夏空の丘
7月のメインイベントと言えば…学期末テストだ。
その後に待っている夏休みの期待感と裏腹にその前の試練に誰もが頭を悩ませることになる。
外は青空。
7月も中頃になると6月の梅雨が嘘のような快晴続きである。
東雲夕矢はふぅと息を吐きだして鉛筆を置くとチャイムと同時に後ろから回ってきた回答用紙を受け取って上に自分の分を乗せて前の席のクラスメイトへと渡した。
学期末テスト三日目の二限目が終了した。
教室のあちらこちらから「はぁ」だの「ふぅ」だのと溜息が聞こえ、彼もまた二度目の息を吐きだして鞄を机の上に置いた。
「テスト期間中って午前で終わるから楽なんだけど」
テストが無かったらもっといいよな
とテストが無かったら普通の授業だろ、と誰かに突っ込まれそうなことを言いながら筆記用具を鞄に入れて立ち上がった。
そこに同じくテストを終えて「はふぅ」と息を吐きだしながら鞄を手に芒野尊が近寄ってきた。
「数学どうだった?」
言われ、夕矢はむ~んと考えながら
「まあまあかなぁ」
と答えた。
尊は薄く笑うと
「俺は赤は免れたと思うけど…やべぇなって感じ」
と天を仰いだ。
「早く夏休み来いー」
夕矢は笑うと
「ホントそれ」
と言い
「まあ、明日の金曜日で終わるからいいや」
と告げた。
後は野となれ山となれである。
それに横手から桔梗貢が
「でさぁ、明日のテスト終わったら東都中央病院一緒に行ってくれない?」
とぽそりと呟いた。
夕矢は彼を見ると
「うん、俺そのつもりだった」
三つ葉入院しているんだろ?
と告げた。
尊もまた
「俺も行くつもりだったぜ」
一緒に行こうぜ
と答えた。
「しかし、テスト前に盲腸ってなかなかやるな、三つ葉」
夕矢は手を振ると
「いやいや、手術は終わったしもう大丈夫みたいだけど」
盲腸も手遅れになったら命にかかわるから
「三つ葉だってテスト前だからってなったわけじゃないんだぜ」
と嗜めた。
尊は「そうだな」と応え
「じゃあ、明日の帰りに寄るか」
何か持って行った方が良いよな
と告げた。
夕矢は頷き
「盲腸だから食べ物じゃない方が良いと思うし」
夏月直彦の本とかは?
と聞いた。
貢は鞄から紙袋を取り出すと
「あ、俺もう買っておいた」
それが良いかなぁと思って
「最新刊を」
と告げた。
夕矢は小さく笑って
「流石」
と言い
「三分の一出すから値段教えてもらえる?」
と聞いた。
「一冊ずつって言うのももうすぐ退院みたいだし」
尊も「そうだな」と言い鞄から財布を出した。
「みんなバラバラだったら考えないといけないし、助かった」
貢は「了解」と応え、本の裏の値段を見ると携帯で三等分して二人から代金を受け取った。
三人は「「「じゃあ、明日」」」と挨拶を交わすとそれぞれ帰宅の途についたのである。
翌日、期末テストを終えて向かった病院で思わぬ依頼が待ち受けているとはこの時は思いもしなかったのである。
写真推理 フォトリーズニング
盲腸で入院して手術を受けた割に三つ葉冴姫は元気であった。
「お見舞いに来てくれたんだ」
ありがとう~
と明るくもあった。
その様子に最初に口を開いたのは芒野尊であった。
「おいおい、テスト受けなくて済むから明るいのか?」
三つ葉
いやいやいや、それは言いすぎだろ。と夕矢は思い
「尊」
と声をかけた。
が、冴姫はたいして気にした様子もなく
「そう言うわけじゃないんだけど」
これ
と一冊の本を彼らに見せた。
…。
…。
夕矢と尊は見せられた本からゆっくりと貢に視線を向けた。
まさかのブッキング?
