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第一回戦 国語VS社会

   ●



 この物語はフィクションです。

 実在の学校とは何の関係もありません。



   ●



「ーーさあ、今年度もこの季節がやってまいりました、『予算はだれの手に!? 教科別トーナメント』!! 司会は私、放送部顧問の舞玖(まいく)、解説は校長の江良井(えらい)先生でお届けします」


「よろしくお願いします」


「各教科の先生方も控室で準備万端のようですね、江良井校長」


「先週の部活動別トーナメントも白熱しましたからね。今日の戦いも楽しみにしております」


「ええ、皆さん熱い試合を繰り広げてくれることでしょう。ーーでは、ルールの確認です。本日は教科別の戦いということで、先生方は自分の教科特有の道具や能力などを武器にして戦うことができます。そして、勝ち残った教科に今年度の特別予算が与えられます! 予算はいくらあっても良いもの。各教科とも、良い授業を行うべく、張り切っておりますね!!」


「子どもたちの為、工夫を凝らして頑張ってほしいですね」


「そうですね。ーーさて、勤務時間も限られていますので、さっそくまいりましょう。先日行われた厳正なる抽選の結果、第一試合は国語VS社会です!」


「ちなみに、くじ引きの際に確率を操ろうとした数学の最乃目(さいのめ)先生には、厳重注意と反省文の処分を与えました」


「いくら確率のスペシャリストであろうと、試合前の能力行使は反則ですからね。さあ、さっそく選手の入場です! まずは赤コーナー、国語担当、きらりと光る黒ぶちメガネで、今日も対戦相手の考えを誘導します、現代(あらしろ) 古典(ふるのり)先生です!」


「彼は30代という若さながら、情緒あふれる文章で人の感情を操ることを得意とします。実際、昨年度の試合では準優勝を飾りました。今年はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか」


「今年も期待できますね。ーーつづいて白コーナー、社会担当、北欧生まれの金髪碧眼、しかしその目の奥に燃える大和魂はサムライのごとし、アレクサンドラ・ブラキストン先生!!」


「小さい頃の日本旅行でお城に取りつかれて留学して日本史を専攻、1年前に大学卒業してすぐ本校へ着任されたばかりの彼女ですが、最近の悩みは初対面の生徒や保護者から英語教師に勘違いされることだそうです」


「もはや開き直ってネタにするしかない状況ですね。……さて、レフェリーである用務員の花坂さんの準備もできたようです」


「花壇の世話をして十数年、開花を見守り続けた視力で勝負の行方も見逃さないという花坂さんの名ジャッジ、期待しています」


「それでは間もなく時間となります。両者、リング中央で構えーー」


『ーーキーンコーンカーンコーンーー』


『『よろしくお願いします!!』』




「ーーさあ、試合(じゅぎょう)開始のチャイムが鳴りました! 両者開始の挨拶とともに武器を取り出します。現文先生が懐から取り出したのは……?」


「文庫本、ですね。汚れ防止のカバーがついているのでタイトルはわかりませんが、おそらくご自身で用意された本でしょう」


「対してブラキストン先生が取り出したのは、大きめの地球儀です!」


「地理の授業によし、歴史の授業によしの優れものです。当然頑丈な作りになっているので、鈍器としても活用可能ですね。生徒はマネしてはいけませんが、鍛えられた社会科の先生ならではの武器と言えます」


「さて、大きさの関係で取り出すのに時間がかかったブラキストン先生を前にして、現代先生は冷静に文庫本を開き、構えます!」


「さあ、現文先生得意のアレが来ますよ……!」





『【ピーーーー(著作権的にアウトなので削除)ーーーーーー!】』





「おおっと、さすが現代先生! スピーカー越しに聞いている我々の心をも揺さぶる素晴らしい朗読です!! 読み始めたばかりにもかかわらず、もうすでに会場の一部からすすり泣く声が聞こえています!!」


「このような隠れた名作を探し当てる嗅覚はもちろんですが、加えて彼の朗読技術も神がかっていますね。抑揚1つとっても、どうすればより聞いている人の心に響くか、よく考えられています」


「さあ、それに対するブラキストン先生は、地球儀を構えて駆け出すとーーなんと、そのまま地球儀で殴り掛かったぁ!!」


「……なるほど、そういうことですか。考えましたね」


「江良井先生、どういうことですか!?」


「現文先生の朗読による精神操作は、効果を出すために『文章の内容を理解できるだけの文字数を読み上げる』かつ『対象の脳内で状況を再現させる』という2つの手順を踏む必要があります。つまり、どうしても時間がかかってしまうのが欠点なのです。つまり、現文先生に対してもっとも効果的な攻撃とは、開幕速攻だといえます」


