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Episode:9 改革において一本道を通るのは破滅でしかない

 アイラとエリシアの二人との、思いがけない交流を終えた後。

 日も沈んで辺りもすっかり暗くなった頃、部屋に戻ってきたゼノアは早速椅子に腰掛けて、机に明かりを灯してから借りてきた魔法史の書物に読み耽け始める。


 先程と同じように、速読しては読み終えた本をテーブルの端に積み重ねていく。


 ………………


 …………


 ……


 借りてきた書物は五冊ほどだが、それら全てをおよそ一時間で目に通したゼノアは、深く溜息をついた。


 闇属性に関する事がどこにも書かれてない。


 古い物の中でも特に古い物を五冊、厳選して借りたはずだったのに、どれもゼノアの探求心に応えられる内容では無かった。


 どうやら、闇属性の存在はかなり昔から秘匿されてきたらしい。

 しょせん学内の図書室にあるような本だ、期待する方が間違いだったかもしれない。

 こうなれば書物からではなく、有識者に訊ねる方がいいだろう。

 懸念があるとすれば、その有識者ですら闇属性の魔法を知らない可能性も捨て切れないことだが。


 読み終えた魔法史書をひとまとめにしてから、ゼノアは入浴することにした。




 学生寮のバスルームには、それぞれ火属性と水属性の魔法を封じ込めた特殊な魔法道具『エレメントリング』が備えられており、簡単な詠唱だけで水と火を自由に使うことが出来る。

 浴槽に湯を張る時もエレメントリングを使えば、水汲みと火起こし、加熱の手間が省けるのである。


挿絵(By みてみん)


「生徒会選挙か」


 湯槽の中で、ゼノアはこの先に起きるイベントを呟く。

 先程の夕食の席で、アイラとエリシアの二人と話したことだ。

 まぁ自分には関係の無いことだろう、と思っていたゼノアだったが、同時に「これはチャンスだ」と見ていた。

 生徒会への所属――即ち、少なからずとはいえ学内運営への発言力を得られると言うことだ。

 だが、ゼノア自身は立候補するつもりはない。

 何故なら、生徒会に所属するとなれば一定の業務もこなさなければならないからだ。

 ゼノアにとっての理想は、生徒会への発言力を持ちながら自由に行動できること。

 しかし、自身が生徒会役員になっては意味がない。

 全くの無意味とは言わないが、行動の自由が制限されてしまうのは望むところではない。

 ではどうするのが最も(ゼノアにとって)効率的なのかと言うなら、当然自分以外の生徒が当選しなければならない。

 言わば、"パイプ役"が欲しいのだ。


 そして、恐らくはルーナが選挙に立候補するだろう、とも見ている。


 学内での差別問題を解決したいと思っているのなら、自分がそれを取り締まる側に立つべきと思うはずだ。

 暴力を用いた手段を別にすれば、ゼノアとルーナは同じ目的なのだ、ならばルーナと言うパイプ役を通じて、自身の主張を間接的に生徒会内部へと浸透させる。

 

