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2/2

Prologue

 彼女は死んだ。

 だが、それは許されなかった。


 「…………要求。起床しなさい」



 ……声が聞こえる。

 鈴のようにコロコロとした声で、堅苦しく、起きる事を要求される。


 …………目覚めたくない。

 何があったのか、覚えてるから。


 「…………再度要求。起床しなさい」


 穹岬リサは、車に轢かれて、電柱に頭をぶつけた。

 …………あの時の恐怖。そして、脳みそが弾ける痛みも、全て覚えている。

 覚えているからこそ、今の私がどう言う状態なのか、悟ってしまう。



 …………コレはきっと悪い夢だ。

 もう一度眠れば、きっと醒める夢なんだ。

 そうじゃなきゃ、こうやって考えられる訳ない。


 だから、起こさないで。

 …………どうか、殺さないで。

 このまま、眠らせてください。


 お願い「そのまま寝たら、醒めずに死ぬ」




 …………っえ?

 今、なんて言った…?


 「…………難しい事は省く。

 お前は死に掛け。それをなんとか引き伸ばしてる状態。寝たら解除される。……だから起きなさい」



 ―――――――――あぁ、やっぱり。


 淡々と言われた事実が、私の頭に入り込む。


 まだ生きてる?

 嘘を言わなくて良いですよ神様。

 死んだんでしょ、私。


 だったらもう良いです。このまま眠らせて下さい。

 …………もう、あんな思いしたくない。


 「…………お前は私を助けた。そのお返しをしなければならない」


 声がその様なことを言う。

 助けた?誰を私が?


 そんな事を考える間を与えずに、声は響く。


 「お前の行動は無駄そのもの。自分には何も返ってこない。それどころか、死んでしまっている。愚かな行動だった。

 …………でも、その行いは良い事だった。なのに、お前は死ぬ。それはおかしな事」


 声が近付いて来て、胸に手を当てられる。

 心臓の動きを確かめているのか、それとも鼓動を感じたかったのか。それは分からないけど、優しく、胸に手を当てられる。


 「怖い気持ちは、分からない。…………でも、それでもお返しはしたい。だから………………目を開かなくて良い。話だけ聞いて」


 頭を撫でられる。

 とても小さな手が、私を不安がらせないように、安心させるように、胸と頭を撫でる。


 「私は強い。……でも、この世界に干渉出来ない。だから、お前の家族に何かしてやる事は出来ない。

 …………その代わり、お前に何かしてやる事は出来る。」

 「……………………………………………」

 「単刀直入だと…………詫びとして、死を無かった事にする。その代わり、別の世界に飛んで行ってしまう。お前の親に会える保証は無い。…………こちらで、なんと言ったか…………えせ……いや、いかい……てん?」

 「……………………異世界転生?」


 重たい口を開く。

 なんだかその声が、感情のこもってないその声が、申し訳なさそうに聞こえたから。


 「それだ。…………死んだ事実を、消えたと言う事実で上書きする。それでまだ生きれる」

 「…………………………」

 「どうする。…………決めて」


 あぁ、残酷だ。

 残酷な事を、この声は言った。


 あぁ言うのは、チャンスのように書かれる事が多いけれど、そうではないんだ。

 アレはほぼ強制だ。強制的に転生させられるんだ。


 理由は簡単。断られるから。

 特に、トラックに轢かれてなんてのがそれだ。

 そんな痛みを味わって、それで生きたいなんて言える人は、それこそ頭が悪いのを通り越した狂人ぐらいだ。


 だから、神様は強制的に転生させる。

 そうしないと自分のミスは取り戻せないのに、断られたらどうしようもない。だったら、うんもすんも言わせずにそうした方が良い。物語的にも、神の都合にも良い。

 それに…………それだったら、勝手にやられた方も割り切れる。



 選ばせないでよ。

 そんな事やられると……どうしようもないよ。

 だって…………怖いんだもん。


 もう………………あんな思いも、苦しみも、嫌だよ……!!



 「…………………………ごめんね」


 声が謝罪してきた。

 ……なんで。そっちは悪い事、何もしてないでしょう?


 「……勝手にやる事は、お前を苦しめると思った。だから聞いた。………………なのに、苦しめた。……ごめん」


 ポタポタと、雫が顔に落ちる。


 抑揚の、感情のこもってない声が、とても、悲しそうに聞こえる。


 「………………お前が、怖いと言うなら。もう嫌だと言うなら。……責任持って、その魂を守る。…………誰にも傷つけられないように、大切に守る。

 …………でもそれは物として。人として扱ってあげれない。それはきっと、悲しい事」

 「……………………………」

 「生き返りを望むなら、隣に居られない。でも、誰もお前を傷付けられない様にする。誰もがお前を恐れ、敬う様にする。絶対に、お前が苦しまない様にする。………………なんだっけ………俺……てぃゆえ?と言う奴。

