4 はじめましての半纏 半纏編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
「こりゃもう、タカハシさんに半纏縫ってもらうしかないわ」
ポップアップを目前に控えたある日、サトー氏が極上の笑顔を浮かべながら神頼みをし始めた。もとい、タカハシ頼みか。
半纏は「□O:△O」の一作目の商品で現在の看板アイテムだ。ダブルフェイスの再生ウールを使った仕様でその生地だけで温かく綿入りではないため軽く着ることが出来る。
「マジで?」
カレンダーを確認。ポップアップ初日まで稼働で一週間もない。頼みの綱の縫製ラインは日々のオーダーで手一杯。
「可能?」
「半纏とははじめましてよ?」
半纏と二作目のバックは加入前の商品なので型はおろか縫製にも関わったことがない。
なんなら縫製図示すら見たことがない。
「図示なら出せる。一発本番は可能?」
サトー氏よ、 なかなか無茶を言いなさる。
だが、ここで出来ないと言わないのがわたしらしい。
「やってみる」
縫製ラインで注意点の書き込みをいれた図示をコピー(データ上のキレイな図示は今回のような実践向きではないと心得よ)し、重要点を確認してから戦闘に入る。
体力十分。気合い十分。集中力も十分。
事実、最終工程までは驚くほどのスピードで進んだ。だが、それは最終工程までなのだ。最終工程で全てが詰まった。
最後の工程だけがとにかく縫いづらく何度も失敗を重ねる。それだけで三時間はかかっていた。
ヤバイ、上がらない。
焦りとうまく縫えないことへの苛立ちでなおのこと時間がかかる。
なんとかその日のうちに仕上げられたが、出来の悪さに腹しか立たない。
その夜は寝ようにも寝付けず、どうすれば上手く仕上げられるのかを頭のなかで何度もシミュレートした。
翌朝、のんきに挨拶をしてくるサトー氏に半纏を一着縫い直す旨を伝える。
「これより、修羅に入る」
気合いを入れてやり直し。
「そんなのに入っちゃだめ」
自分の無茶振りを棚に上げた発言を聞き流して人生二着目の半纏を縫い上げた。
スズキ氏の渾身の大感謝があったのは言うまでもない。
こんな感じで困ったときのタカハシ頼みが突発的に起こってくるのだった。
最終工程がとにかくしんどかった。
縫製ライン、本当にスゴいな。