白露家の秘密
一度、5月頃に訪れて断られた神奈川公園の近くの大きな屋敷。
北海道や青森、新潟、仙台とこれまでの流れから言うとその大きな屋敷は特別な家系の家だと想定は出来た。
夕矢は東都電鉄の向島駅から横浜行きの列車に乗り30分程揺られた。
数日後の10月10日には兄たちが西日本の特別な家系を集結させてシステムの在り方と特別な家系の在り方を話し合う。
そう大きな一歩を踏み出すのだ。
そうなれば何れは東京のシステムの場所を知る必要が出てくる。
例えばテスト的にシステム改修を行う場合の場所として。
夕矢は固唾を飲み込むと帷子川沿いのその家の門前へと姿を見せた。
写真推理
「あの、5月頃に一度来て…その、時が来たらと言われた東雲夕矢というものなのですが」
もう一度お願いに来ました
「池を見せてください」
夕矢は門の側で警護をして男性に話しかけた。
男性は「東雲…夕矢」と名前をおうむ返しに呟くとトランシーバーを手に唇を開いた。
夕矢はそれを見て男性が話し終えると
「あの、この邸宅はどなたの家ですか?」
と聞いた。
…。
…。
考えれば今更の話である。
男性は目をパチクリと開き
「それも知らずに…」
と呟き
「今、ご主人様から明日の10時にもう一度来るようにとご伝言をいただきました」
と言い
「その時には貴方の兄である東雲夕弦氏も共にとのことです」
と付け加えた。
「白露陽一さまのご伝言です」
夕矢は目を見開くと
「白露…允華さんの実家だ」
と心で呟いた。
そして
「わかりました明日兄と来ます」
というと踵を返して立ち去った。
それを屋敷の二階から白露陽一が見つめていたのである。
「10月10日には特別な家系の半数以上が集まる会議が開かれるか」
動かし始めたようだな
「元に允華」
陽一は笑みを浮かべ側にいた従者に
「津村家の当主、津村清道に電話を」
話をする
と告げた。
それに従者は
「かしこまりました」
と踵を返した。
夕矢は列車に乗って携帯の時計を見ると
「帰ったら丁度昼くらいだよな」
と言い
「序でに東都アートスクールを見に行こうかなぁ」
と呟いた。
東都アートスクールは文京駅の近くにあり、帰りの途中にあったのだ。
夕矢は文京駅で降り立ち大通りを少し進んで7階建ての立派なビルを見た。
そこが東都アートスクールだったのである。
学科は夕矢の受けようと思う鑑定士育成科以外にもアニメーション制作科や漫画家育成科など専門学校らしい特殊な科が多くあった。
夕矢は「ほへー」と声を零し
「凄く綺麗な学校だよな」
校舎というよりはオフィスビルッて感じだけど
と呟いた。
暫く立ち尽くして、やがて、自宅へと帰った。
兄の夕弦と末枯野剛士が帰ってきており昼御飯に幕ノ内弁当が置かれていた。
夕矢はリビングに入ってそれを食べている二人を見ると
「あ、お帰り」
早かったんだ
と告げた。
夕弦は頷いて
「ああ、家に電話したらいなかったから弁当を買ってきた」
それな
と夕矢の分の弁当を前に置いた。
夕矢は受け取り
「ありがとう」
いただきます
と両手を合わせて言い
「あ、そうだ」
明日付き合ってほしいところがあるんだ
と告げた。
夕弦は「俺と末枯野か?」と聞いた。
夕矢は頷いた。
「うん、横浜にある白露家の屋敷」
白露陽一って人が住んでるみたい
夕弦は「え?」と聞いた。
夕矢は二人を見ると
「ほら、北海道や青森とかでもあったシステムの場所を示す見えにくい地図が白露家の庭の池にあるんだ」
と告げた。
剛士は目を開き
「そうなのか?夕矢君」
と聞いた。
夕矢は頷き
「うん、5月の時は断られたんだけど」
今日もう一度言ったら明日の10時に兄貴と来て欲しいって言われた
と告げた。
「良いかな?」
夕弦は頷き
「勿論だ」
ありがとうな、夕矢
と微笑んだ。
その日の夜に津村家の当主である清道が西日本会議への参加を表明したのである。
そして、白露元と允華は父である陽一に10時に横浜の別宅に来るように呼び出されたのである。
東京の特別な家系の当主の会議への出席が一気に進むことになったのである。
翌日、夕矢は横浜にある白露家の別宅に夕弦と剛士と行くと暫く待つように言われ、少しして、白露元と允華の二人と合流することになったのである。
そして、陽一によって招き入れられて館の池を近くで見ることが出来たのである。
ただこれまで見てきたものと違ったのは場所を示すダイヤが二か所あったのである。
一か所は直ぐにわかった。
5月に兄たちが破壊したシステムであった。
多摩川沿いの夏月直彦と朧清美の思い出の場所だ。
もう一か所は…夕矢は目を細めて
「地図を見て比べないとわからないけど」
と呟いた。
地図と見比べないと分らない。
だけど地図と場所は分かった。
恐らくまだ行ったことのない西日本の区画にもある。
夕矢は10月10日の西日本会議の後に開かれるだろう日本会議の話をしていた允華に
「俺、専門学校へ行きながら休みの日を利用して西日本のシステムの場所を示しているものを見て回ろうと思っているんだけど」
いいかな?
と告げた。
必ず必要になるのだ。
システムの改修を反映させる時に。
夕矢の言葉に允華は微笑むと
「俺には見れないから」
夕矢君だけが見れるから
「お願いする」
春彦君に連絡して口添えしてもらうと良いと思う
と答えた。
夕矢は大きく頷いた。
白露允華と元と別れて東京の自宅へ戻り兄の夕弦に
「俺、地図の場所覚えてるからちゃんと形にしていこうと思う」
これから必要になると思うし
と告げた。
「制度とかシステムとか…特別な家系の繋がりを作るとか…そう言うの俺は出来ないけど」
兄貴たちの手伝いを出来るって言うと見ることだけだから
夕弦はそれに
「夕矢、お前に言っておくことがある」
お前がいなかったらこれまであった特別な家系の人たちは俺達の話を聞いてくれなかったし連絡をつけることもできなかった
「それにシステムの場所が分からなかったら作業も出来ない」
春彦君や允華君それぞれに役割があるように
「お前にも重要な役割があってそれを果たしていると俺は思っている」
お前は春彦君にはなれないしなる必要はない
「允華君にはなれないしなる必要はない」
お前は東雲夕矢のままで良いんだ
「春彦君にも允華君にも出来ない事をしてきたししていくことになるんだ」
と告げた。
夕矢は目を見開くとにっこり笑って頷いた。
「ありがとう、兄貴」
剛士もまた
「そうだ、夕矢君は夕矢君の良いところがある」
春彦君も春彦君の良いところがある
「允華君も允華君の良いところがある」
その良いところが合わさって凄い力になっているんだからな
「誰がいなくても上手く行かなかった」
と夕矢の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
数日後、西日本会議が開催され一つの時代の節目が刻まれたのである。
夕矢は自宅で窓の外に広がるいつもと変わりのない街の風景を見つめていた。
「スッげぇことが起きてるのに…こうしているといつもと変わりのない日なんだよな」
と言い、勉強のアプリを立ち上げた。
「兄貴たちも春彦さんも允華さんもみんな頑張っているんだ」
俺も頑張らないとな
「未来に向かって」
夕矢は静かに勉強を始めたのである。
この時。
空は晴れ、街には秋の色どりが広がっていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。