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Episode:19 正義無き力は忌まわしく、力無き正義に意味はない  

 翌週の休日に、ルーナ達四人は城下町にて完成されたチラシを受け取り、その翌日から配布を始め――一瞬で無くなった。


 チラシの配布を考えていたのはエリシアやセルエも同じであったが、生徒のほとんどがルーナのチラシだけを取り、他二人のチラシにはあまり興味を示さなかった。

 エリシアのチラシはまだ手にとってもらえたものの、セルエのチラシだけは総スカンも同然であった。


 もはや、ルーナの当選は決定事項のようなものだ。


 エリシアは「立候補者として、投票結果が出るまではやり通すつもりだ」と公言しており、少しだけ彼女への評価を改める者もいたのだとか。




 そして迎えるは、選挙戦当日。

 選挙戦の日に授業はなく、粛々と立候補者のスピーチと投票が行われ、即日開票、結果発表となる。


 ルーナはA組のクラスメート達から発破を受けていた。


「そんなに緊張しなくったって、もう勝ちは決まってるようなもんだろ?」


 オズワルドは、緊張に身持ちを固くしているルーナに努めて気軽そうに声をかけてやる。


「いいえ、結果は最後まで分からないわ。最後の最後で大失敗で落選なんてしたら、目も当てられないもの」


 あくまでも真剣にスピーチに臨むルーナ。


「エリシアさんも最後まで頑張ると言っているし、きちんと全力で当たらなければ失礼よ」


「うんうん。最後まで真面目にする方が、ルーナちゃんらしいよ」


 コトネはルーナの当選を信じているためか、いつものゆるふわな笑顔で頷いている。


 オズワルドやコトネ以外の生徒達も次々に応援の声を掛ける中、何故かゼノアだけは窓の外を眺めていた。


「(さて、どこで誰が何を仕掛けてくるのか……何にせよ妨害をするなら、全力で迎え撃ってやろうじゃないか)」


 しばらくルーナを応援する声が続く中、所定の時間が近付いて来たので、立候補者三名はスピーチの準備のために先に体育館へ向かう。




 やがて一般生徒達も体育館へ向かい、館内は全校生徒で埋め尽くされる。

 立候補者と生徒会役員達は、舞台裏にて待機している。


 が、何故かそこにルーナの姿は無かった。


「A組の立候補者がいない?」


 ユーストマは、生徒会役員達に鸚鵡返しにそう訊ねた。


「はい、間違って一般生徒の中にいるというわけでもなくて……」


 役員の一人からそう報告を受けて、ユーストマは目を細めた。


「もう刻限だと言うのに……やむを得まい、A組は最後に回す。選挙戦を開始するぞ」


「はいっ」


 ユーストマは役員達に次々に指示を飛ばし、立候補者二人――エリシアとセルエに向き直る。


「すまない、少々トラブルが発生したようだ。君達二人は、こちらを気にせずスピーチを行ってくれ」


「トラブル?A組のアストレアが来ないのですか?」


 エリシアが真っ先に訊ね返したが、セルエだけは殊勝な顔のまま黙っている。


「どうやらそのようだ。スピーチを行えなければ失格となってしまう。こちらでも可能な限り先延ばしにするが……」


 ともかくもう開始するしかない。

 まずはエリシアのスピーチからだ。


「(スピーチを延ばさなければならないな……アストレアはどこで何を……いや、誰の仕業かは分かっているが)」


 エリシアは、視線だけでセルエを睨みつつ壇上へ向かった。




 ゼノアは一人、こっそり体育館を抜け出していた。


「(ルーナが舞台裏に来ていない、か。そんなことだろうと思ったよ)」


 大方、体育館に向かう途中で拉致されたのだろうと踏んでいる。

 十中八九、セルエの息のかかった者達の仕業だろう。

 確かに有効な手だ、選挙会場に辿り着け無ければ立候補も何も無いのだから。

 だが、ひとつ致命的なミスをしていると言えば、ルーナの居場所はゼノアによって筒抜けになっていることだ。

 既に魔力感知にて彼女がどこに拉致されたかの特定は出来ている。


 その場所は、倉庫室だ。


 倉庫室の前まで来ると、ドアを叩く音と、ルーナの声が聞こえてくる。


「………………!…………のよ!……いないの!?」


「ルーナ!ここにいるな?」


「ゼノアくんっ!?どうしてここに……」


「開けられないんだな?」


「そ、そうなの。魔術で鍵を壊そうと思ったけど、プロテクトが堅過ぎて、私じゃ全く歯が立たなくて……」