 力がある奴を襲う物は、居ないはず。」

 「………………………………」


 何で、ここまで気にかけるんだろう。

 何で、こんな事をしようとするのだろう。

 私はただ、子供を助けようとしただけなのに。



 ………………でも、コレを逃したら、生き返れない。


 コレは、本当のラストチャンス。

 人として死ねる、最後の機会なんだろう。


 ………………本当に嫌な気分。

 でも…………それでも。

 この、機械のようで、でもとても優しい声の想いを。

 …………無碍にしたくない。


 「……………………生き返る」


 そんな、傲慢にも等しい考えで、返事をしてしまった。


 あぁ、まただ。

 きっとこの後、後悔する。

 なんでこうしてしまったんだ私のバカって。

 本当に、最悪な気分。


 …………それでもやっぱり。


 「だから泣かないで。…………子供に泣かれるのダメなの、私」


 …………子供を泣かせる事は、どうしても許せなかった。


 「………………そっか」

 「でも、聞きたいことはある。」

 「…………………何?」

 「…………………貴方は、あの時の子?」

 「……………………………目を開いて見るべき。」


 理由の確認はしたい。

 ここまでする理由を。

 そう思って、目を開いた。





 ……………………()()()()()()()()()()()()()()()





 あぁ、そうか。そりゃそうだな。

 私としては、ただ助けただけだ。

 …………でも、コノコにとってはそうじゃない。


 自分の行いで、人を殺してしまってるんだ。

 ………それは、こんな顔にもなる。



 「………………なんであの場に居たの?」

 「……………………太陽を見たかった。…………それでお前を殺した。」


 …………コノコが何者か、全く分からない。

 今、この状況すらも分からない。

 …………でもその言葉で、なんとなく察した。


 この子は何も知らなかった。

 太陽がなんなのかも、車がなんなのかも。……それにぶつかれば、人が死ぬ事も。


 だから、あの場にずっと立っていたのだろう。




 「…………そうだね。私の自業自得とは言え、君は私を殺してしまった。

 何も知らなかったで済まされる様な事じゃないかもしれない。」

 「……………………」

 「………………………でも、こうやって話をしようとして、それをどうにかしようとしてるのなら………君は悪人じゃないんだろうね。

 …………………知らなかったが故の不慮の事故って奴でしょ?要は。だったら、しょうがない事だと思う」


 まぁ、それで私が死んじゃってるんだからどうしようもないけど。

 …………でも、コノコがそれを知らなかったのは、周りが教えようとしなかったからだろう。それで責めるのは、あまりに可哀想な事だ。


 「それを償おうって、必死に考えてるのなら、私から言う言葉はもう無いよ。……罵倒もしない。」

 「……………………いいの……?」

 「勿論、良くはない。全く良くないよ。……でも、それを肝心の君が理解出来てないのなら、責めても意味はない。だって君…………()()()()()()()()()()()()()


 撫でていた手が止まる。

 図星を突かれた様で、顔には出ていなかったけど、目は泳いでいた。


 …………そんな気がしたんだ。

 何故だかコノコは、人としての感情が、少し欠落してる様に感じたから。

 …………驚きはしなかったけど、同時に悲しくもなった。


 「…………そんな子を虐めても、こっちが泣きたくなるだけだし。それに君だって辛い。

 自分には全く分からない事で責められて、どうする事も出来ないんだったら、それは本当に悲しい事でしょ?」


 だから、もうコレで良い。

 もういいじゃないか。

 確かに、家族にはもう会えない。


 …………だけど、こうやって謝りに来てくれた。

 ……………………それだけで、充分じゃないか。


 「それで君が救われるのなら、それで良いよ。転生でも、異世界に飛ばしても良い。……それで、私の事を引きずってくれないのなら。」

 「でも……それでは良くない。

 だって…………それは、ゼロに戻すだけ。()()()()()()()()()()()()


