Prologue?
始まりではない。
皆様ご機嫌は如何でしょうか?
私は今、途轍もなく最悪な気分です。
あまりにどうしようもなく、こうして誰に話しかけてるのか分からないけど、こうしないとやっていけない程、最悪な気分です。
世の中、良い事をした奴から死ぬと言われていますが。……それって本当だったんだなって思っています。
逃げれるのならば、逃げたい。でも、もうそれをするには遅すぎる。であれば諦めて仕舞えば良いのに、それも出来ない臆病な人間なんだと、自分の嫌な所を突き付けられているような感覚すらして、本当に嫌です。
…………と、こんなに愚痴ってても意味がありませんので、さっさと本題に入りましょうか。
………………せめて、誰か聞いてくれていることを祈って。
はてさて、自己紹介といきましょう。
私は穹岬リサ
日々を退屈に、そして普通に暮らしているだけの、低身長女子高生です。
趣味はゲームとか、アニメに出てくるロボットのフィギュアを集めたりとか。………たまに、誰にも言えないような本を買っちゃったり?まぁそんな所。
好きな事は子供と遊ぶ事。
なんでって?だって子供可愛いじゃん。
子供はいいゾォ?ワイワイ騒いで遊ぶ姿はもう天使にしか見えないし、笑顔を向けてくる所なんて食べちゃいたいぐらいだし。そんな子に「おねぇちゃん!」なんて言われた日はもう絶頂モンですよ。
それに、もっと歳が下がると、女の子からは良い匂い、男の子はぷにぷにした感触。そして両方から少し高めの体温を感じられて……もう堪らんのです!
それに………………っと、脱線してしまった。失敬失敬。
とにかく、私の好きな物は子供という事です。
…………なんか、話してた事と違う気がするな?まぁいいか。
嫌いな事は、子供が大人のせいで泣いてしまう事です。
とにかく許せない。そんな所を見てしまって、なんど大人と喧嘩になったのか……数えるのも面倒くさいですが、そのぐらい大嫌いです。
なんならそんな大人、この世から消えてしまえば良いのに。
学校では、特に頭が良いというわけでは無いです。
テスト勉強で苦労して、なのに点数が上がらんという、無間地獄かな?と思える様な繰り返しをしてます。
…………あでも、国語とか英語とか、そう言う分野では毎回八十点以上は取ってます。何ででしょう。
部活はしていませんが、空手を習っています。
大会に出る為ではありません。なんでも護身の為だとか。…………私はそんなに、危なっかしい奴に見えたのでしょうか?親に聞いても、微笑まれて終わりです。
…………真相を知りたいと、ずっと思ってるんだけどなぁ。
家族は、私と母と父の三人家族。
別にお金持ちでは無いですけど、普通にご飯を食べて、普通に暮らしていける程のお金は持っています。
私が怪我をしたら、二人とも凄く心配してくれるし、何かあげたらとっても喜んでくれたり。……そう言った事が当たり前の、至って普通の家族です。……ちょっとしつこいけど。
そんな私ですが、たった今とても焦っています。
いや、焦ってるって言って良いのかな?
なんかもう、あぁこりゃダメだ。なんて思ってしまってる程、どうしようもない事態に直面しています。
下校して、友達と別れて家に向かってる途中でした。
いつものように、「今日の夕ご飯は……あぁとんかつだったっけなぁ。んじゃあご飯三杯いっちゃおっ!」なんて独り言を言いながら、道を歩いていました。
その時でした。
…………目の前に、裸の子供が見えたのです。
………………いや、裸ではありません。なんか身体に花がまとわりついてて、それが服になってる様な、そんな状態でした。
最初、何が起こってるのか全く分かりませんでした。
そんな服なんて知らないし、と言うか現実でその服あるの?とツッコミたくなりましたし。アノコ、可愛いけどどっちだ?付いてるのかな?なんて下世話な事も考えたりもしました。
……我ながら何やってんだか。
とにかく。
そんな不思議な子供が、道路の真ん中に突っ立って、空をじっと見つめていました。
私は思わず、「何してるの?て言うかその服何〜?」と聞きました。どうしても気になってしまった……
…………しかし、ソノコはこちらを向きません。
まるで、聞こえてはいるんだろうけど、自分の事を言われているとは思っていない様な感じでした。
ずっと、上を向いたまま動きません。周りの目を気にせずに。
「むぅ……」
その様子を見て無視されたと思った私は、そのままソノコに近付こうとしました。「もしもしぃ!聞こえてますぅ?!」と、言ってやりたかったのです。
……はい我ながら大人げない事だと思ってます、すみません。
しかし、向こう側から車が走って来たのが見えたので、近付くのをやめて橋に寄りました。
ソノコも端によるかなと思ったのですが、何故か動きません。
「お〜い、車来てるよ〜。」
そう言って促したのに、まだ動きません。
まだ無視するの?
