5 ファイト、オー! 半纏編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
「□O:△O」がローカルテレビ局の三十分番組で取り上げられることになったらしい。
「来週の木曜日、テレビ局の取材あるんだけどタカハシさん大丈夫だよね」
さらりと言うスズキ氏に、まあ映ってもどうせカットだろ? と思っていたわたしは「いいんじゃね?」と適当に返事をした。
当日、スズキ氏は朝から忙しそうで午後になって顔を出した彼は「あとでよろしく!」と言葉を置いてさっさと取材対応に行く。
そうこうするうちに工場内に取材クルーが入ってきて現場の中を撮影し始めた。
二、三人の取材班だと思っていたが、インタビュアーを含めてその倍はいそうだ。良くテレビで見るふわふわのマイクもいる。
「すごいっすね」
近くにいた工員のお姉さまと取材の大がかりぶりにこそりと話をする。
「ま、たぶんここまで来ないわな」
勝手にたかをくくって仕事をしていると、フラりとサトー氏とスズキ氏が作業台にやってきた。
「終わったん?」
「休憩時間終わったら再開だって」
恐らく、休憩の前後に鳴るチャイムの音を入れたくないのだろう「へぇ」とうなずく。
二人の胸元にはピンマイクがいたのでまだ後半戦があるのね、くらいにしか思っていなかった。
せっかく三人が集まったのだからと、休憩時間までの数分間、新作の修正点を打合せする。
しかし、休憩が終わっても二人は作業台から離れる気配がない。
しばらくして取材クルーがこぞってこちらにやってきた。
するん。何食わぬ顔でインタビュアーが、打合せの輪の中に入ってくる。
「それで、タカハシさん」
超自然な流れでインタビュアーがわたしを呼んだ。名前知ってた? とか思ったが、名札を付けているのを思い出した。それ見ただけか。
「はい」
「彼らと一緒に仕事をしてどんな風に変わりましたか?」
さすが、と言うべきか。緊張感など一切もさせない問いかけだ。
少し考え、
「わたしの仕事は格段に増えましたが、楽しいです。考え出すと夜も眠れなくなるくらいワクワクするときもあります」
「それをワーカホリックと言うんですよ」
あははは。
なんて感じで、終始和やかな雰囲気で取材は終わった。
「ま、わたしの場面はカットだろうな」と思って放送をチェックしたらガッツリ映っているではないか。
マジか! しかも字幕にデザイナーとかおかしなこと書いてあるし。どういうこっちゃ!
放送日の翌週、サトー氏が緊張の面持ちで出社した。
「半纏の受注かなり増えてるらしい」
うわ! 早速のテレビ効果! すげー!
純粋に驚いていたら、
「ストックほとんどない。タカハシさん、縫製入れる?」
来た、タカハシ頼み。
しかし今回は頑張るところ。
「いーよー」
ニヤリと笑った。
スズキ氏が受注の詳細を持って登場すると、裁断やら仕掛かりやらの調整でサトー氏はバタバタと工場内を走り回っている。
ふ。と、わたしとスズキ氏を振り返ると、
「気合い入れとく?」
ニコニコと極上の笑顔。
「おう?」戸惑うわたしに向かって手を出す。
これはよくある青春系の手を重ねるやつね。
納得してサトー氏の手の上に自分の手を重ねる。やれやれといった感のスズキ氏も同様に。
するとサトー氏は嬉しそうに
「ファイト、オー!」
パシーンと手を張り上げた。
さあ、今週は半纏との戦い、頑張ろうじゃないか。
青春かよ! と思いながら、青春かもしれないと思ってしまった。