15 欠点がある方が可愛げがある スラッシュキルト編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
「可愛い」
「ありがとう」
サトー氏とスズキ氏の会話。
ここだけ聞くと何事かと思う。てか、BLかーい! 尊すぎるぞ。と心のなかで突っ込み。
このやり取りを、わたしが作業をするミシンを挟んでしているものだから、無視しようにもできない。
「今の、ヤバいな」
おっと、心の声が漏れてしまった。
「なんでもない」と首を振り、干されているスラッシュキルトを見上げる。
「乾くのに半日はいるかね」
「だねー」
サトー氏が可愛いと言ったのはスラッシュキルトのことであって、スズキ氏に対して言っていたのではない(恐らくとしか言いようがないが)
このときには専用のカッターも無事に届き、スラッシュキルトの制作時間は短縮傾向にあった。
「んで? クッションカバーはどんなデザインが希望?」
スラッシュキルトの商品化第一弾は、家具のリペア工房とのコラボ商品、クッションカバーだ。
「デザイン画はもらってるけど、ファスナーは切り返しのところが良いんだよね」
「なるほど」
うなずきながら積まれたレザーを手に取る。
第一弾がコラボ商品でしかもレザーを使うとは……。なかなか攻めますなあ。
この時にはすでに、スズキ氏は愛すべきぶきっちょ大魔王だと言うことが周知の事実になっていた。
「オレ、糊下手なのかな?」
なんてしょんぼりされた日には、小学生かよ! とか思いながら必死でやる気を削がないようにアドバイスを送る。
そんなスズキ氏のすごいところは、不器用を理由に挑戦することを止めないことだ。
とてもとても素晴らしい心意気だ。
「伸ばそうと思えば伸ばせるんじゃ?」
なんて浅はかな考えなのはわかっているけれど、頭脳派なのでちゃんと軌道修正してあれば少しずつ飲み込んでくれるのだ。とはいえ、それをしようとするならばものすごい時間がかかりそうだが。
そんなスズキ氏とスラッシュキルトをセッティングして縫い上げる日々がしばらく続く。
人も生地も個性が強めの方が可愛いんだろうな。