と思ったが貢は首を振ると
「違う違う」
本の装丁が違うから違う
と言い袋から本を出すと
「あ、冴姫」
これ俺と東雲と芒野から
と渡した。
冴姫は受け取り
「ありがとうー」
買いに行けなくてちょっとショックしてたからうれしい
と言い、冴姫みせた本を夕矢に渡して
「その本、私初めて見たの」
と指を差した。
「夏月先生の児童書」
夕矢は「ん?」と頭を傾げて本を見た。
尊はポカンと口を開けると
「作家なんだから書いてるんじゃないのか?」
とあっけらかんと告げた。
が、それに冴姫が
「芒野君は黙ってて」
とギンッと睨んだ。
尊は早々に「ほーい」と応え口をつぐんだ。
貢は少し考えると
「確か夏月先生って恋愛と推理モノだったよな」
児童書は著書一覧でも見たことないかも
と呟いた。
調査済みである。
冴姫は笑顔になると
「そうなのよ」
でも文体から表現方法とか
「絶対に夏月先生!」
偽物じゃないわ
と告げた。
夕矢は「へーそうなんだ」と言いつつ
「すっげ、文体とか表現方法とかって俺分かんない」
と内心突っ込み、最初のページを見て
「メッセージがある」
と呟いた。
冴姫はニコニコ笑って
「この本を持っている子のお父さんがプレゼントするのに書いたみたい」
それでね
と笑みを更に深くして告げた。
「実はそれを貸してくれた子が貸してくれる代わりに」
…代わりに…と男性陣三人はゴクリと固唾をのんだ。
冴姫は満面の笑顔で
「この写真の場所を探して欲しいって」
と一枚の写真を渡した。
「その子も今入院してて外出できなくて…その本をその子に貸してくれた子はおじいさんと暮らしてて心配かけられないから自由に出歩けないんだって」
でも
「その写真の場所はその子のお母さんとお父さんの思い出の場所らしいんだ」
だから探して欲しいって
夕矢は写真を見ながら
「そうなんだ」
と言い
「でもな」
と顔をしかめた。
尊はそれを見ると
「何か…写真、困ったことがあるのか?」
と聞いた。
夕矢は写真を尊に渡し
「そうじゃなくて、その写真を渡してくれた子と話ができるかどうかなんだけど」
と冴姫を見た。
「三つ葉がその本を借りた子とは違うってことだよな」
話しの流れから考えたら
冴姫は頷き
「うん、その子の友達だけど」
と告げた。
夕矢は少し考えると
「その子の両親の思い出の場所かぁ」
と言い
「その子に両親の話聞ける?」
と聞いた。
冴姫は頷くと
「わかった、聞いてみる」
と答えた。
夕矢は携帯でその写真を撮り冴姫に返しながら
「じゃあ、その内容をLINEしてくれ」
それから探っていこう
と告げた。
尊はニッと笑うと
「つまり、写真探索隊再び三度だな!」
と告げた。
貢も大きく頷き
「そうだな、冴姫は無理しないで情報収集役に徹しなよ」
と告げた。
冴姫はにっこり笑い
「ごめんね、ありがとう」
情報集めてLINEするからよろしくね
と答えた。
三人は「「「了解」」」と応え、それぞれ
「大事にしろよ、三つ葉」
「そうそう、今回は大人しく児童書読んでな」
「また、来るよ。冴姫」
と声をかけて病室を後にした。
彼女も彼らを見送り読み終えた児童書を手に病室を出たのである。
その写真の話を聞くためであった。
夕矢は家に帰ると既に帰宅しエアコンをガンガンにかけている兄の夕弦に声をかけた。
「ただいま」
夕弦はリビングで新聞を読みながら
「ああ、おかえり」
と返した。
諜報活動がゆったり期間なのだろうか最近は家でのんびりしている。
夕矢は兄の前で立ち止まると
「兄貴、確か夏月直彦の本持ってたよな」
と告げた。
夕弦は視線だけ夕矢を一瞥し
「ああ」
と短く返した。
「読むのか?」
夕矢は首を振ると
「いや、児童書ってあった?」
と聞いた。
夕弦は顔を上げると
「…児童書?」
とおうむ返しし
「売ってないと思うが」
と返した。
夕矢は「だよなぁ」と言い
「着替えて夕飯作る」
と自室へ入った。
夕弦は少し考えたものの再び新聞に視線を落とした。
その日の夜。
三つ葉冴姫からのLINEが入った。
『借りた子に話をしたんだけどその子のお母さんは亡くなってて分からないんだってお父さんには聞けないって…情報収集失敗でごめーん_(:3)∠)_』
…。
…。
夕矢はLINEを見て目を見開くと
「…なるほど」
と思わず呆然と抑揚なくつぶやいた。
携帯で撮っておいた写真を見て目を細めた。
小高い段々の丘になっていてその上に一本の大きな木が植わっている。
その向こうは抜けるような青い空が広がり白い雲がのんびりと浮かんでいた。
「田舎…だよな」
特徴のある丘だがそれだけで探すのは難しい。
だが、とパソコンを立ち上げると『丘 写真』と探し始めた。
もしかしたらそういう丘の写真をアップしている人がいるかもしれない。
そう考えたのである。
がしかし、世の中上手くはいかないものであった。
時計が夜の11時を知らせたとき夕矢は机に額をつけて
「見つからないか~」
と声を零した。
