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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

忠虎

あの弁当の味は?

作者: 弥生はじめ

 雪が積もった3月上旬のある日。

 遠くからスーツを着た強面の男の集団がこっちらへ歩いて来る。

だんだん近付いてくる。

【前編】

 僕と親父は、ハスラーの車内からその様子を見ていた。買い物に出かけようとしてハスラーに乗って国道へ出ようとした時の事だ。

「なんかの集団が向こうから来るよ」

僕は言った。

 よく見たら、市議会議員選挙に立候補する津曲忠虎つまがりただとらと農協の前組合長の佐保龍雄さほたつおと小規模の酪農家で元市議会議員の本田甲三郎ほんだこうさぶろうだった。


 忠虎家族は龍雄ファミリーと家族ぐるみで仲が良い。二人共、幼馴染みで仲の良い同級生同士である。


 「今月の下旬に市議会議員選挙があるからその挨拶周りだろ、どうせ忠虎がまた出馬するんだろ。そこの派閥には関わりたくないから車出せ。行けー!いかんか-」

と、親父が不機嫌そうに言う。 

「そうだな」

と僕は言った。

 忠虎の集団は、向かいの家に入って行った。

 僕は、バックミラーを見た。後から少し遅れて忠虎の子分らしき板金屋の薫田源くんだげんが少し笑顔で、左手を腰に添え、30m程度後ろで右手で大きく手招きしながら大きな声で「おー、おー!ちょっと待て、ちょっと待て」というのが聞こえた。 

 無論、無視をして僕はアクセルを踏んで親父とその場を後にした。


 【中編-1】

 

 僕と親父は、隣町のでかいイオンに向かった。

 ハスラーの車内で

「あの集団からギリギリに逃げれたな」

親父はサングラスをかけ、笑いながら言う。 

「あなぁ親父!あの忠虎の家の事だから、コソッと金券配ったりして。だって、一部の近所の人があがめる位の大地主様おおじぬしさまだもん」

 笑いながら僕は冗談で言った。

「金券を配ったり、受け取ったら公職選挙法違反」

親父は強めに言う。

 僕は、………………………………………………。

「でもよ、あの忠虎は変にプライド高いから……」

親父は――――――――――――――、そして強めに

「隣の家の津曲惣之助つまがりそうのすけのデスラー総統みたいなツラ、あの面を見てから忠虎に投票する気が失くなった。別の候補者に投票することにした」

「僕もそう思った。惣之助の妻の克子かつこと長男の七之助しちのすけに散々と嘘つき呼ばわれされたし…、克子と七之助に『イスカンダルに行くからカネがいる』とか言って騙し取られそうになったし。あんなキング級の疫病神やくびょうがみだらけの派閥はばつの連中に関わりたくない」


「おめえー、いつだかの地区の祭りで泥酔した七之助に神社の境内で因縁つけられたよな?」

と、親父が言う。


「つけられた」

僕が言う。


「その1ヶ月後に七之助は、ビール4杯を飲んだ次男の信一しんいちが運転する軽トラックでパチンコ屋に行く途中、一時停止で止まっていたダンプカーに追突。しんちゃんは即死、七之助は植物状態になったそうだ。信ちゃんの1周忌の10日前に、克子が泣きながら『ウチの七之助はそんな事したことない。この嘘つき!信一を返せ〜』って、おめえに怒鳴っていたな、惣之助も『てめぇは何かを勘違いしている。ウチの七之助はそんな暴言を言うような息子じゃない』って、すごい腱膜でおめえに詰め寄って来たよな」