 問題があるとすれば、数刻前にゼノアがルーナに対して『暴力の必要性』を身を以て教えたことだろう。

 暴力の必要性を、彼女がどう捉えるか。


「(まぁ、あれで諦めるような女じゃないと思うがな)」


 リナリア・アストレアの血を継ぐ者ならば、暴力のひとつやふたつに屈することは無いだろうと、ゼノアは確証のない確信をしている。


 ルーナに当選してもらうのが最上だが、そうでない場合――妥協策も控えておく必要がある。


 そこでもう一人の立候補者、B組立候補者、エリシア・クローデルだ。


 彼女は王国騎士の家系だと言っていた。

 アストレア家のような名門ほどでは無いにしろ、ある程度の権力――王国への発言力を持っているはずだ。

 他クラスであるため、パイプ役としてはルーナよりも少し扱いにくいかもしれないが、こちらに抱き込んでしまえば悪くはない。


 そして、ゼノアにとって良くないのはC組の立候補者が当選してしまうこと。

 現状、考えられるC組の立候補者は、セルエ・グラディエートだろうと見ている。


 ルーナとエリシアが立候補する以上、C組の代表者が当選する可能性自体は低いだろうが、不確定要素は可能な限り取り除いておきたい。


 とは言え、この時代に来てからまだ一日しか経っていないのだ。

 何をするにしても、とにかく情報が足りない。


 ゼノアは勢い良く湯槽から上がった。




 時間帯としてはまだ消灯時間ではなく、例え寮の管理人の見回りに見つかったとしても、謝りながら軽く頭でも下げれば注意ぐらいで済まされる。

 入浴を終えたゼノアは、食堂で適当な飲み物を購入してからオズワルドの部屋を訪れていた。


 部屋のドアを軽くノックする。


「へーい、どなた?」


 ドアの向こうから気の抜けたオズワルドの声が届く。


「ゼノアだよ、オズワルド」


「お、ゼノア?ちょっと待ってくれや」


 ゼノアが訪ねてきたと聞いて、数秒の後に部屋着のオズワルドが出てきた。


「どうしたどうした、こんな時間にゼノアが来るなんて珍しいじゃねぇか」


「なに、少しばかり雑談でもしようと思ってな。消灯時間まででいいよ」


「ふーん?まぁ、上がってくれ」


 オズワルドに手招きされて、ゼノアは部屋にお邪魔する。


 食堂で買ってきたサイダーをコップに注いで、オズワルドは自分のベッドに、ゼノアは彼の勉強机の椅子に座らせてもらう。

 勢い良く泡立つサイダーを一口啜ってから、オズワルドはゼノアに向き直る。


「雑談ってな。話題はどうするよ?」


「そうだな。B組の、エリシア・クローデルって女子生徒を知ってるか?」


 ゼノアは、エリシアについて訊ねてみた。

 オズワルドにとっても別クラスの生徒なので、詳しいことは聞けないかもしれないが、全く何も知らないことはないだろう。

 だが、それを聞いたオズワルドは目を丸くした。


「B組のエリシアって言えば、王国騎士の家系がどうこうって人だな。そいつがどうかしたのか?」


「さっき食堂で、そのエリシアに会ってな。彼女、生徒会選挙に立候補するらしいんだが、どんな人間かと思ったんだよ」


 ゼノアはエリシアの人間性や人柄について訊ねたのだが、当のオズワルドは、


「どんな人間かって……そりゃお前、凛々しくて綺麗な娘だよな!ルーナちゃんとはまた違う魅力に溢れている!」


 目を輝かせて全く違うことを口走りだした。


「その辺の男子連中よりよほど男らしいし、立ち振る舞いもまさに"女騎士"って感じでよ、ボーイッシュな黒髪のショートヘアがさらに引き立てる!」


「ほぅ」


「エリシアのファンになった女子も結構多いらしいし、生徒会選挙になったら結構な票数が入るだろうな。……そういや、ウチのクラスは誰が立候補するんだろうな?」


「それは俺も気になるところだが、多分ルーナが立候補すると思うぞ」


「やっぱそうだよな!クラスメートとして、ルーナちゃんが役員になれるように協力しなきゃな!」


 うんうん、と腕を組んで頷いているオズワルド。もし仮にルーナではない生徒が立候補したとしたら、果たしてここまで意気込もうとしただろうか。


「ルーナとエリシアの話ばかりになったが、C組からは誰が立候補すると思う?」


 次にゼノアは、C組の立候補者の話題を持ってくる。


「C組か?んー……まだ分からんけど、あのセルエかもな」


 セルエの話になってか、オズワルドは少し不満げな表情を浮かべる。

 やはりか、とゼノアは声にせずに頷く。


「あいつ、昼間はあんな風に振る舞ってたけどよ。家は名門グラディエート家で、成績も優秀、認めたくねぇけど女子ウケするイケメンでもあるんだ。認めたくねぇけど」


 認めたくねぇけど、と二度も言った。


「何言ってるんだ、オズワルドだって十分イケてるじゃないか」


 ゼノアは何気なくフォローしたつもりだったが。


「そう言うことを言ってくれるのはありがてぇけどよ……だったら女の子にモテないのはなんでだッ!?」


 何故か悔しげに自分の膝を叩くオズワルド。


「つーかさ、お前はお前で恵まれ過ぎじゃね?ルーナちゃんには一目置かれてるし、意外にかわいいコトネちゃんとは席が隣で仲良さそうだし、おまけにあのエリシアとも知り合いになってるとか、反則だろ!?」


「そう言う才能でもあるんじゃないか?」


「ちょっとでいいからその才能分けろよちくしょう!!」


 オズワルドは涙目になりながらも、ぐびぐびとサイダーを飲み干してもう一杯注ぐ。


「いやそもそもな、イケメンかどうかよりも、女運の問題だと思うんだよ俺は……」


 サイダーで酩酊し始めたのか、オズワルドの異性関係への愚痴こぼしはまだまだ続きそうだ。

 と言うわけでEpisode:9でした。


 徹底的に秘匿されている闇属性の存在、腐女子の皆さんが目から鼻血を出して喜ぶ(だろう)主人公の入浴シーン、ホイホイと自室にゼノアを招き入れるオズワルド、の三本でキメました。

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