13 届かないカッター スラッシュキルト編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
スズキ氏とサトー氏がなにやら話し込んでいる。
「ってことで、カッター買っておいたから、タカハシさんよろしくね」
「は?」
急に話を振られて疑問符。
「何の話?」
「専用のカッター買ったからさ、試作をお願いしたいんだ」
「なんのカッター?」
「スラッシュキルト」
聞きなれない言葉を検索するように頭の中をぐるりと一周。
「布重ねて切るやつ?」
「あ、知ってるんだ」
「存在くらいは」
「スズキが見つけてきたんだよ。すごいよね。で、専用のカッターを○マゾンで買ったから届いたらよろしく!」
「いつ頃届く?」
「えーと」と言いながらサトー氏がメールをチェック。
「あ、ダメだ。届かない。なんか配送先ベトナムの自宅設定してあった」
ベトナムの自宅?! と思うだろうが、これでもサトー氏、数年前までベトナムの縫製工場の駐在員だったのだ。前職、ということになるが。
「○ライム会員じゃないから、届くの時間かかりそう」
残念そうに肩を落とすサトー氏をスズキ氏が慰める。
「ま、そういうこともあるよね」
ベトナムの自宅って時点でそんなにないけどな?
とはいえ、カッターがどんなものかはこの時点で良く分からなかったし、ハサミでも代用は可能らしいので試しにサンプルを作ってみた。
スラッシュキルトは五、六枚の生地を重ねてバイアス方向へ等間隔にステッチ(縫い目)をいれる。そしたらステッチの間をハサミや専用のカッターで切る。あとは布の切り目が言い感じにバラけるようにごしごしと洗いにかて乾かせば完成だ。
試しにと言うこともあり、とりあえず三十センチ四方の大きさの生地を適当に重ねて縫い目を入れてみる。この大きさでもミシンのボビンに巻いた下糸がすっからかんになる程に景気良く糸が失くなった。
洗うの面倒だなぁ。と思っていたところに運良くサトー氏が通りかかる。
ちょいちょいと呼び寄せ、洗いの作業を押し付けた。
しばらくして洗濯機に突っ込まれてきたらしいスラッシュキルトが戻ってきた。
「これ、すごくかわいくない?」
サトー氏があからさまにウキウキしている。
そんなに喜んでいただけると作った甲斐がありますよ。
ステッチ入れは体力勝負。




