

『しかし、連中が脅威であることは間違いない。次はもっと練られた詐欺、いや誘拐などがあるかもしれない』

『目をつけられたというわけだな。警戒せねば』

『それだけ地球人類が進歩したということでしょう。前向きに考えるならね』

『それなら、さらにもう一歩前向きに考えて、各国が協力し合い、対策を練っては』

『対宇宙人のか』

『賛成だ』


 こうして、世界は以前よりも少し平和になったのだった。






 一方、その頃……。


「だから、交渉なんてする必要はなかったんだ。翻訳機に言語データがない田舎の星の連中などとは。まったく疲れたよ」

「はぁ、腹が……」

「お前だけよく食ってたものなぁ」

「早く胃を洗浄しに行け」

「で、余計な時間も食ったわけだが、仕事は完了したのか」


「ああ、はいはい。向こうに買い取る意志はないということで」

「工事の予定に変更なし、と」

「まったく、わざわざ現地住民の意志など確認しなくていいのになぁ」

「彼らが自分たちの星を破壊しているのは、少しだが観察した結果からわかっていることだ」

「しかし、わからんね。自傷癖のある種族というのはさ」

「腹が……」


「早く行ってこいっての」

「ははは、あいつの食い意地もわからんね」

「さあ、撤収しよう。立ち合いも必要ないんだろう」

「当然。バイパス建設のための爆破許可よし。送信っと」

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