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Episode:17 幸運とは自らの手で力尽くで成し得るもの

 書きたい骨子も書けない小説を続ける意味などあるのだろうか。

 本文を書くモチベが無ければ挿絵など描けるはずもない。

 なのでここからの挿絵は、必要最低限での展開になります。

 ブティック各店を見て回るウィンドウショッピングも一段落がつき、ゼノア達四人はファーストフードショップの、オープンテラスの丸テーブルにて昼食を摂っていた。


「私達の都合ばかりに付き合わせるのも悪いし、午後はゼノアくんとオズワルドくんの回りたいところでいいわ」


 オーダーした料理を待つまでの間、ルーナは男子二人にそう言った。


「……と、言ってもな。俺はこの城下町に来るのは初めてだ。どこに何があるかなんて分からないんだが」


 500年前のゼノアが、今世の"ゼノア・バロム"が憑依する前はどうだったかは分からないが、見覚えや記憶の引っ掛かりも無いので、恐らく完全に初めてなのだろうと判断する。


「俺からはパスだな。オズワルドはどうだ?」


 ゼノアからの意見は無しとして、オズワルドはどうかと訊ねる。


「俺か?んーとな……」


 実はオズワルドは、完全に女子二人の都合に付き合うだけのつもりだったので、自分が目当てとしている店を見て回るつもりなど無かったのだが。


「おぉ、そうそう思い出した!本屋に行っていいか?」


「本屋さん?」


 本屋に行きたいと言うオズワルドに、コトネは意外そうに小首を傾げる。


「オズワルドくん、普段は「教科書とか見てたら眠くなる」とか言ってるのに、何の本を買うの?」


「コトネちゃんの俺に対する評価どうなってんだ!?」


 オズワルド=おバカ とでも言うようなコトネの認識に、オズワルドは心外だと抗議する。


「俺が欲しいのは教科書とか参考書じゃなくて、小説だって」


 本は本でも小説が目当てだと言うオズワルドに、今度はルーナも意外そうな顔をした。


「オズワルドくん、小説を読むのね?今日買おうとしてる小説って、どんなジャンルなの?」


「ジュブナイルだよ。異世界から時空を超えて飛ばされてきた少年が、冒険者ギルドで活躍するって話」


『冒険者組合の下請け人見習い』ってタイトルだ、とオズワルドは言う。




 昼食のあとは、オズワルドの希望通り書店へ。


「おぉ、あったあった」


 書店に入るなり、ジュブナイルのコーナーに足を向けたオズワルドは、目当ての小説を手に取った。


 反り返った細身の剣を持った少年と、弓を構えた赤い髪の美少女が大写しになり、その背景に砂漠と石の巨人が描かれた表紙だ。


「んじゃ、とりあえずこれ買ってくるわ」


 上機嫌そうに会計に向かうオズワルドを見送りつつ、ルーナとコトネも同じコーナーを見ている。


「ルーナちゃんは、小説とか読む方かな?」


「私はあんまり……でもせっかくだし、何か読み始めてみるのもいいかしら」


「あ、それならオススメの恋愛小説があるんだよ」


 こっちこっち、とコトネはルーナを女性向けの恋愛小説の方へ連れて行く。

 ゼノアは、オズワルドが見ていたジュブナイルのコーナーを見ている……フリをしていた。


「(妙な場所から魔力の気配を感じるな……)」


 書店内を何気なく歩き回りながら、少しずつ怪しげな気配の元へ近付く。


 すると視界の端の方に、その姿を捉える。

 一見すると、どの本にするか迷っているように右往左往しているが、よくよく見るとそうではないらしい。

 不自然なほどの厚着をしており、身形も整っていない。


「(アレがそうか?)」


 今この城下町に潜伏していると言う、脱獄犯か。

 恐らくそうだろうとアタリを付けて、気付いていないフリをしつつ、ルーナの位置と、書店の出入り口との距離、ついでにオズワルドの現在地も確認。


 仕掛けるなら、今か。


 ニチャァ、と歪な笑みを浮かべたゼノアは踵を返した。

 気配遮断の魔術を使いつつ、顔を見られないようにコソコソとしているその男の背後に忍び寄り、


 ポン、と肩を叩く。


「よぉ、こんなところで何やってんだ?」


「ッ!?」


 ビクッと肩を竦ませて反応したその男は、次の瞬間にはゼノアの手を振り払ってその場から逃げ出した。


 どうやら『当たり』のようだ。


 その男――件の脱獄犯の逃走経路の途中にルーナがいることを視認しつつ叫ぶ。


「ルーナッ!その男を捕まえてくれ!!」