特徴はあるがその特徴ある丘の写真は見つからなかった。
写した人物からの情報もダメ。
写真の特徴もダメ。
夕矢は大きく息を吸い込み吐き出すと
「…ちょっと落ち着こう」
と立ち上がった。
そして、リビングに行くと今度はテレビを見ている夕弦に目を向けた。
「兄貴」
夕弦は肩越しに弟を見て
「何だ?」
と答えた。
夕矢はう~んと考えると
「いや、お茶飲む」
と冷蔵庫から麦茶を出してコップに入れた。
夕弦は弟の歯切れの悪い態度に
「どうした、何か行き詰ってるのか?」
と聞いた。
夕矢は頷くと
「写真を写した人の情報が全く分からなくて…写真の風景は特徴あるけどネットで見てもそういう写真も無くて…」
と呟いた。
夕弦は少し考えると
「風景に特徴があるって言ったがどんな特徴だ?」
と聞いた。
夕矢はコップをテーブルに置くと手で丘の形を作りながら
「段が幾つかあってめちゃくちゃ綺麗な…こう…放物線みたいな…こういう形した小高い丘なんだけど」
イラストで描いたような綺麗な形してる
「そういう丘ってあまりないと思うんだ」
と告げた。
夕弦は口元に指をつけて
「なるほど完璧に近い回転放物面か」
と呟いた。
「放物線の中心線を中央にそれを回転させた形だろ?」
夕矢は指を差すと
「それ!兄貴すっげぇ」
と思わず叫んだ。
夕弦は立ち上がると
「待ってろ」
と言い、自室へ戻ると一冊の本を手に戻ってきた。
「それだけ特徴があるなら等高線図で調べる方法もある」
骨は折れるが
「不可能じゃない」
ただ、できれば範囲は区切る方が良いな
夕矢は本を受け取りながら
「範囲?」
と返した。
夕弦は笑みを浮かべると
「最悪でも関東地域だとか東北だとかな」
と返した。
夕矢は顔を輝かせると
「さんきゅ」
それで調べてみる
と告げた。
夕矢はコップを持って部屋に戻るとLINEに先ほどの冴姫への回答を返した。
『情報の方は了解。出来たら大まかで良いからどの辺りか聞けると助かるけど…関東とか東海とか…』
それに対しての冴姫の返答は早かった。
『東京近隣だって言ってたから…関東じゃないかなぁ』
夕矢は『了解』と返した。
二人の遣り取りに尊と貢がLINEを入れた。
尊はあっさりと
『探す方法見つかったなら手伝うから明日行く』
であった。
貢も同調するように
『俺も手伝うからお邪魔するよ』
と返してきた。
夕矢は少し考えると
『明日は多分兄貴がいるから図書館で落ち合った方が良いかも資料があるかもしれないし冷房も効いてる』
と返した。
尊はそれに
『じゃあ、北千住の足立区の図書館だな』
と告げた。
夕矢と貢はそれに
『『了解』』
と返した。
最後に冴姫が『私も退院したら手伝うからよろしく』と告げたのである。
明日は土曜日。
ちょうど二学期と夏休みの境の日であった。
翌日は晴天で夕矢はゆったり過ごしている兄の夕弦の朝食を作ると
「じゃあ、俺、図書館行ってくる」
夕飯作るから
ゆっくりしてなよ
と言い、家を出かけて兄を訪ねてやってきた末枯野剛士と出くわした。
彼は驚いた表情で
「お、夏休み入ったから早速遊びにか?」
とニコニコ笑って告げた。
夕矢は頷くと
「ちょと調べもの」
と答え
「末枯野のおじさんは兄貴とゆっくり?」
と聞いた。
末枯野はそれに
「ああ、話もあるしゆっくりお邪魔する」
と告げた。
夕矢はにっこり笑って
「じゃあ、おじさんの夕飯も作るから夕方までいなよ」
と言い
「行ってくる」
と軽い足取りで通り過ぎた。
末枯野は手にしていた紙袋を見せると
「あー、明日のパンは約束通りに買ってきたからなぁ」
と叫んだ。
夕矢は肩越しに振り返り
「ありがとー」
と言い、階段を駆け下りた。
末枯野は笑って家の中に入ると夕弦を見た。
「また写真のお仕事か?」
弟軍団はみんな大変だな
夕弦は静かに笑むと
「そうだな」
これから先をどう進ませてやったらいいか
「考えてしまうがな」
と末枯野を見た。
「兄として…な」
末枯野はハハッとわらい
「白露も夏月もそうだが…兄というのも大変だな」
と答えパンの紙袋を渡すと
「夏の話なんだが」
と唇を開いた。
夕矢は二人がこの夏休みの事を話しているとは知らず東都電鉄の向島駅で尊と落ち合うと四辻橋でJRに乗り換え北千住駅で降り立った。
そこに貢が待っており三人は徒歩15分ほどの足立区図書館へと向かったのである。
夕矢は図書館に着くと写真を撮った携帯の画面を二人に見せて
「この丘って輪郭が綺麗な放物線の形をしているだろ?」
だから等高線の形が綺麗な同心円になっていると思うんだ
と告げた。
「昨日のLINEで三つ葉が関東だって書いて送ってきたから」
東京
神奈川
千葉
埼玉
「で先ず綺麗な同心円を描く等高線がある場所をチェックしようと思うんだ」
それに尊と貢は頷いた。
尊は「じゃあ」というと
「俺は神奈川県にする」
と告げた。
貢は「俺は」というと
「千葉で」
と告げた。
夕矢は頷き
「じゃあ、俺は埼玉で」
