6 まさかの再構築 纏うバッグ編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
「タカハシさぁーん」
いつものように裄詰めをしているとどこからか声が聞こえてきた。
見回すがそれらしき人はいない。
気のせいだな。とカフスを外しているともう一度、誰かが呼ぶ。
目の前を遮る棚を避けるように首をかしげる。
サトー氏が工場の端でブンブン手を振っていた。隣にはスズキ氏。何事だ。
恐る恐る二人に近づく。真顔のスズキ氏に対して超絶笑顔なサトー氏。
「これさ、ツギハギして再構築したらどうかな?」
作業台の上には検品で弾かれたバッグが四点。
キナリ、一点。
製品染めに出したものが三点。
パッと浮かんだのはパッチワーク風の継ぎ接ぎ。手間はかかるが不可能ではない。
「攻めるね-」
「なし、かな?」
「いや、良いんじゃない?」
軽いノリ。スズキ氏の鋭い感性がわたしのチャレンジ精神を多いにくすぐることは既に分かりきっていたので、わざわざ水を差すようなことは言わない。しかし、これが途方もなく大変な作業の始まりであることをわたしはまだ知らなかった。
「□O:△O」のバッグは生分解性を目指した一品で、通常ではあまりスタンダードとは言えない綿糸を使用している。スパンと呼ばれる短繊維の綿を依った糸は絹糸やポリエステル糸と違ってとても切れやすい。故に、三十番という通常のドレスシャツ専門の工場では使わないような太番手の糸を使用することになったのだろう。理由も相まって、打ち込みの細かい生地に負けないしっかりとしたステッチワークのバッグになっている。
しかしこれ、ほどくことを想定して作成されたわけではないので(洋服全般は普通そうだが)糸を外す作業にはひたすら根気がいるものとなった。
比較的に糸は簡単に引きちぎれるが、調子にのって糸を引っ張っていると指に負荷がかかって知らぬうちに水ぶくれが出来る始末。そこに糸が当たるとこれがまた一段と痛い。
さらに製品染めをしているものは糸が生地に沈みこんで外しづらいのだ。
ほどきの作業が終わる頃にはどのように継ぎ接ぐのか設計図が上がって来ていた。恐ろしいことにパッチワークとは到底言えないクランクが存在するデザイン。
だが、このときのわたしは平常心を失っていたようで、「良いじゃん」と全肯定。後に控える作業をどのように進めたら良いのかはっきり言って全く分からなかったが、明らかに楽しさが先行していた。
しかし、ここからしばらくの間バッグの再構築作業は中断してしまう。
新たな試みの新作へ興味が移ってしまったのだ。飽き性のO型にはよくある現象として捉えよう。
綿糸、本当にほどくの辛かった。