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就職

 書けば書くほど上達するだろうと思って、毎日書き続けた。ブクマをつけてくれる人も増えた、でも、更新すると消えていく。次々と後から作家デビューしたっぽい人たちに抜かされる読者数やポイント数。薄氷より脆いメンタルなのに作家なんて向いてないんかな? 徐々にブクマと評価だけを気にして、楽しめなくなる自分が嫌になった。でも、書いているときは、やっぱり楽しいんだ。もう諦めて、趣味として書いていこう。そう思っても、やはり評価が気になってしまう……。その気持ちから逃れるように、暇に身を任せ、資格をたくさん取ったりもした。もう、書籍化は片隅に置いておいて、資格がこれだけあれば、就職してからも評価されるかもしれないから、バリバリのできる男目指して頑張るよ!





〜4月

 俺もついに社会人だ! バリバリ仕事してやるぜ! まぁまぁな規模の会社だし? ワークライフバランスっていうのは実現できるだろ? 趣味として小説書き続けてやるぜ! いつかランキングに載ったら、一気にpt増えて、書籍化できるかもしれないしな!



〜9月

 残業時間は月80時間程度だが、残業代は45時間しか出ない。休日もあるし、ブラックというほどブラックではないのに、なんでこんな疲れてるんだろうな……。業務内容か? ミスしたら罵声が飛んでくるところか? 死ねって言われたな…… 疲れ切っているのに連れ回される飲み会か? ……まぁ、ここ1ヶ月は減ってきたから、世の感染症に感謝したくなる。周りの友達みんな在宅勤務って言ってるのに、毎日毎日出勤だ。趣味の小説を書く暇もない。久しぶりに開くことができた、小説家になろう。やっと読むことができるか、あの神の作品の続きを……。え? 自分に感銘を与えてくれた作家が引退、だと? 嘘だろ、どう言うことだ。ググると、失踪とか出てくるんだけど……神がいない世界とか、絶望しかない。仕事もきついし、死んでしまおうか……。死ななくても、大怪我でもしたらしばらく休めるかな? 駅のホームでふと考える。

 電車は遺族が大金を支払わないといけないってよく聞くし、どうしようか? そうだ、飛び降りてしまおうか? そう思って、近くの陸橋まで歩いて行った。

 橋の上に立って、ぼぉっと下を見つめていると、ぶぶぶぶ、とメールが届いた。



「郵便物のお知らせ」


 サイレントモードにしているのに何でだ? 郵便物……そうだ! 神の作品は、アニメ化決定したんだった! 半年前に予約したそのグッズだ! 死ぬにしても、あのアニメだけは楽しまないとだ! 睡眠時間を削ってでも、なんとか時間を捻出してやる!




ーーーー


 走って家に帰った。運動不足の身体が憎い。いつもは暗くて、じめーっとした印象のアパートが、今日は輝いて見える。中でも、一際光を放つ宝箱に見えるのは、宅配ボックスだ。中に残された郵便物を確認する。差出人を見るとやっぱりそうだ! 見つけた箱をそーっと取り出し、慌てて家の中に入った。手を洗うのも忘れて、びりびりと箱を破った。中身を取り出し、確認する。


「うぉー! あのキャラが、ここに存在してるぞ!! すげぇな! 最高じゃん!」


 届いたグッズをそっと取り出しながら、一つ一つ確認していると、買った覚えのないキャラクターフィギュアがいた。


「なんだ? このキャラ? 特典か?」


 作品の価値観に合った美少女だ。そっと取り出し、いろんな方向から眺めていると、フィギュアが動いた。


「あんまジロジロみないでくれる? 私がいなくなったからって、死なれたら、後味悪すぎるんだけど! てか、手洗った?」


「うわっ!」


 思わず叫んで、放り投げかけて、落としたらまずい、と、机の上に置いた。そして、慌てて、手を洗いに行って戻ってきた。


「私の作品読んで、泣きまくってくれてたんでしょ? グッズもこんなにたくさん買ってくれたの? 感想たくさんくれたし? 嬉しかったわー! レビューにブクマに感想だけじゃなくて、メッセージもくれたわよね? “絶対この作品に関われる業界に就職します! 俺の生きる希望です”だっけ?」


 戻ってきた俺にそう言ったのは動くフィギュアだ。え、なんでメッセージの内容言えるんだ? もしかして、推し作品の作者さん? 神! 俺の神!? 想像より若いんだけど……。女子大生だったのか!? というかフィギュア? 失踪は?


「神って言われるのは慣れないけど、そうよ、年齢は秘密! もう歳なんてないし!」


「あれ? 失踪されたって聞きましたけど……なんでこんなところに、小さくなっていらっしゃるんですか?」


「あなたたちが私を神って崇めすぎて、本当に神格化したのよ! おかげで失踪扱いよ! まぁ、家族なんていないし? 私はひとりぼっちだったから、神になって楽しいものよ。まるで小説の作者のように、この世界でもなんだってできるし?」


「え? は? ごめんなさい?」


「そんなことより、私の1番大ファンな、死にそうなあなたに同情したから、プレゼント持ってきたの。異世界に連れて行ってあげるわ」


「は?」


「だーかーら! 私の作った世界に連れていってあげるの! 他にも有名なあれとかあれとか? いろんな世界が作れるし、あなたの作った世界にも行けるわよ? そこで、小説の書き方も教えてあげるわ? 私、あなたの作品を読んでびっくりしたわ?」


「え? 読んでくださったんですか?」


 思わず声に歓喜の色が灯る。


「下手すぎて」


 ですよねー。

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