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勇者は魔王と恋に落ちる  作者: 琴実
3/7

異世界青春譚3

鐘の音が聞こえる。起きる時間だ。肌を突き刺す寒さの中、ボロボロで薄っぺらい布団をどかし、部屋を見渡す。石造りの個室は独房のようだ。窓はなく、部屋は暗い。ドアを開け、「教室」に向かう。足取りは重いがそれを表に出してはいけない。「教室」には少年たちが集まっていた。12,3歳だろうか。500人ほどが一堂に会す。少年らの顔に表情はなく、騒いでいる人はいない。異常な光景だが、もう慣れた。教官の合図で、木刀を使った試合が始まる。殴り合い、鍔ぜりあう。魔法が飛び交い、魔力光が「教室」を明るく照らす。相手の木刀を飛ばし、首筋に木刀を突きつける。「…負けました」苦虫をかみつぶしたような顔でで相手が告げる。この「教室」に敗者はいない。負けが込んだ者やけが人、病人は、いつの間にかいなくなる。どこへかは知らされない。知りたくもない。最初は700人ほどいた仲間たちは、半分になった。

仲間たちの数が300人を切ったころから真剣を使った試合が始まった。仲間たちはさらに減るようになった。そして最後に生き残った二人での試合が始まった。

試合開始の合図より後のことはよく覚えていない。気が付いた時、相手は右肩から先をなくし、血の海の中にうずくまっていた。

その日からアカツキの目は見えなくなった。世界には色がなく、すべてが白黒に見えた。

それでも、色をなくした目でも、初めて会ったアケボノは誰よりも色鮮やかに、誰よりも美しく、色づいて見えた。

「…ツキ!アカツキー!聞こえてますか!アカツキ?」耳元で鈴を鳴らすような声が聞こえる。アカツキの意識が急速に覚醒へと向かう。目を開けると、そこにはアケボノがいた。初めて会った時のような絢爛豪華な服装ではなく、作りは良いものの街中でも違和感がない、白いワンピースを身にまとっている。「聞こえてるよ。おはよう」あくびを噛み殺しながら顔をほころばせ挨拶を返す。布団から起き上がり、カーテンを通り過ぎて柔らかく降り注ぐ太陽の光を浴びる。アケボノとアカツキが初めて出会った日から三日が経過した。

アカツキとアケボノは相打ちを偽装し、シャドウヴェイル国から旅立った。身を隠しながら魔王城から山を3つと海をこえ、つい昨夜からアケボノの生まれ故郷であるエラルドリーフ国の片田舎に身を寄せていた。人目は少なく、空気はおいしく、景色は美しい。のどかでいい国だ。窓から見える草原に意識を集中させつつ思う。

「市場に行ってきますが、何か食べたいものはありますか?」アケボノが柔らかく笑いながら言う。「なんでもいいよ、アケボノが食べたいもので。」「そうですか…では、サンドイッチはどうでしょう?天気もいいですし、ピクニックしません?」アケボノの笑顔は明るい。万が一を考えて、存在を最小限に抑え、腹が減れば野草をかじり食つなぐ生活から抜け出せたからだろう。「それでは、行ってきます。10刻までには帰ります!」ひときわまぶしい笑顔を浮かべるのと同時にアケボノがその姿を変える。白いワンピースはそのままだが、銀色の長髪は茶色のボブに、紅玉のように赤い目もハシバミ色に変わる。背が少し伸び、かわいらしい顔はどこにでもいそうな平凡な顔つきにと変わる。「どこにでもいそうな村娘」という形容がピッタリな外見になったアケボノは家を出て行った。「いってらっしゃーい」と窓から声を張り上げるとアケボノは振り返り、にっこりと笑った。

「さて、何しよう?」アケボノは10刻までには帰るといった。今は7刻半なのでアケボノが帰ってくるまで2刻半ほどの時間がある。ふと窓の外に意識が移る。そういえばエラルドリーフについてよく知らないな、となんとなしに思ったアカツキは、家を出てみることにした。


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