詩音と直彦の秘密
弘前成田収蔵レンガ美術館にあった菱尾湖南の『椿』を守り、二枚の絵が初めて顔を揃えた。
今までは展示されていた絵が奪われ、代わりのもう一つの本物が残される状態であった。
ただ、展示されていた絵が二重張りになっていたことは分かったが絵を守りながら写真を取り出すには時間がかかるということであった。
事件直後に分った27年前の購入履歴によって競売を行った会社が判明したのである。
『ASUTORA商事株式会社』という年に1度公開型オークションを主催する会社であった。
ただそこは様々な蒐集家や古美術商、またギャラリーなどから請け負ってオークションをするので本当の出元までは分からなかった。
手詰まりとはなったものの取り出した写真を夕矢が引き受けることができたのは幸いであった。
美術館の方はその二枚の絵を並べて展示したいとの希望があったのだが、一枚の所有者は間違いなく入れ替えようとした彼女であったので当人を捉まえて事情を聞いてからということで落ち着いた。
そんなこんなで青森に来て一か月近くが過ぎ去り12月へと突入していた。
夕矢はガクガク震えながら窓の外を見て
「すっげぇ、雪で道路が見えない」
と呟いた。
道路どころか一階部分まで埋まっている家があるほどである。
夕矢は服を着替えてリビングに姿を見せるとノンビリと新聞を見ていた夕弦と剛士を見て
「俺、いま気付いた!」
と告げた。
それに二人は顔を向けた。
夕矢は胸を張り
「ずっとさ、一軒家の外の壁に階段があるんだろうとッて思ってたけど雪のせいだったんだ!」
と告げた。
…。
…。
剛士は暫くの間の後に
「そうだな、だから中途半端な場所からだったんだな」
と相槌を打った。
夕弦はあっさり
「俺は知っていた」
と答えた。
夕矢はニヤリと笑うと
「尊と春彦さんたちに写真見せてやろ」
と告げた。
朝食はパンで夕矢は手早くベーコンエッグを作ってそれぞれの前に置いた。
色々あるモノのノンビリとした一日の始まりであった。
しかし、写真をLINEで送った直後に春彦から連絡が入ったのである。
それは夕矢が知りたかった菱尾湖南の作者と出元、そして、詩音の正体であった。
春彦は同時に乙女シリーズの購入者リストも夕矢に送り
『彼女を保護して力になってあげて欲しい』
と頼んだのである。
夕矢もまた彼女を保護して力になりたいと思っていたので
『分かった、ありがとう。春彦さん』
と答えたのである。
写真推理
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。