東京は最後で三人で
と返した。
同心円状の等高線など直ぐに見つかりそうだが、意外と見つからないモノであった。
地形というのはそれだけ複雑なモノなのである。
それこそ人工物ではないのだからそうなのかもしれない。
3人は何枚もの等高線図を見て同じものを見ないように見たものには付箋をつけてまた次の等高線図を見るという作業を繰り返した。
夕矢が見た埼玉は見つからず背凭れにだばーと凭れて天井を仰ぎ
「見つからないものだよな」
というか、2万5千分の1じゃダメなほど低いのかなぁ
とぼやいた。
等高線の2万5千分の1の主曲線は10m。
補助曲線は2分の1と4分の1だ。
夕矢は携帯を手に
「10mはあると思うんだけど」
と呟いた。
貢の千葉にもなく頭をテーブルに預けて目を閉じていた。
「ごめん、休憩」
千葉県なし
そう告げた。
夕矢は「了解」と応えると
「じゃあ、東京見る」
と東京の等高線図を見始めた。
尊は前のめりにテーブルに突っ伏して
「1か所怪しいのはあったけど…どうなんだろう」
と告げた。
夕矢は手を止めると
「どこ!?」
と尊の持っている等高線図を見た。
確かに綺麗な縁を描く場所がある。
同心円のようだがあまり高くないのか線が少なくわかりにくい。
だが、綺麗な円を描いている。
貢も見て
「線が少なくてわかりにくいけど確かに綺麗な円を描いているよね」
と言い
「高根の辺りかなぁ…どちらにしても多摩川の近くってことはそれほど遠くないね」
と告げた。
夕矢は頷いて
「ここなら…日帰りは出来るかも」
と告げた。
尊も貢も夕矢も顔を見合わせてニッと笑った。
尊は「ま、ダメで元々だし」と言い
「ダメなら他から調べる方法を考えたらいいと思うけど」
と告げた。
夕矢は考えながら
「あのさ」
と言い、貢を見ると
「夏月直彦の著書一覧に児童書がなかったって本当?」
と聞いた。
尊はちらりと貢を見た。
貢は頷くと
「ないよ」
俺、調べたからね
と言い
「だからあの本の出所は分からないんだけど」
ただ児童雑誌とか何かの抽選の景品とかでプレゼントされたものなら載ってなかったと思うけど
と告げた。
夕矢は「それなんだよな」と言い
「あの本が一般に出回ってない本だとすればそこからメッセージを書いたその子のお父さんって人にたどり着けるんじゃないかって思って」
と告げた。
尊は身体を起こすと
「おお!」
と声を上げた。
夕矢は腕を組むと
「問題は何処が出元かなんだよな」
と言い
「タイトルは『彩りの星』で児童書」
分かっているのはそれだけだし
と告げた。
それに貢は
「じゃあ、夏月先生の本を良く出している出版社に問い合わせてみるとかは?」
と聞いた。
「扱っているところにヒットするかも」
出版社の電話番号なら調べられるし
夕矢は「そうだよな」と言い
「じゃあ、貢は夏月直彦の本を出している出版社一覧作ってくれる?」
高根のところ辺りを調べて違ったらその一覧で電話して調べよう
と告げた。
貢は「いいよ、了解」と答えた。
夕矢は等高線図をコピーして
「俺はここへのアクセス方法を調べておくよ」
と告げた。
が、それに尊が
「いや、それは俺が調べる」
とコピーを取り上げて
「夕矢は手持ち無沙汰でよろしく」
と笑った。
「今日帰って調べてからLINEする」
三つ葉が退院する前の方がいいから
「本当は明日か明後日の方がいいけどどうする?」
夕矢は「俺は明日でも大丈夫」と答えた。
貢もまた
「そうだよね」
退院する前の方がいいから
「俺も明日で良い」
集まる場所と時間を知らせて
と答えた。
三人は行動が決まると家へと戻った。
夕矢以外の二人には早急にしなければならないことがあるからである。
夕矢は帰りに三人分の夕食を買い、帰宅の途についた。
夕弦と末枯野は意外と早い帰宅に驚きつつも温かく夕矢を出迎えた。
が、しかし。
末枯野は笑顔で
「あ、夕矢君」
というと
「8月入ったら東雲と一緒に津洗へ行こうな」
と告げた。
リビングを通り抜けかけて夕矢は足を止めると
「津洗?」
と返した。
夕弦は末枯野が持ってきたのだろう津洗の旅っこるるの雑誌を見ながら
「ああ、マリーナ津洗で一泊二日」
と告げた。
…。
…。
夕矢は首を傾げ
「は?」
と返した。
夕弦は夕矢を見て
「マリーナ津洗で一泊二日するから海水浴の準備しろよ」
と告げた。
夕矢はジーと夕弦が手にしている雑誌を見て
「…その津洗って高級ホテルばっかりなんだぜ?」
有名リゾート地じゃん
と言い
「そんな無理しなくていいよ、俺」
と冷静に返した。
夕弦はハァと息を吐きだし
「大丈夫だ、一泊二日だからな」
俺にも用事があるから行くんだ
と言い
「素直に喜んでくれ」
と告げた。
夕矢は頷くと
「わかった!えー、良いのか?」
すっげぇ
「まじまじ!」
と騒ぐと末枯野を見て
「末枯野のおじさんも行くよな?」
と聞いた。
末枯野は苦笑を零しつつ
「もちろん、その予定だが」
と返した。
