番外編5 肯定能力がハンパない
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
「□O:△O」のヘッド、つまり頭脳は完璧ジェントルマンでありながら、これじゃつまらないと神様が与えたのであろう手先の不器用さがチャームポイントのスズキ氏だ。
そしてハート、精神は言わずもがなの最強ポジティブ人間、サトー氏。
わたしは、と言えば替えの利くマジックハンドと言ったところか。
元来わたしは超がつくほどの心配性で、納期に間に合わないかもしれない不安に追われていることが多い。そのため引き受けたことに関しては全集中力を傾けて休憩時間も返上して処理していることもままある。
良くないことは分かっている。しかし、オンオフを簡単に切り替えることが出来ないのだ。
少なくとも週末の休みは大抵オン状態でいることが多い。
あれはどうしよう。どうやって進めよう。月曜の朝にスタートダッシュを決めるために脳内の比率は仕事が多く占める。
そんな状態なので、ごく稀に強制的にスイッチがオフになるときがあるのだ。
精神か肉体のどちらかに皺寄せがくる。
確かに、パソコンだって起動したままだと調子悪くなるときあるよな、なんて。
ということでオフ状態になったときのために、後釜を推薦しておく必要があるとわたしは踏んだ。
縫製は現場から数人。CAD使いは一番適職であろう人財を密かにピックアップ。彼らがタッグを組めばわたしが一人でやっているよりもよほど大きな力が出せるはずだ。なんというか、もう確信しかない。
その旨を伝えると、
「なんでそんなに卑屈なん?」
何故そうなるのだ、サトー氏よ。
わたしはより強力なチームを組めば良いと提案しただけよ?
スズキ氏に関しては、
「ふざけんな?」
で、一蹴。
「タカハシさんじゃなきゃ出来ないよ」
胸熱な言葉に不覚にも目頭が熱くなる。
しかし、ここで素直にありがとうが言えない自分。
「いや、でもさ。やらないだけで、きっと誰でも出来るんだよ」
「ほんと、もうその考えやめて」
聞き飽きたと言わんばかりのセリフ。
でもなあ。モヤりとしながらも口をつぐむ。
何年も、やって当然出来て当たり前の扱いしか受けてこなかった自分に自信があるかと問われると、もちろんあるわけがない。
そんなわたしを彼らはどこまで持ち上げるのか。成層圏まで行ったは良いが、その後地面に叩き落とされないかすごい不安なんですが?
なんてことを考えながら必死に付け上がらないように生きているんですよ。
とはいえ、自分のある意味では最強の習性を自覚していないわけでもない。
「頑張っている」とか「努力している」と自分では感じていないことだ。
「□O:△O」に関してやらされている感は一切無かった。むしろ、やりたいからやっているのだ。どんなに際どいリクエストも楽しいから形に出来る。それはもしかしたら才能のやようなもので、好きこそものの上手なれってやつなのかもしれない。
もしや、彼らは最初からそれを見抜いていたのだろうか。
それとも単純にフィーリングが合っただけなのか。
まあでも、「お前じゃなくても誰でも出来る」なんて言われて鬱屈しているより「他にはいない」と言われていた方が気分は良いわな。
そんな感じで新作を叩き上げる日々を送っている。
こういう人たちだから付いていきたいと思うんだよね。