と、親父が言う。

 僕はその時のことを思い出してしまった。


そして親父から少し強めに

「あの神社の境内で暴れたり、暴言を吐いたりしたら不幸が必ずやってくるから何があっても暴れたり暴言を吐いたりするなよ」

僕は、「わかった」と答えた。

 そんな会話をしつつ僕はハンドルを握っていた。

 親父はダッシュボードの中からガムを取り出して

「ガムでも食うか?」

と、僕に差し出してきた。僕は、ありがとうと受け取ってはすぐに口に入れてクチャクチャ噛み始めた。

 親父もガムを口に入れてクチャクチャクチャクチャ……。

 僕と親父は噛んでいたガムがかなり辛くなり、しばらくすると味がなくなりティッシュにガムを包み車内のゴミ箱に捨てた。

 そして、目的地の隣町のイオンの駐車場へハスラーを停めた。車からゆっくり降りてドアを閉めてイオンの店内に入っていった。


【中編-2】


 イオンから買い物を終えて家に帰って来た。

 ハスラーから降りたら、ポストにA4サイズの紙が挟まっていた。



   津曲忠虎後援会からのお知らせ


 後援会会長の本田甲三郎氏と統括責任者の佐保龍雄氏による応援演説をします。ご近所の皆さんのお誘いの上にお越し下さい。


 場所   梅集田ばいしゅうだ公民館

 時間   午前11時

   

 会費   1000円持参


 津曲忠虎氏が3期目も当選しますように、近所の皆さんで一致団結しましょう。




僕と親父は、これを見てイヤな予感が頭をぎる。

「こんなのに1000円出すなら、食堂に行ってカツ丼食べたほうがマシ」

と、親父は言いながらその紙をクシャクシャにしてゴミ箱へ捨てた。

「それは言えてるな。会費1000円出して500円位の海苔巻だったら損だもんな。そして、忠虎+お金=犯罪の臭いがプンプン、行きたくない」

と僕は言う。

 この地区では、忠虎派閥は少数派なのである。


 その日の午後は僕と親父は、ハスラーの中を片付けていた。

「このCDは要らないから部屋に持って行くか」

「おめえ、これも要らないよな?」

「要らないから捨てる」

などと会話していた。

 

 ふと道路の方を見ると、雨が降っていないのに隣の家の克子が傘を持って、僕と親父の方へ傘を向けながら何かを持って野ネズミのように走り去って行った。


「いくら傘で隠しても歩き方で克子ってわかる、どうせさっきの後援会で余った弁当でも配っているんだろ」 

 親父が大きめの声で言う。

 僕は、克子が何処に配るのか見ていた。

 高橋短造たかはしたんぞうの家と、克子と仲が良い津川のじいさんの家に配っていた。


 そして克子は、また傘で隠しながら僕らの前を通って帰っていった。

そして、僕と親父も家へと入って行った。


【中編-3】

 シルバーのランディが忠虎の選挙カーなのである。

 忠虎の選挙カーからは、龍雄の妻の留美子るみこの声で、


"地元の梅集田ばいしゅうだの津曲忠虎〜、忠虎です。 みなさん是非投票用紙には、津曲忠虎 とお書きくださるようお願いに参りました"

 

「いくら何回も来ても投票しないから、出なくていいぞ、あの面なんか見たくない」

親父が言う。

「それは僕もだ。」

僕と親父は、顔を合わせて頷く。

「選挙期間の最終日に、忠虎の選挙運動員が全身白い服着て忠虎のおめんを被って、オリジナルソングを歌ったりスピーカーからその曲を流したり、オリジナルダンスを踊ったりして…クスクス」

僕が言う。

「それじゃあまるで、どっかの大昔にあったカルト団体みたいじゃないのか」

親父が大きな口を開けて笑いながら言う。

僕は…………。

「忠虎派閥は、ある意味で一種の宗教みたいなものだよ。その派の人たちってみんな頭可笑しいし。親父が倒れた時、救急車に忠虎が乗っただけのに克子は『忠虎さんが救急車に乗ったお陰で宇宙からくるナントカを防いでくれたから、おめんの親父さんの病気が治ったんだ』とか言うし…、治したのは医者なのにな」

「あのな、そういう人は草刈り機の刃のネジと一緒。言っていることわかるだろ?」

親父は言うのであった。

「わかるわかる!逆ネジってやつでしょ。」

僕が言う。そして納得した。


 僕と親父はハスラーに乗って、期日前投票に来ていた。市役所の1階で期日前投票は行われていた。

 一番乗りをしていた。でもまだ始まらない。

「何時から始まるんだ?」

親父は言う。

「8時半からです。もう少しお待ちください」

市役所の職員が応える。

 期日前投票が始まった。僕と親父は選挙権のハガキを職員に見せて確認をされ、投票用紙を受け取った。 

 投票箱に入れてハスラーに乗って家に帰った。


【後編-1】


 忠虎の当選が判明した。きっと忠虎は選挙事務所でも歓喜の雄叫びをあげているのだろう。

 そして忠虎の子分たちは、「やったッ!!さすが忠虎親分!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」と言っている頃だろう。