 ………………分かった、ようやく。

 コノコは裁かれたいんだ。


 罪を犯した罪悪感は無い。でも、それが罪だと言う事は分かる。だから、裁かれなければならない。

 ……もう、それだけで充分なのに。



 欲張りな子だ。

 償った上で、それでも何かお返しをしようとしている。


 「……分かった。こうしよう?貴方がいる世界に飛ばして。そうしたら、私は必ず会いに行く。

 会いに行って、私を殺した責任を取らせます」

 「…………せきにん?」

 「貴方は、何も知らなかったから、私を殺してしまった。だったら、次からそんな事を貴方が起こさないように、貴方にいろんなことを教える。

 私はバカだから、どこまで教えれるか不安だけど。人として、当たり前の事を教えてあげる」

 「………………………でも、それで取れる?」

 「私にとっては、それで充分だから。……貴方がまた、同じ過ちを犯さなければ、それだけで充分だよ」


 間違えたのなら、間違えないようにすれば良い。

 人はそうやって、成長する物。でも、それを教えてあげれる人が居ないと言うなら。


 …………私がやってあげないといけない。

 コノコが犯した過ちを知ってるのは、私しかいないのだから。


 「……指切りしよっか!その方が良いでしょ?」

 「ゆびきり?…………なに?」

 「知らないか。……約束する時のおまじないだよ。ほら、小指出して」


 小指を差し出す。

 少し躊躇いがあったけれど、ソノコも小指を合わせてくれた。


 指を絡めて、お約束の言葉を言う。


 『ゆ〜びきりげ〜んまん、嘘ついたら針千本の〜ます。指切った!』


 そう言って、約束をする。

 必ず会いに行くと言う呪いを、自分に掛けて。



 「…………ハリセン?」

 「そうだよ、ハリセン!だから待っててね?絶対に会いに行くから!」


 ポカ〜ンとしてる顔を見てると、悩んでたのがアホらしくなってくる。

 何を悩んでたってのだろうかな私は。

 こんな子供に、生きた状態でもう一度会えるかもと思っただけで、それだけで理由としては充分なのにな。


 全く…………我ながらどうかしてるとは思うけれど。

 ……もう、迷いはありませんでした。


 「……さ!そうと決まれば、生き返らせてくださいな!サクッと、お宅に行かないといけませんので!」

 「…………私の居るとこ、人の来れる場所じゃない」

 「それでも行きます。……なんせ、私バカなので!」


 恐怖はある。あの時程ではないにしろ、きっとまた、死ぬ感覚を味わうのだろうと。

 でもそんな事より、コノコの所に行きたいと、そんな事を強く思いました。だから、こんな所に用はない。


 「……………!……ごめん、もう時間ない」

 「時間?…………もしかして私、もうちょっとでDIE?」

 「……ぽっくり」

 「なんとぉ!?」


 思った以上に余裕が無い!?

 いや確かに脳味噌飛び出してるけど、そんくらいヤバいの!?


 「すぐに上書きする。……でも転移出来るのは魂だけ。身体は私が作る。ひょっとしたら、色々勝手が変わるかもしれない。」

 「えぇ?!身体を作るって………………あ、じゃあさ!身長高めに作ってくれない!」


 さりげなくお願いをします。

 作ってくれると言うのなら、ひょっとしたら私のコンプレックス、低身長をどうにかしてくれるかもと思ったからです!

 コレで、チビなんて言われる事は無い!


 「ごめん無理。身体は器。合ってない器だと大変な事になる。」


 申し訳ない顔と、抑揚のない声が全く合ってないけど、ハッキリ断られました。…………なんとなく察してたけどさぁ!!


 「…………ちなみに合ってなかった場合は?」

 「ぽっくり」

 「おぅけい、そのままでお願いしますっ!!!」


 意地でも要求は通せませんでした。……チキショウめ!


 「あ、あと私の力の半分ぐらいあげとく」

 「…………えっ?!」

 「そんくらいあったら、野垂れ死はしない」

 「いやいや待って?!!」


 ?、と言うか文字を浮かべてこちらを向く。

 いやいや、なんでそんな分かってないような顔するんだコノコは!?


 「私要らない!そんな、異世界で無双したい願望なんて持ってないから!!」

 「でもこっち、お前の世界と違って死が近い世界。そんな所で、何も無い奴は死ぬ。」

 「え、そんなにシビアな世界観なのそっち?」

 「……………………そっちで言う、第二次ぐらい?」

 「それただの世紀末!!!」


 異世界ってもっと夢がある物では無いでしょうか?

 死んだ後の人間が行って良いような場所じゃないと思うんですけど。


 「とにかく力は入れておく。馴染むのに時間は掛かると思う。……でも、多分そこまで掛からないと思うから」

 「どっち!?時間掛かるのか、掛からないのかハッキリしてよ…………って?!!」


 肩を掴もうとした瞬間だった。

 急に身体がふわりと浮いて、どんどん上に向かって行こうとしました。


 「ちょっと!?なんか浮いてる!??まさか昇天!?え、私このまま死ぬの?!!」

 「違う違う。もう作ったから、そっちに飛ばそうと思って。」

 「作ったって十秒しか経ってないよ!?人の身体は粘土じゃありません!!」

 「元を辿れば皆、土。気にする事ない」

 「そう言う事じゃない……ってあぁ駄目だァ!?」


 私の周りを光が包んでいく。

 まるで、そのまま別の場所に放り投げそうな雰囲気すらある。もう、ここに居る時間はそんなに無いと思いました。


 だから、一番聞かなきゃいけないことを聞きました。……と言うか、会いに行く以上は絶対に聞いてなきゃいけない事です。


 「っ!……穹岬リサ!」

 「?」

 「私の名前!君の名前なに?!!名前を知らないと探せないよ!!」


 大声で、離れたコに聞こえるように話し掛ける。

 でも、首を傾げて、少し悩む様な顔をする。

 …………そして、顔を上げて、こう名乗った。



 「……………………………おうさま」

 「……へっ???」


 え?今なんて言った?

 王様って言ったの?

 いや、私名前聞いたんだけど??


 「じゃ、バイ」

 「…………いや、バイじゃなくて!?」


 その次の言葉は、その王様に届く事なく。

 私は光に連れて行かれた。



 

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