不吉な知らせ
外は既に夜の闇が降り、仙台の中心部に近いので駅の方は街の灯で明るかったが広瀬川の方は闇が深々と幕を下ろしていた。
客室を隆が使い、夕矢もその後は自室で身体を休めた。
翌日の朝は意外なほど全員がゆっくりしていた。
昨夜の礼として隆が朝ごはんを作り夕矢も夕弦も剛士もそれを堪能した。
ポーチドエッグと言い手作りのドレッシングと言い全てが美味しく名コックという誉れは間違いがなかった。
夕弦は夕矢を見ると
「今日、津村と仙台観光するがお前も行くか?」
と聞いた。
仙台に来て観光はまだしていない。
夕矢は笑顔で
「ああ、すっげぇ楽しみ」
と答えた。
隆はそれに
「それでこの前は杜の都伊達美術館で大立ち回りしたと聞いたんだが、その時の話も聞かせてもらいたい」
とにっこり笑った。
夕矢はハッとすると
「…津村さん、顔がネタ狙いの編集者の顔になってる」
とボソッと呟いた。
剛士はそれに大きく笑うと
「鬼編集者だからな、今頃、夏月は心の洗濯でもしているだろうな」
と告げた。
隆は腕を組むと
「おいおい、これが編集の仕事だからな」
それに直彦は次の連載の大枠作りしている最中だから
「俺がいなくても問題がないのさ」
その次のネタを俺は集めて帰るというわけだ」
と告げた。
夕矢ははぁ~と息を吐き出すと
「小説家って大変だな」
とぼやいた。
剛士の運転で最初は大立ち回りとしたという杜の都伊達美術館へと向かい、そこで隆が説明を聞きながら写真を撮ると、本当の観光へと突入した。
午前中に伊達政宗の銅像がある仙台城、通称青葉城へ行き、瑞鳳殿を見終わると正午が過ぎて午後1時前であった。
夕矢は初めての仙台観光に身体を伸ばして
「こんなところがあったんだ」
と喜んだ。
仙台は晴天で春の日差しも穏やかで暖かかった。
有名店を良く知っている剛士が
「じゃあ、昼は有名な牛タン屋にいくか」
と車に乗り告げた。
隆は笑顔で
「末枯野のセレクトに間違いはないからな」
と言い
「宜しく」
と夕矢の隣の席で告げた。
助手席には夕弦が座り
「まあ、夏月にも土産で牛タンを買って帰ってくれ」
と言い、更に笑い声が響いた。
その時、隆の携帯に着信が届いた。
「ん?白露からか」
車は走らせておいてくれ
と言い、携帯を手にすると
「どうした?話はしたから今…」
と言いかけて一瞬携帯を落とすと僅かに顔を蒼褪めさせた。
駐車場を出かけていた剛士は直ぐに車を止めると
「どうかしたのか、津村?」
と聞いた。
隆は震えながら携帯を拾い直し
「…すまない、それで」
と先程とはうって変わった声で唇を開いたのである。
極々普通の。
穏やかな時がこの一本の電話で一気に変わってしまったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




