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異世界転移

「見なさい? これを!」

 神が自慢げに取り出したのは、1つの銀色に輝く鎖の輪だ。思わず声が出てしまう。


「え、なんすか? それ」


「何よ、その言い方! ふふん、見てなさい? これを地面に置いて……その中に入る! あんたも! ……あんた、名前なんだっけ?」


本田ホンダ らいとです」


「投稿サイトのらいとって本名なんだ! じゃあ、いくよ、らいと? “開け、らいとの世界へ”って、私が言えば……ほら?」


 鎖に囲われた地面が不思議な揺らめきを持ち、青く光り始めた。


「うわ!? なんすか!?」


 驚いて思わず目を閉じ、次の瞬間、そっと目を開いたそこは、天気の悪い草原だった。


「書いた記憶あるでしょ? 魔獣が溢れる森で、唯一魔獣の入れない草原、だっけ?」


 神が、鎖をしゃらりと回収しながら問いかけてきた。


「なんで知ってるんすか!? って、読んでくれたのか……なんか恥ずいっすね……」


「そんなことより! この草原、見て思わない?」


 思わず、照れてしまったのに、そんなことと捨てられてしまって、少し寂しい気持ちだ。


「……天気が悪いです。あと、草しかなくて、森はなぜか認識できない感じ……っす」


「それよ! 表現が足りないから、こうなってるのよ! いい? 描写を書きすぎても事実の羅列になっちゃうけど、読者に想像してもらうために、きちんとした言葉で伝えることを身につけなきゃダメなの。らいとには、まずそれが足りてないのよ?」


「なるほどです……あの! じゃあ! 参考のために、神の作品の世界へお願いします!!」


「仕方ないわねー? 私の作品の世界の中には、最近、拠点として建てた家もあるのよ!」


 鎖を置いて、“開け、私の世界へ”と言った神は、自慢げな表情で、憧れてやまなかったあの世界に、俺を連れて行ってくれた。





ーーーー

 透き通るような晴天にさんさんと日光が降り注ぐ、ヨーロッパ風の街並みに、楽しそうに行き交う人々。気温は適温だ。露天では、さまざまな野菜やフルーツなどの食材を売っていて、賑わっている。整った街路樹からは、小鳥の囀りも聞こえてくる。自分の立っている場所を見ると、そこは通りに面した、素敵な一軒のログハウス風の家の手入れされた庭だった。


「うわぁ……」


 思わず、声を漏らしてしまった。()()()()()()()()()()()()()()。自分が思い描いていたものと寸分違わぬ世界だ。


「どう? 素敵でしょ?」


「すげぇっす! 最高っす! 自分のあれを見た後だと、格の違いを見せつけられたっす!」


 自慢げに微笑む神の手を取り、握りしめながら思いをぶつけてしまった。神の顔がなぜか赤くなる。


「あ、ありがとう!」


「え、顔暑そうですけど、大丈夫ですか?」


「誰のせいだと思ってんのよ!」






ーーーー

 この世界に来れて、最高に楽しかった瞬間はあのときだったかもしれない。

 俺は、憧れの世界に来たはずだった。いや、来たことに間違いはないんだろう。ただ、最初に見たログハウスの中から見る同じ光景しか、ここ3ヶ月は見ていないと思う。日付感覚も曖昧になってきた気がする。

 神の言う“小説の書き方を教えてあげる”は、地獄だった。3ヶ月間、一度も外に出ていない。素晴らしい世界を自分にもインプットさせてください、と何度も頼み込んだんだ。そしたら、あの神なんて言ったと思う?


「らいと、あんたの表現力じゃ、インプットするより先に、日本語を書くことから覚えなさい」


「俺、日本語使えますけど?」


「あんな日本語は、日本語とは言わないの。らいと語よ。でも、流行らないやつ」


 俺語とか、芸能人みたいでかっこいいって思った瞬間に、心を折られた。


「上手く日本語を扱えるようになるまで、この家からは出さないわ」


 無駄に愛らしい顔を傾げた神は、そう言って俺を監禁したのだった。

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