 僕は仕方なく忠虎の選挙事務所に電話を入れた。

「真紀子さ…ん?」

「あんやー、朋弘ともひろちゃん」

「忠虎さん3期目の当選おめでとうございます。」

真紀子は電話の向こうで、

「フォーッ!フォッフォッフォー!フォーッフォッフォー………」

と、叫んでいた。

 聞いた僕は、

「………………………………失礼します」

と電話を切ったのである。


【後編-2】

 それから10日後の事である。

 見覚えない黒いキザシが家の前に止まった。バンッ、バンッっとドアを閉める音がした。スーツを来た2人の男が僕の家の玄関先にやってきたのだった。

僕は玄関の戸を開けて

「どちらですか?」

と尋ねた。

すると

「警察です」

と2人とも身分証を見せた。まるで刑事ドラマの世界のようだ。

「ここら辺で何かしら事件があったのですか?」

と僕は言う。

 2人のうちの1人の刑事が

「この地区で市議会議員選挙がありましたよね。津曲忠虎さんが、後援会で有権者に弁当と缶ビールを配ったそうです。それが法律に触れる可能性がありまして…」

 僕と親父は、あのチラシのことを思い出した。あの時に弁当と缶ビールを配っていたなんて初めて知った。

「まず、入ってください」

と言って僕は2人の刑事を玄関に招き入れた。

椅子を2つ持って来て、

「これに座ってください」

と刑事さんに座ってもらった。

 玄関には、僕と親父と2人の刑事という異様な感じだ。

 刑事の聞き込みが始まった。

「お2人とも津曲忠虎後援会から弁当と缶ビールをもらいましたか?」

僕と親父は

「もらってないですし、2人共お酒飲めないです」

2人の刑事は頷いた。

刑事と色々と世間話をした。

「ウチの家は津曲忠虎の分家でして」

親父が言う。

「おめだ、忠虎の肩持ってないか?」

1人の刑事が怒鳴るかのように言った。

「忠虎はくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするから肩は持ちたくないな」

親父は言う。

「お巡りさんの肩を持ちたいですよ!」

僕が言うと2人の刑事はゲラゲラ笑う。

 「隣の家の津曲惣之助は去年まで、忠虎後援会の会長をやってましたよ」

親父が言う。

「なるほど、貴重な情報ありがとうございます」

2人の刑事が言う。

そして刑事の帰り際に

「また何かありましたら協力します」

と僕が言う。

「ありがとうございます」

と2人の刑事は会釈をした。

 2人の刑事は35分位聞き込みをして「失礼します」と言って乗ってきた黒いキザシで帰って行った。


【後編-3】


それから 2ヶ月が経った。


 何気にテレビを点けたら、リポーターが警察署前で


"縦足市たてあししの市議会議員選挙で有権者に弁当と缶ビールを配って投票を依頼したとして、公職選挙法違反と買収容疑で縦足市議会議員津曲忠虎容疑者と後援会の会長の津曲惣之助容疑者と統括責任者の佐保龍雄容疑者が逮捕されました。3人は容疑を否認しております。弁当を受け取った有権者は15人以上にのぼると思われ…"



 地元のラジオを点けてもこのニュースで持ちっきりなのである。

 

「あの時、行かないで良かったな」

親父は言うのであった。

「これも神社の神様のお陰かもしれない」

僕が言うのであった。

「統括責任者の甲三郎は1ヶ月前に、ビニールハウス内で突然心臓発作で倒れて亡くなってたらしい。隣の家の惣之助が弁当を配った首謀者として捕まったんだと」

親父が言うのであった。


 津曲忠虎は議員辞職をした。そして今までの議員報酬と政務活動費の返還を縦足市から求められている。が、妻の真紀子と息子の虎之助とらのすけは夜逃げをした模様。


 忠虎とはどんな人物だったのだろうか。

 

 そして、配られた弁当はどんな味だったのだろうか…。

 受け取って食べた有権者のみぞ知る味。



 


終わり


 







 

 

 


 



 





 



 



今年、実際にあった事をフィクションも混ぜて制作しました

 筆者の家はマトモな家ではないと判断され、違法な弁当は来ませんでした。


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