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賢者

作者: 長万部三郎太

これは我が社で起きた珍妙なる面接の記録。



異世界から来たというその男の履歴書にはこう書いてあった。


『前職:賢者』


本来ならば書類選考で処理するはずの人間を、なぜ人事は通したのか?

わたしはいささかキレ気味で面接に出向いた。



会議室に現れた1人の男。年齢はわたしと同じくらいだろうか? しかし、ある程度歳を重ねた社会人が、なぜあのようなおふざけをしたのか…‥。

逆に興味をそそられたわたしは、まどろっこしい質問は抜きにして初手から攻めるべく斬り込んだ。


「以前は “賢者” をされていたということですが、どのようなお仕事でしょうか?」


ちょっと意地悪な質問かなとも思ったが、男は真顔でこう述べた。



「人を襲う魔物には攻撃魔法を、怪我人には回復魔法を唱える毎日でした」



そうきたか……。


しかし、この程度のやり取りでわたしが笑ってしまうと場が和んでしまう。それでは相手のペースにはまった証だ。この会社のマネジメントを任される者として、この男の思い通りにはさせられない。わたしは改めて攻めの質問を投げた。


「弊社はゲーム会社ですが、開発はもちろん、出版やアニメ、映画事業なども展開しております。あなたはこれまでに培ったスキルを活かしたい、と履歴書に書かれておりましたが、どのような部署を希望されておりますか?」


相変わらず男はピクリとも動じずに、まっすぐわたしを見てこう答えた。


「自分は必要に応じて、その都度転職してきました。不慣れなうちはご迷惑をおかけすることもありますが、結果としてどのような職種であっても早期に対応ができると確信しております」


この男の自信はいったいどこから湧いてくるのか分からないが、なぜか心に響く返しである。そう思ううちに、わたしもかつてこのような体験をしてきたのではないのかと、そんな錯覚すら覚えるのだった。


『その都度転職』……。


男のその言葉に引っかかりを感じたわたしは、ここでようやくテンプレ的な質問をすることにした。


「賢者の前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?」


ようやく男が笑った。



「その前は…… “遊び人” でしたね」





(筆休めシリーズ『賢者』 おわり)

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