「えっ!?」


 ゼノアの声を聞いてルーナはその方向へ向いて、逃げ出そうとしているらしい脱獄犯が走ってくるのを見る。

 ルーナが戸惑う間にも、脱獄犯と出入り口との距離は縮まっていく。


「『グラビティ』を使え!足を止めるんだ!」


 ゼノアは重力属性の魔術を使うようにルーナへ伝える。

 それを聞いたルーナの反応は早く、すぐさま掌を脱獄犯に向けて詠唱する。


「――大いなる重力よ――『グラビティ』!」


 顕現された白灰色の魔法陣から磁場が生じ、その磁場が脱獄犯を床に叩き付ける。


「ぐあぁっ……!」


 しかしワンドを介さない魔術だったためか、完全な発動には至れず、脱獄犯はグラビティが発する重力を振り切ろうとしている。

 今にも重力の枷から抜け出そうとした時、


「おりゃぁッ!!」


 オズワルドが駆け寄って、脱獄犯の左脇からタックルを仕掛けて押し倒した。


「なんだか知らねぇが、逃さねぇぞ!」


 押し倒した上から押さえつけるオズワルド。


「くそっ、離せぇっ!」


 なおも抵抗しようとする脱獄犯。

 だが、最後の決め手があった。


「こっち、こっちです兵隊さん!」


 事態を見てコトネが呼んでくれたのか、二人組の兵士が書店に入ってきた。

 現場を見て、その男が脱獄犯だと判断して、兵士は手にした槍の穂先を脱獄犯に向ける。


「止まれ!大人しくしろ!」


「へっ、いやっ、俺はただ、このおっさんが逃げ出そうとしたから……」


 自分がそう言われたのかと思ったのか、オズワルドは慌てて両手を上げた。


「いや、君じゃなくて、そっちの男だ」


「あ、アッハイ」


 兵士達が槍の柄で脱獄犯の頭を押さえつけるのを見て、オズワルドはそっと離れる。




 書店での騒ぎを聞き付けて、さらに複数人の兵士が雪崩込み、脱獄犯は無事に拘束された。


 その後で、ゼノア達四人は、兵長からの事情聴取を受けていた。


「ふむ……つまり、バロム君が最初に犯人を発見し、逃走しようとしたところをアストレアさんが魔術で足を止めた。その間にクランベリーさんが我々にこの事を伝え、ロイ君がダメ押しに犯人を取り押さえてくれた、と言うことだね?」


 四人がそれぞれ取った行動を照らし合わせて、状況把握。


「あそこで彼女がグラビティを使ってくれなければ、逃していたかもしれません」


 ゼノアは遠回しに「脱獄犯の取り押さえに最も貢献したのはルーナだ」と伝える。


「でも、最初に脱獄犯を発見したのはゼノアくんよ?」


「だが俺はそこで取り逃がした。ルーナがいてくれたから何とかなったんだ」


 ゼノアが貢献者だと言うルーナだが、そのゼノアはあくまでルーナを推す。


「うんうん、ルーナちゃん頑張ったよ。わたしは兵隊さんを呼んだだけだし」


「お、俺も身体張ったんだけどな!」


 にこにこと頷くコトネに、オズワルドは「自分も貢献した」アピールをする。


「何にせよ、君達のおかげで脱獄犯を確保することが出来た。近々に聖アイリス魔法学院の方へ感謝状を贈らせていただく。本当にありがとう」


 では我々はここで、と兵長は部下を連れて書店を後にしていく。




 事情聴取に思いの外時間がかかったのか、時刻を確かめればそろそろ城下町を出なければ、寮の門限を過ぎかねない時間帯だった。


「いやー、大変なことに巻き込まれちまったな」


 帰り道、オズワルドは背伸びしながらぼやいた。


「うん、脱獄犯がいるなんて思わなかったし、びっくりしちゃった」


 コトネも疲れたように頷く。


「だがまぁ、人助けに貢献出来たんだ。実のある休日になったんじゃないか?」


 自由な時間は減らされたが悪くはない、とゼノアは言う。


「どうした、ルーナ?」


 ふと横目に見れば、ルーナはどこか複雑そうな顔をしている。


「ゼノアくん、もしかして……いいえ、私の考え過ぎだわ、ごめんなさい」


 ルーナは頭を振った。


「さて、来週になったらチラシの完成品の受け取りに来ないといけないし、生徒会選挙も頑張らなければね」


 誤魔化すように声を張るルーナ。


 帰り道の間、ルーナ、コトネ、オズワルドの三人が談笑する中、ゼノアは。


「(勝ち筋は作れた。これで票はルーナに集中、あとはどうにでもなる……が、"馬鹿がバカをやらかす"可能性もある。最後まで徹底するとしよう)」


 この先で起こり得る事に対する黒い算段を立てていた。

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