7 狙った訳ではなかったが 纏うバッグ編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
バッグの再構築になかなか手をつけられなかった期間がだいぶ過ぎ、いつでも良いなどと悠長なことを言っていられなくなったので興味と気合いの行き先を半ば強制的に方向転換。
ツギハギをするためのデザイン画に番地を振った地図を落とし込む。ほどいたパーツの裁断箇所を照らし合わせ、確認は念入りに。気合いは十二分に。
裁断箇所にローラーカッターを当てて一息。
「よっしゃ、やるぞ」
しかし次の瞬間、自分の犯した重大なミスに気付きうなだれた。
ハギ分の縫い代のことを完璧に失念していたのだ。これではどう考えてもデザイン画通りのツギハギにはならない。
って、待てよ。この設計図どう考えてもドンピシャにならないぞ。
どうする。どうする。どうする。どうする。
頭の中はただパニックで愕然とする。
絶望の縁に立ったわたしはとりあえずサトー氏に現況を報告に行く。
「ごめんなさい」
怒られるわぁ。詰られるわぁ。落ち込みながら開口一番謝る。
「どした」
状況を説明すると「じゃあ、足りない分別生地接げば?」想像していた悪口雑言はなく、あっけらかんと打開案。
忘れていた。サトー氏は超絶ポジティブ人間だった。この程度で彼が怒るわけがない。あふれでるポジティブさに救われながら、気を取り直して作業を再開。
えぐいほどのクランクを剥いでパーツを完成させるのには多大な集中力が必要で、やり終えたあとには魂が抜け出るほどに疲れきった自分の体があるのみ。
だが、大丈夫。ここから先の工程は縫製ラインに投入できるはずだ。
と思い気や、
「もちろん、組み立てもお願い」
無常とも言えるタカハシ頼みに一瞬思考が停止する。
「マジ? 縫ったこと無いよ? ガクブルよ」
「大丈夫。バッグも初対面で切り刻まれてるから双方ゼロからの出発」
サトー氏の謎発言を補足するようにスズキ氏が引き継ぐ。
「イレギュラーな仕様だから応用の利く人がやるのが一番だと思うんだ」
なるほど。確かに。
そんなわけで疲れはてた脳で仕様の変更箇所を洗いだし、縫製手順を組み立てる。
バクッと思い描いた仕様に向かってとにかく手を動かす。
こういう場合、精密な設計図は必要だがそれを得るためにいつまでも足踏みしていたら何も進まない。とにかく動くことが大事。そうすれば大抵のものはいつかは形になる(あくまで持論)。
そうして限定二点の各ツギハギのバッグはこの世に二つと無い切り返しを持って生まれたのである。
サトー氏は出来上がったツギハギバッグのポケットの中を覗き込みニヤリと一言。
「かわよ」
見た人にしかわからない感想である。
全身全霊を傾けたから、最終的には魂抜けてた。