夕矢は満面の笑顔を浮かべると
「すっげぇ、楽しみー」
と両手を上げて喜び
「夕飯頑張るからな!」
と自室へと飛び込んだ。
夕弦はふぅと息を吐きだし末枯野を見ると
「…あれから9年か」
どんな顔して会えばいいのか
「それでも、行けというんだな」
と顔を歪めながら笑みを作った。
末枯野は短く「ああ、白露も来るはずだ」と答えた。
夕弦は目を閉じて上を仰ぎ
「夕矢が本当に向こうで楽しんでくれると救われる」
と苦く笑った。
「あの日、駆け落ちをしようとしていた朧を俺が引き留めなかったら」
朧は今もまだ笑って生きていたはずだ
「夏月も白露も…あの頃のままだったに違いない」
彼女を死に追いやって夏月や白露を地獄に落として…のうのうと生きてきた俺だ
「合わせる顔がない」
末枯野は夕弦の肩に手を置くと
「そうじゃない、朧が死んだのはお前のせいじゃない」
それにお前はのうのうと生きてきたわけじゃない
「どれほど苦しんでいるか俺は分かっている」
と告げた。
夕弦は泣きそうに顔を歪め
「ははは…俺は俺の勘の良さをあの時ほど呪ったことはない」
と顔を両手で覆った。
末枯野は目を細め彼の肩を優しく撫でた。
それしか己にはできないことを知っていたからである。
「それでも…夏月も漸く動き出してくれたんだ」
親友たちが絆をつなげられる最後のチャンスだと思ったのである。
夕矢は自室に入ると携帯を鞄から出して問題の写真を見た。
綺麗な風景である。
彼はパソコンを立ち上げると
「手持無沙汰って言われたけど一応場所チェックしておこう」
と電子マップを開いた。
場所は東京都と神奈川県の正に境になる。
「というか、神奈川県かなぁ」
県境の線がそこを丁度開けてどちらも通っているのだ。
ある意味不思議な場所であった。
夕矢は近くの駅もチェックし、入ってきた尊と貢のLINEを確認すると
『了解』
と返し
『じゃあ、四ツ橋の東都電鉄側な。弁当と水筒必須了解』
と告げた。
そして、部屋を出ると二人でテレビを見ている兄と末枯野を見て
「夕飯作るな」
と声をかけた。
「あとさ、明日出かけるから」
夕飯前には帰る
夕弦はそれに
「ああ、明日は俺が作る」
どうせ休みだからな
と答えた。
「ゆっくり探検してくればいい」
夕矢は「ありがとう」と応えキッチンに立つと夕食を作り始めた。
夕食は魚料理。
サーモンのムニエルであった。
末枯野はムニエルと野菜スープを食べながら
「いや、本当にシェフになれるぞ」
と告げた。
夕弦と夕矢は同時に彼を見て言いかけた言葉をそれぞれ飲みこんだ。
ただ夕矢はにっこり笑うと
「ありがとう、末枯野のおじさん」
シェフになるかどうかはまた考えとく
そう全てを飛び越した答えを返したのである。
翌日、夕矢は尊と向島で尊と落ち合い、その後に駅を一つ戻って四ツ橋で貢と合流すると特急小田原行に乗って向ヶ丘多摩川駅へと向かった。
JR鶯谷、文京、JR新宿、成城学園前などを越え多摩川を越えて直ぐの場所に駅はある。
その辺りは自然が多く残り駅の周辺には意外なほど家がなかった。
三人は降り立つと既に高く昇っている太陽を見上げ時計を見た。
帰りの列車の時間を確認しておかないといけないという事だ。
尊は昨夜印刷した時刻表と駅構内に貼られた時刻表を見比べながら
「ここから結構歩くからなぁ」
といい
「今が10時30分だから…余裕見て午後3時ごろの列車だな」
特急は3時20分か
と告げた。
貢は頷いて駅舎を出て
「バスもない…」
と呟いた。
ロータリーもなかったのだ。
尊はハハッと笑い
「地図を印刷してきたから歩いていこうぜ」
と告げた。
夕矢は昨夜のLINEで弁当と水筒必須と書いてきたか理由を理解した。
何も…ないのだ。
駅のところに辛うじて自動販売機あるだけであった。
夕矢は苦く笑ったものの
「取り合えず餓死する前にたどり着こう」
と冗談ぽく告げた。
周囲は木々に覆われ土の道が一本伸びている。
尊は地図を見ながら
「とにかくここは道がほとんどないからわかりやすいのは分かりやすいんだ」
と言い
「道なりだな」
と笑った。
夕矢は「了解」と応え足を進めた。
夏で暑いのだが木々が影を作り草の香を含んだ風がそよそよと流れて気持ちがいい。
しかも多摩川の近くなだけに川も少し離れた場所を道に沿うように流れていた。
三人はノンビリ歩きながら目的の場所を目指した。
夕矢は不意に足を止めると
「俺さぁ凄いド田舎だと思ったんだけど」
と言い、立ち止まって振り返った二人に
「意外と整備されている気がする」
と告げた。
尊はそれに驚くと
「はぁ!?家もないし道だってアスファルトじゃないんだぜ?」
と叫んだ。
貢も頷き
「そうだよ、見てごらんよ」
周りは森だよ森
と両手を広げて告げた。
それに夕矢は唸りながら
「けどさ、この道って自然に出来た感じじゃない気がする」
石も岩もない
「歩きやすいし」
森って言っても道に倒れ込むような感じのは全くないだろ?
