レベル上げ
「らいと、もう1戦いっといたら? 経験値すごかったよ!」
神が笑顔で魔王を指差しながら言う。
「我、死にたくない。模擬戦、経験値、ある」
魔王がカタコトになって模擬戦を申し出てくれた。
「まぁ、余裕でしたし、新しい装備試したいんで、いきましょうか!」
俺が魔王に向かって構えると、少し震えながら魔王も構えてくれた。
「ひぇーーー」
魔王をひたすらこてんぱんにして、まるでいじめのような光景だなと思いながら、経験値を大量にもらった。
「そろそろ、経験値上がらなくなってきたね! 次のネタ作りに行こっか?」
ぜぇはぁしている魔王に罪悪感を抱きながら、俺も次のネタに進めるなら、進みたいと思って問いかける。
「いいっすね! 次はどこに行きますか?」
「異世界といえば、ダンジョンにハーレムだよね! 両方目指して、街に行こう!」
「先にそっちにすべきだっただろ!?」
ーーーー
「じゃあ、指に針を刺して、このカードに触れてください……登録完了です! スキルカードの見方を説明いたしますね」
個人情報の保護の簡単から、意外ときちんとした個室に案内されて、冒険者としてのスキルカードの登録を行う。指に針刺すのは結構怖えな……俺の世界ではもっと簡単に登録させよう……うーん……手荷物検査のゲートくらいのレベルがいいな。いろいろ考えていると、カードが目の前に準備された。
「えっと、レベルが……251…………あれ? 失敗した?」
「すみません。多分合ってます」
「え、あ、そうなんですね、え? ちょっと上の者連れてきていいですか?」
「はい、どうぞ」
混乱した様子の受付のお姉さんが、慌てて上司を呼びにいった。ただ、個人情報の教育がかなりしっかりしていそうだから、騒がれたりすることはなさそうだ。
「お待たせいたしました」
息を切らしながら、お姉さんが戻ってきた。後ろには、これこそ冒険者というビジュアルの厳つくてごついおっさんも一緒だ。
「失礼致します。ライト様の担当をさせていただいているナターシャの上司で、この冒険者ギルドのトップを務めております、シャルロットと申します」
「え?」
「あ、見た目に合わないとよく言われますが、シャルロットと申します。」
「あ、はい……えーっと……」
「一応男性ですので、見た目の通りの扱いで大丈夫です」
「わかりました、ありがとうございます」
一瞬見た目と名前の愛らしさのギャップに驚き、性別を悩んだが、おっさんという理解で良かったようだ。
「今回、ライト様の数値が上限とされている数値を大きく超えている、という現象について確認に参りました。恐れ入りますが、カードを拝見してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ」
「失礼致します」
見た目に反した名前と見た目に反した丁寧さだ。これだけ細やかな接客ができる人が上にいるからこそ、個人情報もしっかり守ってくれているのかもしれない。
「……そうですね、レベルに間違いもなく、さらに神の加護や全属性魔力までお持ちでいらっしゃる……さては、一度亡くなられましたか?」
「あ、はい、何度か死にかけました」
「それはそれは……。ご無事で何よりです。極秘とされている冒険者ギルドの資料に1件だけ、死にかけて生き返った方のレベル上限が解放された事例がございますが……そちらと同様の事例でしょう。誠に申し訳ないのですが、死にかけるとレベル上限が解放される可能性があると公表されると、生き急ぐ者たちが出てくる可能性がございますので、ライト様の本当のレベルやスキルを非公表にして、下2桁のの51だけにさせていただいてもよろしいでしょうか? 51でも現役冒険者の中で最上位レベルのため、全ての依頼を受けることが可能でございます。その他、ご要望がございましたら、何なりとお申し付けください」
つまり、死ねばレベル上限が解放される……ということか、神? そう思って神の方を振り向くと、顔を真っ青にして震えていた。
「神? どういうことですか? 特別に開放したわけじゃないですよね?」
「えへへ……?」
「笑っても誤魔化されませんよ? 何度殺してくれたんですか?」
「すみません、お詫びに今すぐハーレム築かせていただきます!」
「それは! 嬉しいけど、そういうことじゃないです!」
言い争う2人を見ながら、受付のお姉さんがそっと上司に呟く。
「レベル51なら、普通に過ごしてるだけでハーレムくらい築けますよね?」
「まぁ、そうでしょうね。彼なら見た目も普通だし、特に問題なく築けるでしょう……まぁ、火に油を注ぐことはせず、見守っておきましょう……あなたも入りたいですか?」
「まぁ、レベル51の方なら入りたいですよね……ということで、ライト様の担当は私以外には回さないようにしといてくださいね? 真実を隠す意味でも、です」
「これだけ極秘事項を抱える彼の担当は、すでに全て知っているあなたにする以外、元々選択肢にはありませんよ」
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「絶世の美女のハーレム作っておこうっと!」
久々に拠点としていた神の家に戻り、らいとが寝静まった後、神がぼそりとそんなことを言っていたことは、らいとはまだ知らなかった。