表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/75

3-3 チーム

「はああああぁ~っ,あいつほんっとにうっぜぇっ!」


 カフェテリアでキャサリンはふんぞり返って吠える。


「キャサリンちゃん,机の上に足載せちゃだめだよ……。」


「あ,わりー。」


 コハルに言われて,キャサリンは素直に足を退ける。カミラに言われた時とは態度が大違いだ。


「うう、ごめんなさいみなさん。こんなに迷惑かけて……。」


 ヘレンがまたしょぼくれながら言う。


「おまえさぁ,ふにゃふにゃしすぎなんだよ。だからなめられんだよ。あんな奴ぶっ飛ばしちまえばいいのに,なぁ!?」


 キャサリンは空中を殴りながらコハルに同意を求める。


「だ、駄目だよ……仲良くしようよ……。」


 グループの面子で集まって昼食を取ろうと言う時に,カミラだけがこの場にいない。


「仲良くっていったてさ,あいつが自分でアタシたちのこと見下してんじゃん。コハルも他の授業で似たようなことあっただろ?」


「う~ん,まあ,そうだけど……。」


 確かにカミラは、他人の失敗や努力不足に対して厳しいことが多い。でもコハルは,彼女がその倍以上の厳しさを自分に向けているのもわかる。

 それにコハルが見る限り,カミラはそこそこ面倒見がいい子だ。あんな風にきつい態度を取るのは,ヘレン以外の相手では見たことが無い。


 やっぱり,個性の相性っていう奴なのかな……。


「……でも,カミラちゃんはその,真面目過ぎって言うか,ちゃんとやらなきゃって思いすぎてるだけって言うか……こっちから先に優しく接すれば,仲直りできるんじゃないかな……。」


 コハルは恐る恐る提案する。


「……それって,アタシに歩み寄れって言ってる?」


「っ……いや、別に,命令とかじゃないんだけど……そうしてくれた方が,私もうれしいし,へ,ヘレンちゃんも,二人が仲直りしてくれたら,泣かないで済むし……だよね?」


「そ,そうれふ……!れも,あっふぁりわたひふごふごふご」


「ちょっと待て,何言ってんのかわからん!ていうか一人で食ってんじゃねぇ!」


 キャサリンに吠えられ,ヘレンは慌ててコッぺパンを飲み下す。


「うぐぅっ……その,だから,仲直りは,して欲しいけど……でも,私が勉強苦手で,迷惑なのは変わんないから……ほんとに,ごめんなさいって、言う感じで……うう。私って,前からずっとこんな感じで……何にも、ひぐっ,できなくて…………。この先もずっとこのままなのかな、って……。」


 言っている間に,ヘレンはまたぽろぽろと泣き出してしまった。コハルはてっきり,彼女はマイペースな子なのかと思っていたが,実は相当気にしていたらしい。

 

 保育園では,教育ロボットが秒単位の行動で指導をしてくれたが,初等教育教室グルンドシューレではどの教科もある程度同じ内容を教えるものの,達成度はそれほど考慮されない。ドールの能力に合わせて,できるだけ得意なことを伸ばす方針だ。

 コハルも,なかなか思うようにいかなくて歯がゆい気持ちと言うのは、痛いほどわかる。キャサリンはできないことに頓着しないらしく,「気にすんなよ,適当にやればいーだろ。」などと言って励ましているが……。


 今この場面で,コハルがするべきことは――


「あ,あのさぁ,ヘレンちゃん。」


「はいぃ?もぐもぐ」


 ヘレンは泣きながらもしっかり口にはベーコンを咥えていた。コハルは拍子抜けする。……こう言う間の抜けた行動のせいで、彼女の涙が真剣なのかどうかがわかりにくくなるのかもしれない。


「た,食べながらで良いよ……。あのね、ヘレンちゃん。もしよかったら,私が勉強教えようか?」


「はぇっ?教えるって……。」


 ヘレンは首をかしげる。文脈でコハルの言っていることがわからなかったようだ。


「だ,だからさ,コハルちゃんは,言葉を覚えたり,数学解いたりするのが苦手なんでしょ?だから,もし私でよければ,教えてあげようかな,って……。」


 ヘレンは数秒沈黙して,


「え……あ,そっか。そんなの,ありなんだ……。」と低くつぶやいた。


そしてすぐにそれをかき消すように,目を見開いて大げさな笑顔で叫ぶ。


「え~~~~っ!本当にいいんですかぁっ!」


「う、うん……。わ,私も勉強はそんなに得意じゃないけど……最近,友達に数学教わって,ちょっと克服してきてるし。」


「うわぁすごい,コハルさん女神さまですぅ。是非お願いしますぅっ!」


「そ、そんな、大げさだよ……。」


「…………よしっ!じゃあわかった!あたしも手伝ってやる!」


 キャサリンがそこに加わった。


「アタシは最強だからな!どの教科もそれなりに得意だぜ……化学と数学以外は。あ,選択してない教科は勘弁な!」


「えっと,とりあえずは言語と歴史だけでいいんじゃないかな。調べ学習に必要なのは……。放課後とか,時間ある時に自習室で勉強しようよ。」


「うぅっ,ありがとうございます,二人とも……ヘレン,大感激ですっ!」


「だからお前大げさだって。アタシたちチームだろ?助け合うのは当たり前だぜ!」


 キャサリンはヘレンと無理やり肩を組む。


「そうそう,『困ったときはお互いさま』だよ……頑張ろうね,ヘレンちゃん。」


「はい!」


 ヘレンは屈託のない笑顔で叫ぶ。

その後ろを歩いているエリーが,そっとこちらを振り返る。そして,コハルに向かってそっと微笑んだ。


口元の動きが,「頑張ってね。」と言っていた。


 ……よし,私も頑張ろう!


 人間関係は難しいし,苦手なことをできるようにするのも難しい――それでも,友達と一緒なら、何とかなる気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