怪盗クロウ
長浜昭二は悩みつつ
「しかし」
と呟いた。
本当にそうなのか。
そうじゃないのか。
紙が貼っていた以上は調べなければならない。
なんせ電源が落ちて警報器が切れていたのでその間に取り替えられたとしてもわからないのだ。
夕矢は長浜昭二に
「信じてください」
その絵は飾られていたものです
と告げた。
「その紙はフェイクです」
剛士には分からないのだ。
絵の専門的な知識がないので判断がつかないのだ。
長浜昭二は大きく息を吸い込み吐き出すと
「分かりました」
と告げた。
「その代わりお願いがあります」
本来は展示している期間までですが借りている美術館の芸術員が引き取りにきますので
「その時にも立ち会っていただきたい」
夕矢には自信があったので
「分かりました」
と答えた。
剛士はそれに静かな笑みを浮かべた。
その後の展示期間は普通に過ぎ去り、安積美術館の芸術員の回収にも立ち会った。
今回あった事件の説明をしたのである。
芸術員は絵を鑑定し
「確かにサインは本物だと思いますが我々の方でも再鑑定いたします」
と告げて
「再鑑定料は請求させていただきますが」
と付け加えた。
それは致し方ないことであった。
長浜昭二は頷いて
「分かりました、こちらでお支払いいたします」
と告げた。
夕矢と剛士は絵の送り出しまで見送り仕事を終えると美術館の駐車場に止めている車に戻った。
その時。
一人の男性が夕矢に近付き
「東雲、夕矢くんか」
三嶋悟の秘蔵っ子がいたとはなぁ
と言い
「鑑定の依頼をするのを待っていたんだが」
残念だ
とフフっと笑って立ち去った。
シュッとした背の高い20代の男性であった。
剛士と夕矢は同時に顔を見合わせて
「「もしかして」」
と呟いた。
後日、安積美術館の方での鑑定で本物と判定されて事無きを得るが、その怪盗クロウの存在は他の美術館の盗難事件で美術館の間で知られることになるのである。
二人は車に乗り込み美術館を後に家へと帰宅した。
家では夕弦が待っており夕矢は
「今日は在り合わせの野菜炒め!」
とキャベツと玉ねぎと豚肉と牛肉を混ぜ合わせて焼き肉のたれで炒めた豪快なおかずを大皿に盛りつけてドーンとテーブルの中央に置いた。
夕弦も剛士も
「意外と万能たれだな」
と美味しくいただいたのである。
そして、その夜…夕矢の携帯に着信が入った。
『詩音』と表示された且つて『なおひこ』と名乗った陸奥詩音からのモノであった。
翌日、彼女は約束通りに絵を持って姿を見せたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。