だったらいいよ、無視すれば良い。そのまま車の運転手さんに怒られてしまえ!
そう思って、ソノコの横を通り過ぎようとしました。
車は前に進んでって、ソノコに近づいていきます。
でも、ソノコがいる事は分かってるから止まるだろう。そう思っていました。
…………ですが、車は止まりませんでした。
それどころか、速度も落とさずに近付いていきます。
「……?」
思わず足を止めて、車を見てしまいます。
なんで速度を落とさないのだろう。
目前で急ブレーキをして、ビビらせようとしてるのかな?意地悪な奴だな。
そう思いながら、車を見つめます。
…………でも車は、エンジン音を立ててどんどん近付いていきます。
…………それを見て、愚鈍な私でも分かりました。
きっと、ソノコを運転手は見ていないと。
「………!!?」
それに気付いた時にはもう、車はソノコの目の前に来ようとしてました。
でもソノコは相変わらず、空を見つめてばかり。そんなに見つめて、何が楽しいんだろうと思うぐらい、ずぅっと見つめています。
……車が止まる雰囲気を見せなければ、その子も避ける雰囲気を見せません。
「ッ駄目ェェ!!!」
居眠りかなんなのかは分からないけど、どちらにしろこのままじゃ轢かれてしまう。
そう思った途端、身体がその子の元に飛んでいた。
「ッ!!」
その子の身体を抱き寄せて、車から庇う様に、背中を車に見せて、立ちました。
運転手もそれで気付いてくれたのでしょう。
キキィィ、と車のタイヤが悲鳴を上げながら止まろうとする音が背後から聞こえました。
あぁ、気付いてくれた!助かった!!
そう思って安堵した瞬間。
………………私の身体は、背中から押されて飛び出していました。
「…………ガッ。」
そんな声が、自分の喉から出てびっくりしました。
そんな素っ頓狂な声が出るなんて、全く思ってなかった物だから。
何が起こったのか、全く分かりませんでした。
ただ、腰の辺りが無くなってしまったのかと思うぐらいの衝撃が襲って来たと思ったら、前の方に飛んでいたとしか言えません。
そして私が飛んで行った方には、運悪く電柱が。
このまま飛んで行ったら、きっと私は頭を打つんだろうな。そんな事を悠長に考えて。
「―――――――――」
恐怖はありません。それよりも先に来たのは、想像。
その時思い浮かんだのは、頭のかち割れた、私の死体でした。
「――――――――――――――」
さて、ではここからが本題です。
私は今、間違いなく死のうとしています。回避しようにも、錐揉み状態の身体じゃ回避なんて出来ません。この速度では、頭なんてかぼちゃのように割れてしまうでしょう。
教えてください。
どうすれば、ここから助かりますか?
どうすれば、頭が割れずにすみますか?
…………どうすれば、死なずに済みますか?
