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ボス戦

 神は、美しい髪を一つに束ね、あぐらをかいて座りながら、さらさらと添削を入れていく。雑然とした光景のはずが、神の美しさで神々しく見える。


「でーきた!」


 神は読むのも書くのもすごく早い。さすが神だ。ものの3分ほどで添削を終えた俺の日記は返却された。


「はい、今日も真っ赤っか! 出来事の羅列だけじゃ、伝わんないでしょ! もっと、感情豊かにキャラの個性を引き立たせて! 魔獣の声も、音声なんてないんだから、表現で緊迫感を持たせたり、区別をつけなさい! あと、起承転結。盛り上がりに欠ける。添削した赤い部分を意識して、書き直し」


「ありがとうございます。書き直してきます」


「いつも言ってるけど、それ捨てないでコピーしてからそっちに新しいの書いてね?」


「はい! わかってます」


 神は、俺に毎回添削したものをコピーさせる。また書いて、添削に出しての繰り返しだ。コピーしたものは、どこが悪かったか、後から確認するために取っておくらしい。たまにパラパラと見返していると、当初に比べては文章力がついてきた気がした。





ーーーー

「ついに、あと少しで山頂だね! らいと、頑張ったじゃん! 今レベルいくつ?」


「今レベル99になりました! 確か、この世界だと100でカンストっすよね?」


「いや、さっき書き換えて、らいとだけてっぺん無くしといたよ」


「え。そんなことできるんすか? ちなみに、俺のレベルを人口的にあげたり、チートを与えてくれることって、神ならできるんすか……?」


「もちろんだよ!」


 自慢げに振り返る神。神にでも、そんなことは出来ないということだと思って、ここまできた、俺の努力を返せ!! その気持ちが表情に出たのか、神は少し焦った顔をする。不満を抱きながら、出会った魔獣たちをばさばさと切り捨てていく。


「今日絶好調じゃん! このままボス戦行こっか?」


 オオカミのツノの剣を装備してから、レベルが上がるのが早くなった気がした。それを神に言ったら、苦笑いで誤魔化された。あの時、お詫びにチートな魔術でもねだっておけばよかった。そんなことを考えながら、切り捨てた魔獣たちの落とし物を集めている。


「魔石って何か使えるんすか? 綺麗ですけど……」


 さまざまな色に輝く魔石を空にかざしながら、俺が神に問いかける。


「武器に装備したりできるよ! 作品の中でもあったでしょ? あれ、実は私でもできるから貸してー」


 神が剣に触れると何故か変形して、魔石をセットできるようになった。


「あ! 最初の戦いで魔導を放った剣って魔石付きだったんですね!?」


「そうそう! この世界では、基本すべての剣に魔石がついてるよ! 初期装備でもただの剣はないかな?」


「は?」


「あ……」


 やばって顔した神が、口を押さえる。おい、それってつまり、初期装備にも満たない状態でここまできたってことか? この神……絶対何かつけてもらうからな!


「神……? それって、最初からそういう剣を使ってた方が、レベル上げ早かったんじゃないんですか?」


「あ、あはははは……らいととここまできて、やっとそのことに気づけたところなんだよー! あと、やっぱ初期装備といえば、木の棒じゃん? あはは」


 目線を逸らしながら、笑って誤魔化そうとする神に詰め寄る。


「誤魔化されませんよ? 今まで苦労した分、何かしらのお詫びをいただかないと……ね?」


「あ! らいとのレベル上限なくしてあげた!」


「それはお詫びとちゃうわ!」


 思わず、エセ関西弁で突っ込む。


「うーん……仕方ないなぁ。じゃあ、神の加護と全属性魔力、どっちがいい?」


「どっちもです」


「え? それはちょっ「どっちもです」」


「はい……」


 圧で神を根負けさせ、神の加護と全属性魔力を与えてもらった。魔獣でも出てこねーかな? 試してぇな!







 ごごごごごごごぉぉ!


 すごい音がして、目の前に城が現れた。


「何事ですか? これ!」


 俺が神にそう問いかけると、神が答える前に低い男の声が聞こえた。



「我が名は、魔王アレクタス。よくぞここまで参ったな。軟弱な人の身で…………その女子は、人でないのか? まぁよい、かかってまいれ」


 突然、魔王と名乗る男が戦いを仕掛けてきた。


「神! どういうことですか! 本当に木の棒で魔王に挑ませるつもりだったんですか!?」


「今は、初期装備じゃん!? 大丈夫! 死んでもなんとかしてあげる!」


「そういうことじゃねーー!」


 俺が叫びながら、魔王に切り掛かっていくと、ボソボソと声が聞こえる。


「え? 神? ていうか、ガチで初期装備じゃん。魔王戦、初期装備で来るとか……というか、木の棒でこの山とか死ぬやつでしょ、絶対」


 敵に同情されながら、神に叫ぶ。


「魔王に同情されてるんですけどぉ?」


「はは! 最初はレベル1で木の棒で何度も死んだ身だと言っちゃえ!」


「神、お前にだけは、それを誇ったように言われたくないですー!」


「え、ガチで可哀想すぎる」


 魔王が同情に満ちた瞳を向けてくる。魔王と言って人型であっても、肌の色は真緑で、髪は真っ白、瞳は真っ赤。尻尾も耳も生えてるから、斬りかかることに躊躇は少なくて済む。


 魔王が構えた長くて黒い杖を剣で軽く振り払う。


「え、我の杖が?」


 魔王もそれなりに本気で来ていたようで、驚いた顔をしている。


「いっけぇえ!」


 俺が魔王に向かって剣を出すと、あっさり魔王に突き刺さり、剣が七色にばちばちと光って、魔王は消滅した。確かに、最近はドラゴンも、剣一振りで倒せるようになっていたが……初期装備のはずの魔石と神から奪った加護や魔術も効いた気がする。そう思いながら、神の方を振り返る。


「さ! さすが、らいと! 一瞬だったのは、やはり鍛錬の賜物だね!」


 経験値がかなり入り、レベル121まで上がった。


「神? 最初からこれだけの装備と加護と魔術をもらっておいた方がよかったことないですか?」


 俺が微笑みながら、神に問いかけると、


「つ、次からは気をつける!」


 神は魔王の消滅した場所まで走って逃げていった。


「現段階で魔王がいなくなると、私の作品的にも困るし、連れ戻してくるね!」


「うわぁ……」


 そっと魔王に同情して、ふわりと消える神を見送る。





ーーーー


「お主、こんな目に何度も遭ったのか?」


 神に連れ戻された魔王は、死んだ目で俺に同情してくれた。


「我の持つ最高の武器と防具、魔物を分けてやろう」


 俺でも扱いやすそうな魔導剣と防具一式、美形な魔物を差し出してくれた。魔導剣は魔石付きの剣よりも強い魔術を織り交ぜて、剣としての攻撃に使えるらしい。防具は普通に軽そうな頭の部分のない甲冑に見えるが、全身保護されるらしい。美形の魔物は、攻撃力も防御力も桁違いで、見た目はペットにもなれるし、美女にもなれるらしい。最高だ、魔王。信仰変えようかな?

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