と告げた。
貢も尊も周囲を見回してフムッと考えた。
夕矢は「なんていうか」というと
「自然公園の遊歩道のイメージ?」
それよりはもっと自然ぽいけど
と告げた。
確かにそうである。
木々にしても自然に見えるがちゃんと整備されているようにも感じる。
つまり、作られた自然という感じなのだ。
尊は顔を顰めつつも
「確かにそうかもしれないけど」
と言い
「今はゴール目指そうぜ」
先は長い
と道の先を指した。
確かに。
と夕矢と貢は納得すると足を進めた。
道は緩く蛇行し小さな登り坂が見えた。
時間で言えばもうかれこれ1時間近く歩いている。
三人は坂の入口にある小さな橋の手前で立ち止まり欄干の手前の岩で腰を下ろした。
絶妙な場所の休憩処である。
川はその少し先で二つに分かれ、一つは坂に沿って流れ、一つはそのまま木々の中へと流れていた。
水筒を取り出し水分補給をしながら夕矢は尊に
「あとどれくらい?」
と聞いた。
尊は地図を見て
「もう少ししたら多分横手に小さな道があると思う」
そこから抜けるとたどり着くと思う
と答えた。
夕矢は立ち上がると
「よし、行こうか」
と告げた。
二人も立ち上がり
「了解」
と応え、坂道を登り始めた。
坂は曲がりながら上へと登っていく。
その途中に小さな橋があり横へと逸れる道があった。
三人は顔を見合わせると
「これか」
と言いその橋を渡りかけた。
瞬間であった。
恐らく橋に設置されているのだろう放送が流れた。
『ここは管理された私有地です。踏み込まないでください』
三人とも驚いて飛びのき道端に座り込んだ。
尊は胸を押さえ
「めっちゃびっくりした」
まじかー
と叫んだ。
夕矢もまた驚き過ぎて笑いを零すと
「ほんと、びっくりした」
と笑い続けた。
貢も座ったまま
「心臓止まるかと思った」
とハァ~~~と息を吐きだした。
夕矢は思わぬ遮断にひとしきり笑うと息を吐きだして貢を見た。
「…夏月直彦の本を出してる出版社の連絡先教えて」
そう冷静に戻って告げた。
貢は頷くと
「携帯通じるかな」
と携帯を出して電波が届いていることを確認すると
「一番よく本を出しているのは桃源出版だよ」
雑誌社ではほかにも
「田村出版と修文社だよ」
後は
「東都新聞社と最近では金沢新報社でも本を出してるね」
と告げた。
「何処から行く?」
夕矢は考え
「一番よく本を出しているところから潰していく方が良いし」
そう言うところって他のところからの本もチェックしていると思うんだ
「情報も聞いたらいいかも」
と答えた。
貢は携帯を手にしながら
「そうそう教えてくれるかなぁ」
とぼやいた。
夕矢は笑みを浮かべ
「ファンだからその珍しい本を探してるって言えば知ってれば教えてくれる可能性はある」
と答えた。
貢は頷き
「了解」
と応え、登録しておいた番号を押した。
桃源出版の代表番号である。
呼び出し音の後に直ぐに女性の声が響いた。
「桃源出版総務でございます」
お電話ありがとうございます
貢は固唾を飲みこむと
「あの、初めまして」
そちらの出版社で出されている夏月直彦さんの本でお聞きしたいことがあってお電話しました
と告げた。
女性はにこやかな声で
「桃源出版で発刊している夏月直彦の本でございますね」
と返した。
貢は「はい」と応え
「彩りの星という児童書なのですが取り扱いはどちらでしておりますでしょうか?」
と告げた。
キーボードを押す音が響き
「彩りの星…でございますね」
少々お待ちいただけますでしょうか?
