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勇者は魔王と恋に落ちる  作者: 琴実
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異世界青春譚5

アケボノは焦っていた。(まずいな、家に帰るのが遅れちゃう…)アケボノの故郷の町とは離れているが、この街と同じ国ということもあり、いくつかの懐かしい商品があり、つい目移りしていたのだ。また、つい人懐こい野菜売りの小母さんと話し込んでしまったことも原因の一つだ。割引してもらったし良しとするか、それよりも急がなければなどと考えながら歩く足を速めたところだった。後ろから声をかけられた。「なぁお嬢ちゃん?、時間あるか?俺たちと遊ばないか?」思わず振り返ると、そこには5人のごろつきがいた。チンピラもどきとでもいうべきか、いかにもヤンチャしてる若い連中ですという風貌だ。5人とも顔には下卑た笑みが張り付いている。「すみません、家に帰らないといけないので」嫌悪感を顔に出さないよう注意しながら笑みを顔に張り付け簡潔に答えて前を向き、その場を去ろうとする。「待てよ」ごろつき1に左手をつかまれる。「っ何ですか?放してください」困惑しながらも、ごろつき1を軽くにらむ。「いいじゃねぇかよちょっとくらい」ごろつき1はへらへらした顔を崩さずに言う。そうだそうだとごろつき2、3がはやしたてる。

「嫌です、急ぐので。放してください。」アケボノは愛想笑いの仮面をはぎ取り、ごろつき1を正面からにらみつける。「は?なんだよ、愛想ねぇな」ごろつき1の顔から下卑た笑みが消え、不機嫌そうな表情をあらわにした。ごろつき1がつかんでいる腕を引っ張り、アケボノを路地へと連れ込む。抵抗しようとしてもアケボノの小柄な体格と軽い体重ではガタイのいいごろつき1の相手にもならない。「やめてください、放してください」アケボノは精一杯声を張り上げる。が、人気のない路地では、アケボノの声は誰にも届かない。

(畜生、どうしよう、どうしよう?魔法さえ使えたら…)アケボノは魔法の複数発動を習得していない。アケボノが得意とする雷魔法で後遺症が残らないように意識を奪うことは簡単だが、そうすると変身の魔法が溶けてしまう。万が一アケボノの正体が『魔王アケボノ』であるとばれたらまずい、とてもまずい。

(どうしよう、どうしよう…もう魔王であるとばれるのを覚悟して雷魔法を使う?いや、でも私の正体がばれたらアカツキに迷惑がかかる…もう抵抗しないでおとなしくしているしか…?)思考がぐるぐるとアケボノの頭を駆け巡る。目の前に立つごろつきの姿がゆがみ、自分が涙ぐんでいると気が付く。「ぎゃはは、こいつ泣いてるぜ!」ごろつき1の声がアケボノの鼓膜を揺らす。「ぎゃははっ、はびゅぇ?」すべてを覚悟し、アケボノが目を固くつむると、唐突にごろつき1の笑い声が唐突に途切れた。思わず目を開けると、そこにはアカツキがいた。あまりの驚きに声を発することもできず、ただぽかんと場を見守る。アカツキはどうやらごろつき1の左頬を殴ったようだった。アカツキが吹っ飛ばされたごろつき1の胸ぐらをつかみ、今度は右頬を殴る。どうやらそれでごろつき1は伸びたらしく、白目をむき、体を脱力させた。アカツキはごろつき1の胸ぐらをつかんだまま、腕を振る。ごろつき1が宙を舞い、壁にたたきつけられた。ごろつき2,3,4,5が我に返り、「お、おいおいうちのリーダーに何してくれてんだよ!」とアカツキにガンをつける。アカツキは何も答えず、魔力強化を発動させる。瞬く間にごろつき2,3,4,5との距離を詰めたかと思うと、ごろつき4人がまとめて吹っ飛んだ。何があったのかは分からないがアケボノの目には追えない速度で何かをしたのだろう。ぽかんとしているとアカツキが魔力強化を解き、アケボノへと歩み寄る。「ごめんな。遅れた。」アカツキは悔やむような顔をして、気遣いのあふれるまなざしをアケボノへ向ける。感情の波が決壊し、うまく魔力操作ができなくなる。姿が自分本来のものに変わっていくのを感じながら、アケボノは泣いた。ぼろぼろと熱い液体が頬を伝い、落ちていく。「ああ、ごめんな!?」アカツキはおろおろしながら謝る。

違うのに、貴方が悪いんじゃないのに。しゃくりあげるのを我慢しているせいでうまく言葉にできない自分を恨めしく思いながら、アケボノは泣き続ける。

ふとアケボノの頭にアカツキの手がのせられた。不器用に頭を撫でられる。

驚きで思わず涙が引いていく。それでもアケボノは頭をなで続ける。ゆっくりとアケボノの涙が止まる。アケボノは鼻をすすり、涙を拭う。「ありがとう。」ごめんなさいと続けようとしたが、やめた。「うん」と頭上からやさしい声が返ってくる。「帰ろう、俺たちの家に」優しい声が続けた。

アケボノはこくりとうなずき、ふと気が付く。家の方向を見ていたアカツキに「ねぇ」と話しかける。長身のアカツキと小柄なアケボノでは身長差があるため、アケボノは精一杯つま先立ちをする。こちらを振り向いたアカツキのほほに、自分の唇がそっとあたった。

心臓がうるさいほどどくどくと言っている。頬に血が上り、熱が集まって真っ赤になるのを感じる。ふとアカツキを見ると、きれいな黒色の眼が零れ落ちるのではないかと思うほど目を見開き、口をあんぐりと開けて、顔を真っ赤にしている。改めて自分のした行動を自覚し、ただでさえ赤い頬がさらに赤くなっていくのを感じる。

「そっそれじゃあ、私先に帰ってるね!?」アケボノは魔力強化を発動させ、全力で全速力で家へと駆けだした。


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