怪盗クロウと真贋の意味
夕矢は少し考えると
「うん、でも今まで安積美術館から貸し出されていた絵は俺が見ても本物ばかりだった」
理由もなく千登勢アートセンターにだけ偽物を貸し出すかなぁ
と言い
「もしかしたら安積美術館も本物だと思っていたのかもしれない」
だとしたら怪盗クロウの本当の目的は何だろ
と呟いた。
「本物が欲しいなら偽物とわかっている千登勢アートセンターの絵を狙わなければ良いだけだし」
剛士は運転しながら
「そうだな」
と答えた。
一週間後、千登勢アートセンターから浮世絵鑑定倶楽部が持っていた伊勢街道14景の津宿と見比べても本物ではないという回答があったと連絡が来た。
夕矢が言った通りに津宿の烙印との違いと、津宿の方は確かに黒澄に筆で色が付けられていたということであった。
安積美術館の方も本物だと思っていたということで絵は一旦安積美術館の方に戻されることになったのだが…その日、1月29日の10時に運送会社に渡したまま行方不明となり安積美術館には一枚のカードが送られたのである。
『写恵の伊勢街道14景の一つ白子宿をいただきました 怪盗クロウ』
偽物を盗んだのである。
夕矢はその話を千登勢アートセンターの館長である久世修一郎から聞き驚いたが同時に
「偽物でも本物でも関係ないんだ」
と呟いた。
「怪盗クロウの目的って何なんだろ」
夕矢は闇の帳が降りる夜の中で一人、自室でタブレットに向かいながらふと考えていた。
その時。
ヒスイのキーホルダーを送った陸奥詩音から電話があった。
「ヒスイのキーホルダーありがとう」
凄く嬉しい
夕矢は頬を染めながら
「喜んでもらえたら俺も嬉しい」
と答えた。
そして
「ねえ、詩音ちゃん…その…もし、菱尾湖南の乙女シリーズの偽物に写真が入っていたら盗んだ?」
と聞いた。
詩音は少し考えると
「うん、盗んだ」
本物を渡して偽物を盗んだよ
「だって私にとって価値があるのは絵の真贋じゃなくて…写真だったから」
と正直に答えた。
「何かあったの?」
夕矢は正直に
「うん、怪盗クロウって絵を盗む人がいて…今回、偽物だって分かってるのに盗んだんだ」
と告げた。
詩音はそれに
「だったら、その人にも真贋関係なく絵を盗む理由があると思うよ」
絵を売るんだったら真贋が重要だけど
「絵を売るんじゃなくて他の理由だったら偽物でもそれに価値があったんじゃないかな?」
と告げた。
夕矢は「そうだな」と答え
「ありがとう、嫌なこと聞いてごめんな」
と告げた。
詩音は微笑むと
「嫌な事じゃないよ」
これで夕矢君の力になれたのなら嬉しいから
と告げた。
夕矢は頷いて
「凄く大切なことを聞いたから…ありがとう」
と返した。
そして携帯を切ると窓の向こうの月を見つめた。
「…そうか、もしかしたら怪盗クロウも詩音ちゃんと同じ何か目的があるのかもしれない」
それが何なのか
「俺には今はわからないけど、止めないとな」
夕矢は心で誓うと流れていたアプリの講義に視線を戻して勉強を始めた。
しかし、怪盗クロウの謎は思わぬ方向から情報が入ってくることになるのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