と返り、しばらくした後で
「大変申し訳ございませんが夏月直彦でそのタイトルの本は取り扱っておりません」
とある意味想定範囲内の答えが返った。
貢は慌てて夕矢を見ると夕矢は
「何処の出版社の取り扱いか聞いて」
と促した。
貢は息を吐きだし
「そうですか、あの…どこの出版社の取り扱いか分かりますでしょうか?」
すみません
と告げた。
女性は「少々お待ちいただけますでしょうか」と電話を保留にした。
そして、立ち上がると上の階のフロアへいき編集部に姿を見せた。
「すみません、夏月先生の担当って辻村部長ですよね」
そう言い
「辻村部長おられますか?」
と編集部の男性に聞いた。
男性は打ち合わせ室の方に視線を向けると
「いま、夏月先生が来ていて打ち合わせしている」
次の雑誌の連載のことで
と返した。
女性はハァと息を吐きだすと
「しょうがないか」
というと踵を返しかけて丁度出てきた辻村と夏月直彦と津村隆を見た。
運がいいのだろうか。
彼女は慌てて駆け寄ると
「ちょうど良かったです」
実は夏月先生の本の問い合わせで
「彩りの星という児童書は何処から出ているかと男の子から電話が」
と告げた。
辻村は「?児童書」と首をひねり
「夏月先生は児童書をお書きになったことありませんよね?」
と夏月直彦を見た。
夏月直彦は女性に
「男の子から電話ですか」
代わってもらっていいですか?
と告げた。
彼女は「は、はい」と応え
「部長のデスクに転送いたします」
と駆け出した。
『暫くお待ちください。ルンルンタッタッタッタ』
と保留音が暫く響き、貢はハァと数度の息を吐きだした。
10分程した後に女性の声が響いた。
「大変お待たせして申し訳ございません」
電話を転送いたします
と今度は転送音が響いた。
貢は携帯を見て
「ややこしかったかなぁ」
とぼやいた。
その声にこたえるように
「お電話代わりました。夏月ですが」
と声が響いた。
「おわっ!夏月直彦!」
と思わぬ当人の声に貢は携帯を放り投げた。
夕矢は慌てて
「桔梗!携帯投げるな!」
と慌てて拾った。
尊もとんだ携帯を目で追って
「そらびっくりするぜ」
夏月当人だぜ!
と思わず踊った。
貢は胸を押さえながら
「どうしよう…東雲、そのまま出て」
俺緊張して話上手くできない
と夕矢に手を合わせた。
その騒ぎは受話器を介して直彦の耳に響き
「…」
と沈黙を作らせたのである。
何を驚いている?である。
夕矢は咳払いをして
「…初めまして、突然のお電話すみません。俺の名前は東雲夕矢と言います」
夏月直彦…先生ですか?
と少し手を震わせながら呼び捨てしかけたのを辛うじて先生をつけて乗り切った。
直彦は「ん?」と思わず声を零してチラリと津村隆を見た。
隆は不思議そうに直彦を見て
「どうした?直彦」
と囁きかけた。
直彦は少しの間の後に
「初めまして、私が夏月直彦です」
彩りの星という児童書の事でお電話をいただいたとお聞きしたのですが
と告げた。
夕矢は「冷静に冷静に~」と小さくつぶやきながら
「はい、その本がどのようなルートで発刊されているかを知りたいのですが」
教えていただけますでしょうか?