「なるほど! 事前のインタビューでは昨年度の現代先生の戦闘記録をしっかりと研究してきたとおっしゃっていたブラキストン先生ですが、こういうことだったのですね。これでは彼女に対して昨年度と同じ戦法は通じないと思った方がいいでしょう。さすが過去より学ぶ歴史を専攻されていただけあります!」




『現文先生、お覚悟! 『北欧アタック!!』』


「くっ……、【ピーーー(著作権的に削除)ーーー】」



「苦しい状況ながらも朗読を続ける現文先生に対し、ブラキストン先生が放つ強烈な『北欧アタック!』、ぶっちゃけどの辺に北欧要素があるのでしょうか!?」


「地球儀で殴り掛かる際、北欧のあたりが当たるように調節しているようですね。しかもぶつけるのは地球儀の球面のみであり、決して弓のとがった部分を使わないという高潔さ、さすがですね」


「社会科教師の鑑といえるでしょう! さあ、一方的に追い詰められている現文先生ですがーーおっと、ここでついに苦しくなったか、文庫本を閉じてしまいました!!」


「ブラキストン先生の攻撃を文庫本で受け止め始めましたね。カバーがついていますでの、そもそもの防御性能も上がっています。冷静な判断と言えるでしょうが、しかし、得意の朗読が止まってしまいました。さあ、現文先生、どうするのでしょうか?」


「さすがの現文先生も、授業準備の合間に文庫本の文章を丸暗記するのは厳しかったようです。多忙のため仕方ないこととはいえ、苦しい展開ですがーーおっと、現文先生、大きく息を吸ってーー」




『ーーずーざらずーざりずーぬーざるねーざれざれ!!』


『……くっ、意識がーー!?』



「これは、古典名物の活用形暗唱です! 現文先生、古典の内容に切り替えてきました。先ほどまでの朗読と違い、これは一瞬で詠唱できます!!」


「打消しの『ず』の活用形ですね。理解しづらい方たちにとっては脳ではなく脊髄での反射的に眠気を誘う呪文でしかありません。文系のブラキストン先生だからこそ耐えていますが、それでも足にキているようですね。もし理系の方がこの攻撃を喰らえば、一瞬で意識が刈り取られることでしょう」


「現文先生、なんとも恐ろしい奥の手を披露してきました! これはブラキストン先生、後がないか!?」




『まる まる むー むー めー まる!』


『ーーなんの! 武士は食わねど高楊枝!!』




「おっと、ブラキストン先生、ここで新たな武器をとりだしました。これは……世界地図、でしょうか?」


「黒板の前に吊り下げるタイプの、頑丈で大きな世界地図ですね。さすがブラキストン先生、奥の手を警戒してこのような対処方法も用意していましたか」


「というと?」


「あの地図は布製ではなく表面加工が施された紙製です。なので広げたり動かしたりするたびにバサバサガシャガシャと大きな音がします。よってその形状も相まって、防音性能の高い盾として機能するのです」


「なんと、あの地図にそのような効果が!? 飛び道具の現文先生に対するは地球儀(けん)地図(たて)を装備したブラキストン先生。これはわからなくなってきました!」


「距離を制した方が勝利を掴むでしょうが、奥の手を封じられた現文先生の苦しい状況は変わりませんね」




『な に ぬ ぬるーー!?』


『切り捨て御免!!』




「ブラキストン先生、地図(たて)を構えたまま現文先生へ突っ込んだ!」


「しかも、縦の裏には地球儀(けん)も構えられています。防御と攻撃を兼ね備えたシールドバッシュ。これは強烈ですね」





『ぬれーーぐああああぁぁぁ!』




『ーーキーンコーンカーンコーンーー』


『勝って兜の尾を絞めよ! ありがとうございました!!』





「ブラキストン先生の強烈なぶちかましを喰らい、現文先生ついにダウン! レフェリーの花坂さんの判断の基、試合(じゅぎょう)終了のチャイムが鳴らされました! 第一試合の勝者は、社会担当、ブラキストン先生です!!」


「事前の対策を怠らなかったブラキストン先生の探究心の勝利ですね。現文先生の奥の手を含め、とても見ごたえのある良い試合でした」


「さて、続いての第二試合の組み合わせは、昨年度優勝した体育VS英語となります。準備を始めますので、昨年度の試合映像を見つつ、しばしお待ちください」



   ●

注:教科に対する印象は、筆者の個人的な偏見によるものです。

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