 ゼノアは倉庫室のドアに手を触れ、指先に魔力を集中させて、このドアの魔力プロテクトを解除しようと試みる。


 しかし、


「………………ちっ、なんて面倒なコードを仕込んでやがる」


 思わず舌打ちした。


 何十重ものプロテクトを一瞬にして解除、突破してみせたゼノアだが、最終ロックだけがどうしても解除出来ないでいた。


 魔鍵を用いた物理的なロックが最後に控えていたのだ。


 今から職員室に行って、事情を説明して鍵を借りてくる時間はない。


「ルーナ、ドアから離れて部屋の片隅にいろ」


「え?えぇ……」


 ルーナは慌ててドアから離れて、彼の言う通りに片隅に身を寄せる。


「よっ、と」


 次の瞬間、


「ひっ!?」


 ドアを突き破って人の手刀が生えてきた。

 突き破った隙間に指をねじ込み、バギャバギャバギャバギャと嫌な軋轢音を立てながらドアに風穴を開けられていく。


 当然、それを為しているのはゼノアだ。


「本当なら壊したくなかったが、非常時につき許してもらおう」


 ドアを変形させ、どうにか人一人が通れるくらいの隙間を作る。


「ゼ、ゼノアく……ぁ、ありがとう……」


「礼を聞いている暇はない、体育館へ急ぐぞ」


「う、うんっ」


 ゼノアとルーナは急いで体育館の舞台裏へ駆ける。




 エリシア、セルエのスピーチが終わり、さてあとはルーナの番だというのに、その彼女が一向に現れないことに、生徒達はざわめいている。


「お、おい、ルーナちゃんは何やってだよ」


「どうしたんだろ……?」


 オズワルドとコトネは不安げに顔を見合わせる。


 舞台裏にいるユーストマ達も、いよいよルーナの欠場を決定しなければならないかと悩ませ、その都度にユーストマが押さえているが、いい加減にそれも限界だった。


「……仕方無い、A組のルーナ・アストレアは欠場とし……」


「待ってください!!」


 ユーストマがルーナの欠場を決定しようと言う寸前。

 息を切らしながらもルーナと、呼吸一つ乱れていないゼノアが舞台裏に現れた。


「なっ!?何故ここに……!?」


 来るはずのなかった人物と到来に、セルエは思わず驚愕し――それをゼノアが聞き逃すはずもなかった。


「ほぉ?面白いことを言うなセルエ。ルーナは立候補者だ、ここに来るのは当然じゃないか」


 それに、とこれ聞きよがしに舞台裏にいる全員に聞こえるように。


「何故ここに、って言うのはどういうことだ?まるでルーナが今までここに来られなかった理由を知っているような口振りだな?」


「余計なことを……ッ!」


 墓穴を掘ったことに今更気付いたセルエだが、もう遅い。

 トン、と背後からユーストマの手がセルエの肩に置かれた。


「セルエ・グラディエート。あとで生徒会室に来てもらおうか。今回のことで、色々と君に訊きたいことがある」


「ち、違っ、僕は……、くっ……」


 もはや言い逃れも抵抗も無駄と悟り、セルエは頭を垂れた。

 それには目もくれず、ゼノアはルーナに向き直る。


「グッドラック、ルーナ」


「えぇ。ありがとう、ゼノアくん」


 ルーナは堂々と壇上へと立った。


挿絵(By みてみん)


 長らく待たせたことへの謝罪から始まったスピーチは、淀みない流暢なものだった。

 最後にルーナがお辞儀をすれば、エリシアやセルエの時とは比べ物にならない拍手が鳴り響いた。


 続いて生徒達の手による投票が行われ、それも完了すれば生徒会がすぐに開票、集計し――結果は予想通りだった。


『静粛に』


 最後に生徒会長たるユーストマが壇上に立ち、開票結果を告げる。


『ただいまの開票結果、今回の生徒会役員選挙の栄ある当選者は――予科一年A組、ルーナ・アストレア!』


 予定調和のように告げられた結果に、館内の歓声は最高潮に達した。


 皆が皆ルーナの当選を喜び讃える中で、ゼノアはニコニコと笑顔を浮かべ、


「(これはまだ始まりに過ぎない……ここからだ。ここから国の一角を切り崩していく。ゆくゆくは政権への発言権を得て、法改正。その理想の実現のためには、お前が必要なんだ、ルーナ)」


 恐らく長い付き合いになるだろう少女に、今は優しい目を向ける。

目指す場所なんてどこでもいい、とっとと上がって楽になりてぇ。

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