この際、腕が無くなっても、歩けなくなっても良いです。お願いですから教えてください。
幾ら馬鹿な娘でも、脳みそが無かったら死んでしまいます。こうやって必死に考える事も、今日の夕飯を考える事も出来なくなるんです。
今日の夕ご飯も食べれてないんです。
家族にスチャラカな成績も見せれてないんです。
この後、友達と電話しながらゲームする約束もしてるんです。
……明日、お母さんとお父さんと沖縄旅行するんです。
ずっと行きたかった沖縄。でもそんなお金無くて、ずっと行けなかった沖縄。そんなお金を、お父さんが必死で貯めてくれて、ようやく行けるんです。
…………………誕生日旅行なんです。
ケーキが好きじゃない私の為に、せっかく十六歳になるんだからと、二人が計画を立ててくれたんです。
三人で、一緒に行こうって約束してるんです。
お願いです。
助けてください。
私は、子供を助けただけなんです。
悪い事なんて、何一つしてない。する度胸も無い。
ただ、きっと、良い事をしただけなの。
だから、助けて。
誰でも良いから。
…………………死にたくない。
―――――――――――――――――――
電柱は近付いてくる。
彼女の頭を割って、その中身を出す為に。
―――――――――――――――――――
……………悪魔でも良いから助けて。
まだ死にたくない。
好きな事も我慢するから。
嫌いな事が目の前で起こっても、我慢するから。
勉強も、空手も頑張るから。
テストでいい点、絶対に獲るようにするから。
親孝行だって絶対にするから。
…………お願いだから助けてよ。
………………………………助けてよ。
…………………………………………たすけてよ。
―――――――――――――――――――
彼女の目の前にはもう、電柱がある。
もう回避は出来ない。ぶつかるしかない。
どんなに恐怖しても、コレだけはもうどうしようもない。
―――――――――――――――――――
しにたくないのに。なんでしななきゃいけないの?
おかしいよ。いやだよ。
しにたくないよ。しニたクナいよ。シニタクナイ。
―――――――――――――――――――
だが、もうどうしようもない。
電柱は、彼女の頭にすでにめり込んでいる。
……頭蓋が割れる音を立てながら、少女の鼻から血が吹き出す。
―――――――――――――――――――
……………イタイ
………………イタイヨ
イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ
―――――――――――――――――――
正気を失っても、現実は変わらない。
グチャ、と気味の悪い音がなる。
少女の頭はひしゃげていく。
その内、割れて中身が飛び出してしまうだろう。
―――――――――――――――――――
シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ!!!!!
……………そんな彼女の願いは叶えられなかった。
吹き飛ばされたその身体は、奇跡も何も起きずに電柱に吹き飛び。そのまま、彼女は頭を激しく打ちつけた。
……頭蓋はかち割れて、脳漿が弾け出た。
間違いなく即死の致命傷だ。
助かる事だけは無い。
身体がピクリ、ピクリと痙攣して生きようとする。
「………………………………」
そんな姿を、私は見つめている。
…………誤算だった。
誰も見れない物だと、勝手に思い込んでいた。
…………こっちには、見える者は居ない物だと。
…………………まさか、見られていたとは。しかも、死ぬ事はないと言うのに庇われてしまうとは。
………………………バカな事をする者も居た物だ。
人を助けて自分が死ぬなど、生物として破綻した行動だ。
自己生存は生物として当たり前のことだ。そんな事に頭が回らないほど、この個体は馬鹿なのだろう。
この様な者など、いずれ何処かでのたれ死んでる事だろう。
「………………………………………」
………………だが、なんだろうこの気分は。
……………………初めて助けられた。
同じ種族の者でなく、ましてや私という個体を作った者でもない。……なんの力も持たない、矮小な存在に。
……………そんな存在が、今終わろうとしている。
この世から消えてしまいそうになっている。
………………良いのか?
確かに、この個体は不遜な事をした。殺されたとて文句は言えない。
…………でも、それでもこの少女のした事は善だ。
正しい事だ。正しい事を、死ぬ事を覚悟していなかったとは言え為した。
……………そんな物が、こんな死に方をして良いのだろうか?
………………ダメだ。
この少女の為した善は、善で返さなければならない。
そうでなければ、この少女が死んだ意味がない。
……だが私に、この世界に干渉する力はまだ無い。
だから、この少女の家族に償いが出来ない。
…………だから諦める?
それは無い。それだけは、あってはならない。
ではどうする?
…………………………私はどうするべきだ?
……………………やはり分からない。
コレであれば、償いはできるだろう。
…………だがこれは、個体の意思を聞かずにする事では無い。
直接聞くしかあるまい。




