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夏の盛り1

その日は早朝から末枯野剛士が車で迎えに来た。

長期の宿泊だったので荷物も多いと車で来たのだ。


夕矢は夕弦と共に朝食を済ませると車に荷物を乗せて一路津洗へと向かった。


初めての津洗である。

夕矢はドキドキしていた。


弓弦は苦く笑いながら

「ま、楽しんでくれ」

と言い運転は剛士に任せて流れていく景色を見つめた。


ルフランリゾート津洗に着くとフロントチェックで荷物の点検を受けて中へと足を踏み入れた。

夏休みでそれなりの人がいるが…さすが一流のホテルである入口からホテルマンの応対まで丁寧であった。


夕矢は弓弦と剛士と共に中へと足を踏み入れた。

そこに夏月直彦と白露元と彼らの家族が待っていた。


直彦は元に目を向けると小さく頷き末枯野剛士と東雲夕弦と夕矢に目を向けた。

「久しぶりだな、末枯野に東雲」

と呼びかけた。


剛士は笑みを浮かべ

「久しぶりだな」

と言い、夕弦に目を向けた。


9年前のあの日。

自分が彼女を引き留めなければ…と、ずっとずっと後悔し続けてきた。


彼女を死へと導いたのは自分なのだ。

夕弦には紡ぐ言葉が見つからなかったのだ。


夕矢は兄の苦しむ姿に唇を噛みしめるとスッと直彦を見た。

「夏月先生…初めまして」


直彦は夕矢に目を向け

「確かに会うのは初めてだな」

夕矢君

と告げた。


夕矢は携帯を取り出すと一枚の写真を見せて

「兄貴は本当はちゃんと乗せようとしてたんだ」

先生から奪おうとしてたんじゃないんだ

と告げた。


夕弦は驚いて夕矢を見ると

「夕矢…お前」

と言い携帯を見た。


夕矢は真っ直ぐ直彦を見つめ

「これ、引き留めようとしていたら彼女の腕を握っているけど…兄貴の手は握ってない押しているんだ」

だから

「兄貴は先生の恋人を奪ってないんだ」

と訴えた。


直彦は写真を見て静かに笑むと

「確かにそうだな」

安心してくれちゃんと分かっている

と言い、隆から一枚の封筒を受け取った。


「東雲に白露…それに末枯野」

お前たちにこれを見せようと思って集まってもらったんだ

「清美が残してくれた手紙だ」


直彦はそう言って夕弦に渡した。

「この手紙を手にできたのも、お前の弟君のお陰だ」

あの場所へ行く勇気をくれた


夕弦は夕矢を見た。

夕矢は慌てて

「あー、違う。俺は頼まれただけ」

それに

「あの場所を突き止めれたのも兄貴のお陰だし」

と俯きながら告げた。


夕弦は手紙を開けるとゆっくりと目を通した。

懐かしい。

自分がかつて愛した女性の文字であった。


『直くんへ

この手紙を読む頃には私はこの世にはいなくなってるね』


その言葉から始まっていた。

彼女は親友を愛していた。

それでも自分は彼女を愛した。


だから、若気の至りで早まったことをしようとしたのだと止めに行ったのだ。

けれど

『私のお腹の中には直くんの子がいるの!産みたいの!』

結婚したら無理やり降ろされるかもしれない…そういう家なのだ。


本当の理由を知り乗せようとしたが時が遅かったのだ。


『東雲君は私をあの列車に乗せようとしてくれたの。

止めようとしたけど理由が分ったら乗せようとしてくれたの。

だから直くんはちゃんと絆を繋いでいてね』


直彦は夕弦が手紙を握りしめて涙を落とすと

「すまなかった…俺はずっとお前や白露に会わないことできっと復讐をしていたんだと思う」

清美は最後まで

「東雲君や白露君や末枯野君を呼んでみんなで会おうと言っていた…作れなかったが四人が暮らす家で」

だが

「俺は会わないことで心の折り合いをつけてきたんだ」

と夕弦の髪に手を伸ばした。


「許してくれ」


夕弦は首を振ると

「違う!俺が…あの時、引き留めようと駅に行かなかったら…朧は今もお前の横で笑っていた」

俺が朧を殺したんだ

「ごめん、夏月…ごめん」

と顔を伏せた。


直彦は夕弦を抱き留めながら元にも目を向けると

「白露、お前もずっと苦しみ続けていたのにすまなかった」

と告げた。


元は首を振ると

「俺は朧を守ってやれなかった」

お前が俺を恨むのは当然だ

と告げた。


剛士は三人が抱き合うのを見て笑みを浮かべた。

9年かかったのだ。

三人が三人とも苦しみもがき続けてきたのを見てきた。


この時、側にいた白露允華は兄の元のロボットのような仮面が落ちていくのを感じて笑みを浮かべた。

やはり、最初の妻である義姉を死なせてしまったことがずっと兄を苦しめ、そして、そうさせた家の復讐へと駆り立てていたのだ。


じっと見つめる月の頭を撫でて彼が自分を見ると笑みを浮かべた。


夕矢も笑みを浮かべると零れそうになる涙を手で鼻を擦ることで抑えた。

ずっと胸の奥に残っていた伏せられたあの写真。

きっと家に帰れば兄は普通に飾って見つめるのだろう。


そう思うだけで涙が溢れそうだった。


一通りの挨拶が終わると直彦の弟の夏月春彦が允華に唇を開いた。

「あの昨日言った大学の話を聞いても良いですか?」

そう聞いたのである。


彼らの方が一日先に会っていたのだろう。

その時の話だったようである。


