年越し
12月は師走と言うけれど。
雪の舞い散る中を末枯野剛士の運転で雪道を青森から仙台に向かっていた。
あと3日でクリスマス。
夕矢は車の後部座席で荷物を抑えながら
「クリスマス前に仙台の家が決まって良かったよな」
ケーキ作ろうと思ってるんだけど
と笑顔で告げた。
剛士はハンドルを切りながら
「夕矢君はシェフにもなれるな」
楽しみにしている
と笑った。
夕弦はふぅと息を吐き出し
「確かに年末年始をゆっくり過ごせるのは助かる」
ここのところ慌ただしかったからな
と呟いた。
陸奥詩音と夏月春彦が齎した情報は夕弦や剛士だけでなく白露元や津村隆、夏月直彦に多大な衝撃を与えた。
特に直彦にとっては自分のルーツと知らなかった血のつながった妹の存在が明らかになったのだ。
その上、母親が存命でどこにいるのかもわかったのである。
ただ、状況が状況だけに直ぐに対面することはできなかった。
また、弓弦と剛士に関しても今後の行動は白露元と津村隆が方針を決めてからということになった。
全ては新しい年に持ち越すことになったのである。
三人は仙台の駅から少し離れた一軒家を借りて暮らすことになった。
剛士が合流したことで車が必要となったからである。
写真推理
クリスマスも終わって年末になると市役所も閉まり、仙台周辺の西東北の特別な家系を調べることが出来なくなる。
つまり、東雲夕弦も仕事納めとなるのである。
仙台駅の周辺は名物の牛タン屋が多いし、ビルも多く建ち並んでいる。
その都心の一角で夕矢はクリスマスが終わってから勉強に励みつつも毎日の鍛錬をさぼることはなかった。
ただ青森の時のような屋内運動場はなかったので家でのストレッチ+筋トレとストレッチ+トレッドミル(ランニングマシーン)が中心となった。
勿論、午後からの技を使った訓練も怠ってはいない。
その為に一階を運動用にして生活は二階を使うようにしているのである。
剛士の訓練を受けるようになって三ヵ月近くになり基礎体力もついたがそれ以上に身長が伸びたことに親友の芒野尊から驚かれた。
クリスマスの夜に兄の夕弦と剛士の三人でパーティーしている写メを送ったからである。
それを見た尊が
『夕矢、マジ身長伸びてない?もしかして俺より高くなった?』
と返してきたのである。
確かに背筋もすっとして身体も引き締まり体格は変わったかもしれないと夕矢は思ったものの
『そうかなぁ?あんまり分からないけど』
と返した。
尊はそれに布団の中に入りながら
「いやいや、本当に大人っぽくなった気がするぞ」
と言い
『道で会ったらわからないかもしれねぇ』
とLINEを返した。
夕矢は呆れたように笑って
『分かれ!』
と返した。
考えれば東京を出て四か月経つ。
その間に色々なことがあった。
夕矢は小さく笑んで窓の外を見つめ
「そう言えば、詩音ちゃんはどうしているんだろ」
と呟いた。
初めて会った時から度肝を抜かれた。
だけど。
だけど。
今は彼女を守ってあげたいと思うのだ。
それは、三つ葉冴姫に感じていた思いとは違ったものであった。
彼女は年が明けたら自分達と合流すると言っていた。
また会える。
そう思うだけで胸が疼いた。
夕矢は窓際に立つと雪で白く染まる光景を見つめ笑みを浮かべた。
新年を迎える鐘が何処からか響き夕矢はそれに耳を傾けるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。