3 実技試験
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
面接の次は実技試験のようだ。
本職のCADオペレーターが片手間に引いたファーストサンプルがボディに着せられている。
のっぺりとしたサンプルに閉口。
「衿をもっと立体的にしたいんだけど、可能なのかな?」
スズキ氏が試すように聞く。
示されたデザイン画の衿とかけはなれたサンプルの衿。
修正点として思い付くのは、第一に見頃の襟ぐりに合った衿つけカーブに整えること。二つ目は前後で衿の高さを調整すること。
しかし、即興で型を引くには自分の経験値が低すぎる。
「立体裁断して良い?」
迷わずに言った。
最初に見頃の襟ぐりを決める。ボディライン(細幅のテープ)で理想の襟ぐりを認識を擦り合わせながら囲んでいく。
リクエストはだいぶボートネックよりの襟ぐりだった。ここにスタンドカラーをつけるとなると、やはりシャツメーカーとしての経験値は役に立たない。
そういう意味では立体裁断と言う手法は正解への一番の早道になる。
縦横に字の目を通した布を襟ぐりにあわせながら形作っていく。
衿の原型が出来上がるとそのままパターンデータに落とし込み、型紙をプロットする。手早く手裁断し組み立てれば早速衿の部分サンプルが上がった。
第一声が「はや!」だったか「いいじゃん」だったかは定かではない。理想とする衿型が出来上がっていく過程を目の当たりにして二人は興奮気味だったのはなんとなく覚えている。
だが、問題はそこではなかった。
一連の作業を夢中で楽しんでいたという事実がわたしにとっては全てだったのだ。
ここで思う存分、いや、跳べるところまで跳びたい。そう思った。
このとき、パタンナーとして「□O:△O」に関わる覚悟が出来たのだと思う。
その後、デザインに対する認識を擦り合わせ、仕様、パターン、縫製をそれぞれクリアしていく。
そうして出来上がったのが「□O:△O」のアパレルアイテム三作目「スモック」だった。
わたしの、初参加作品だ。
このときの衿、のちのち社外の方にも大絶賛されていたらしい。