詩音と直彦の秘密
夕矢は目を瞬かせ
「軽そう…伽羅さん思い出す」
とぼやいた。
夏月春彦の親友の松野宮伽羅のことである。
伽羅が聞けば
「そんなことない!」
と言いそうなことをふと考えたのである。
跳は立ち上がると部屋の棚の中から透明の玉の置物を持ってきた。
それは周囲に小さなダイヤが幾つかはめ込まれ、中央辺りに少し大きめのダイヤが嵌められている豪華なものであった。
それを三人が座るテーブルの上に置いた。
「これなんだ」
俺が親父の亡くなる時に受け継いだのが
「北東北の秘密が隠されているらしいんだけど…さっぱりな」
フゥと息を吐き出して肩を竦めて首を振った。
両手サイズの意外と大きな玉である。
剛士は目を細めると
「俺には何も見えんな」
と腕を組んだ。
跳は剛士を見て
「俺もね」
アハハハと笑った。
夕弦は微妙な表情で
「そこで笑われてもなぁ」
と心で呟いた。
跳は剛士と夕弦を交互に見ると
「どういう関係?」
仕事仲間?
と聞いた。
夕弦は首を振ると
「小学校時代からの幼馴染です」
と答えた。
跳はふ~んと鼻で返事をすると
「こんな格好良くていい人と幼馴染なんてうらやましいねぇ」
と呟いた。
玉の事はそっちのけでの会話である。
夕矢は玉をじっと見つめスーと撫でるように手を添わせながら動かした。
そして、斜め下まで回したとき
「中にもう一つガラスが入っている」
と呟いた。
それに全員が顔を向けた。
夕矢はじっと見つめながら
「同色だけど影に入る時に線が走って見える」
と言い
「何だろこの形」
と呟いた。
その中のガラスの部分に一番大きなダイヤが嵌めこまれている。
夕矢は片手で玉を全面撫でるように滑らせながらじっと中を見つめた。
「…北海道と同じだ」
これ
「青森辺りの形になってる」
かなり精巧に立体的に作られてる
跳は軽く口笛を吹いて
「さすが、目が良いと断言するだけあるな」
と告げた。
跳は腕を組み
「北海道も同じってことは各地域にこういうのがあるんだろうけど…何を伝えているんだ?」
と真剣な表情で呟いた。
それに関しては夕弦も剛士も分からない。
というか、そういうモノがあることを知らなかったのだ。
夕弦は心で
「恐らく、津村も白露も知らないだろう」
いや、だったらこういうモノを誰が持っているんだ?
「あの区域で」
と呟いた。
夕矢は跳をじっと見つめた。
彼には何となく想像がついているのだ。
それは北海道のそれを見た夕矢にだけ分かることであった。
夕弦は夕矢の顔を見て、その事を言うべきか黙っているべきか迷っていることに気付いた。
つまり、天童跳という人物を信頼できるか否かの次元の話である。
天童跳は夕矢を見て静かに笑むと
「まあ、その謎はこれを見ることが出来る君だけに託されるものかもしれないな」
と告げた。
「その謎を君が解きたい時には力になろう」
きっと北海道の神威家の人もそう言ったと思う
夕矢は目を見開いて跳を見た。
お調子者ポイと思っていたが、本当はそうではないのかもしれない。
跳は笑うと剛士を見ると
「その時はこの人みたいにかっこいい男になって来てくれ」
と告げた。
…。
…。
それ!?と夕矢は心で突っ込んだが、笑みを浮かべて頷くと
「はい」
と答えた。
夕弦はその後、跳から残りの宮沢家と金子家の情報を聞き天童家を後にした。
が、既に陽が暮れ始めて雪が舞っていた。
車の運転を剛士に頼み
「これから、近くの浅虫温泉で身体を休めようか」
と笑いかけた。
「青森に来て何処にも行っていないからな」
夜の雪道は危険だしな
夕矢は両手を広げると
「やったぁあ!!」
と喜び
「温泉、好き」
とワクワクと呟いた。
剛士も笑顔で
「よし」
というと車のアクセルを踏んだ。
跳はそれを館の中から見送り
「…日本を変えようと動き出した人間が出て来たってことか」
全てを与えられながら雁字搦めで苦しんできたこの家の歴史も変えてくれる人間が
と呟き笑みを浮かべた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。
 