と答えた。
直彦は少し考え
「東雲、夕矢さんですよね」
と業と名前を言い、驚いた表情の隆に笑みを浮かべた。
そして
「その本は私個人が作ったものなので一般には出回っていないです」
と告げた。
「特別な本です」
貴方がその本を知った経緯をお聞きしたい
夕矢は少し考え
「…わかりました。その前に夏月先生がお渡しした人の中に男の人がいると思いますがその方と連絡を取らせてください」
と返した。
貢は横で聞きながら
「なんか、駆け引きポイ」
と呟いた。
直彦も軽くそう言う事を思いつつ
「流石、東雲の弟か」
と呟き
「渡した人は男性ではないので連絡を取ることはできですね」
と返した。
直彦の周囲の人々も何故かドキドキしながら見つめていた。
夕矢はその回答に視線を落として思考を早急に巡らせた。
恐らく夏月直彦の回答には含みがあるのだ。
多分、業とだ。
夕矢はこれまでの情報を精査した。
彩りの星の本は出版社が出していない。
夏月直彦本人が個人的に作り渡している本である。
本には手書きのメッセージがあった。
それは父親から娘に宛てたもの。
そして
『お渡しした人の中に男の人が』という質問の答えが『渡した人は男性ではない』となった…その意味。
夕矢は大きく目を見開くと
「まさか」
と思わず呟いて、深呼吸をすると
「わかりました」
と応え
「実は俺たちは東都中央病院に友人が入院していてその友人が貴方のファンでその本を持っていた人から借りたんです」
その借りる代わりに
「一枚の写真を渡されて今その人も入院中でその人が借りた持ち主の人も自由に動くことができず探すことができないので写真の場所を探して欲しいと言われて、そこと思われる場所に来ました」
と告げた。
貢も尊も急に何を言い出したのか?と夕矢を見た。
直彦は「なるほど」と短く返した。
夕矢は直彦が話を止めないことで確信を持つと
「その写真は綺麗な回転放物面をした丘で一番上に大きな木が植わっています」
その場所が俺達は多摩川沿いの東京と神奈川の合間の空白地だと判断し訪ねてきました
「今います」
でも私有地で入れなくて
と告げた。
直彦はちらりと隆を見て
「清美との場所は、私有地だったんだな」
と呟いて
「…さすが、東雲の弟君だな」
そこで正しい
と苦笑しながら告げた。
夕矢は目を見開くと
「え?」
と声を零した。
直彦は笑みを浮かべると
「二人で弓を成すと名前をご両親が付けたと俺は聞いたことがある」
というと
「どうやってそこを見つけたんだ?」
私有地だからネットで検索しても出てこなかったはずだが
と告げた。
夕矢は慌てて
「あの、綺麗な回転放物面だったので…恐らく等高線で見ると綺麗な同心円を描いていると思って」
そういうところってかなり少ないので関東近隣の地形図から割り出しました
「兄貴が特徴のある形ならそう言う捜し方もできるだろうと教えてくれたので」
と答えた。
直彦は静かに笑みを浮かべると
「なるほど、さすがだ」
と言い
「俺から礼をいう…探してくれてありがとう」
気を遣わせて悪かったな
と告げた。
「本は本人に返しておいてもらいたい」
夕矢は頷くと
「それは大丈夫です」
友人がちゃんと返すと言っていたので
「借りたものは返すのが常識だし」
と告げた。
「…あの、俺こそ答えていただきありがとうございました」
二人は同時に通話を切った。
夕矢は安堵の長い息を吐きだすとそのまま座り込んだ。
「正解…あってた…ここだったんだ」
そう言い
「「何が?意味が分からない」」
と叫ぶ尊と貢を見て笑みをこぼした。
反対に夏月直彦は周りにいた辻村歳三や桃源出版の編集部の面々から
「いやー、先生が児童書を書かれていたとは!」
「おーい、児童書担当呼べー」
「ささ、もう一度応接室でゆっくりお話しを」
とのざわめきの中で
「…いや、次は恋愛で」
とドきっぱりと告げていた。
津村隆はその隣で
「絵本も描いていたという事は黙っておくか」
これ以上仕事が増えると俺がしんどいからな
と心の中で呟いていた。
ハチの巣を突いて騒ぎを大きくしたくはなかったのである。
夕矢は空を見上げると夏月直彦の言葉を反芻した。
『気を遣わせて悪かったな』
その意味。
「多分、全部わかったんだ」
そう呟いた。
あの本は彼が子供の為だけに作り渡した本でメッセージは彼が書いたものなのだ。
しかし。
夏月直彦に子供がいるという話は聞いたことがない。
公にできない事情があるのかもしれない。
本の持ち主の子供も『お父さんには聞けない』と言っていた。
そう言う事なのだろう。
夕矢はそう考えて子供という言葉を全て省いて彼に話をしたのだ。
それを理解したのだろう。
夕矢はふぅと息を吐きだすと
「推理小説書いてるっていうから今度読んでみようかなぁ」
とぼやいた。
その時、彼の目の前に尊と貢が怖い笑みを浮かべて立ち
「「全部聞かせてもらう!!」」
一人だけ納得するのはずりぃ!
と同時にすごんで告げた。
夕矢はハハハと乾いた笑いを零して
「わかった」
と応え、携帯の時間を見ると
「先の坂の下の橋のところで弁当食べながら話す」
そうしないと電車に間に合わなくなるだろ?
と指を差した。
尊も貢も「「了解」」と応え、三人は坂道を戻った。
頭上には青い空が広がり、白い雲が長閑にゆったりと流れていた。
後日。
三つ葉冴姫が退院する前日にお見舞いに行くと携帯に撮った一枚の写真を夕矢達に見せた。
「これ、私が本を借りた子がありがとうって見せに来てくれたの」
その子が本を借りた子から貰ったんだって
「その子がね、探してくれた人たちにありがとうって伝えて欲しいって」
裏書がこれ
写真の裏には『お父さんと行けたよ。ありがとう』と書かれていた。
「夏月先生に子供~もう、びっくりだよね~」
でも内緒なんだって
夕矢も尊も貢も笑みを浮かべて頷いた。
そこには夏月直彦と少女が満面の笑顔であの丘で空を見上げている姿が写っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。