白露允華は頷くと

「ああ、晟も呼び出すから話を聞いてくれ」

と告げた。


夕矢は二人の遣り取りに目を向けて

「大学って、允華さんは大学生?」

と聞いた。


允華は「大学三回生だけど」と笑って答えた。


夕矢は慌てて

「おお!じゃあ、俺も話聞きたい!!」

来年受験だし

と告げた。


それに伽羅が

「ってことは、春彦と俺と同い年!!」

とスウィングした。


夕矢と春彦は顔を見合わせると

「「おお!!」」

と声を零した。


夕矢は腕を組み

「けど、俺…まだ何になりたいか決まってないんだよなぁ」

とぼやいた。


末枯野剛士は『シェフ』だ『探偵』だというが…まだ全然未来が見えていない。


春彦は笑みを浮かべると

「俺も同じだな」

と答えた。

「ずっと安定したITの仕事と思っていたけど本当にどの道を進みたいかを考え直そうと思ってる」


伽羅も「俺もテストの赤点があるからなぁ」とぼやいた。


允華は笑い

「俺も同じだよ」

今までずっと後ろを向いてきた

「だから、この夏を切っ掛けに踏み出そうと思ってるけどね」

と答えた。


「その一歩を春彦君のお兄さんの夏月先生のアルバイトにしたんだ」


春彦は笑むと

「直兄から聞きました」

宜しくお願いします

と頭を下げた。


直彦たちは個室レストランで積もる話をすると言ってレストランへ向かい、夕矢は春彦たちと允華の友人の泉谷晟を交えて大学がどういうものかを聞いた。


晟は春彦と伽羅と夕矢の話を聞き

「俺はゲームが好きだから作る方に回りたいなぁと思って情報処理を取っているんだけど」

プランナーも良いかなぁとも思ってる

と告げた。


「ただ大学って単位制だから一、二年の間はとにかく単位とりだよな」

必要ないかなぁと思うのもあるけど

「単位取る為に取ってる部分もあるな」

允華、と呼びかけた。


允華は頷くと

「そうだね」

俺の場合は先を決めてじゃなかったけど

「本を読むのは好きだったから」

と告げた。


「今回、夏月先生のアルバイトが出来るのは凄く助かった」


それに晟が笑いながら

「やっぱり知り合いだったんじゃん」

と言い

「けど、確か夏月直彦って推理モノ書いているんだろ?」

お前そういうの得意だから良かったな

と告げた。


春彦は允華を見て

「そうなんだ」

と呟いた。


晟は大きく頷き

「俺なんかゲームで何時も助けられててさぁ」

この前も

「九州コミュニティー放送局ってところで事件が起きたって設定で推理クイズが始まってさぁ」

と話を続けた。


春彦は目を見開くと

「九州…コミュ…ニティー放送局…」

と小さくつぶやいた。


夕矢もまた首を傾げ

「九州…コミュニティー放送局…」

と呟いた。


先日、兄の夕弦と見ていたニュースの事件の現場も同じような名前であった。

「あれも九州コミュ…なんとかだったよな」

と小さな声で呟いた。


あの事務所を見て違和感を覚えた。

いや、行動表に『資料室』と『機材室』と『退社』は張っていたが、ぽつりぽつりと抜けて空白だった人の場所があった。

だから、『ちゃんとしていない人がいる職場なんだなぁ』と思ったのだ。


晟が事件のあらましを説明すると春彦は

「確かに、凶器が鉄製の棒状のモノなら機材の準備をしていた恩田さんなら廊下の防犯カメラに写ってても怪しい人と思われないという状況的にはそうだと思うけど」

その恩田さんって人が金森さんって人を襲った理由は何だろ?

と呟いた。


允華は不思議そうに春彦を見た。

「理由?」


春彦は頷くと

「社内の人が犯行に及ぶとしたら理由がないと襲わないと思う」

人は何かそうしなければならない理由があって行動するから

「理由が何なのかなぁって思ったんだけど」

と告げた。


「今まで伽羅が見てきた夢の事件には必ず『何故そうするのか』っていう理由があったから」

社内の人が社内の人を襲うのにも理由がないと


允華はふむっと考え

「確かにそうだよね」

俺は考えたことなかったけど

と呟いた。


晟は腕を組むと

「まあ、クイズだからな」

そこまで深く掘り下げて作らないだろ?

「トリッククイズは」

と告げた。


伽羅もポンと手を叩くと

「確かに!」

と告げた。


夕矢はぽつりと

「でも、その打ち合わせに犯人が電話したのが実は『打ち合わせが行動表に書いていなくて知らなかったせいだった』ので実は偶々じゃなかったってあるのかな?」

と呟いた。


允華と春彦は夕矢を見ると

「「なるほど」」

と同時に呟いた。


夕矢は慌てて

「あ、いや…この前見たニュースの画面でそういう行動表を見たから」

そう言うのありかなぁって

と告げた。


晟と伽羅は

「「三人とも推理談議になると饒舌だな」」

と同時に告げた。


春彦も允華も夕矢も同時に目を見開くとケタケタ笑った。


しかし。

その事件がまだ終わりを迎えていなかったことをこの時彼らは知る由もなかったのである。



最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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