番外編4 大人な対応?
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
サトー氏がニコニコと気持ちの良い笑顔で近づいてくるときはだいたい面倒なことを頼みにくることが多い。(ということは大抵ニコニコしているということだ)
そんなわけでサトー氏が呼んでもないのにキラキラの笑顔でこちらにやってくるとき(ひどいときは自らそう言って近づいてくる)はかなりの確率で身構えている。というか、もう目を合わさないようにしているくらいだった。
そんな彼が珍しく朝からムスッとしていた。
さらに珍しいことに「手伝う」と言ってミシンを踏み始めた。
いつもバタバタと工場内を走り回っているのに、今日はどうしたというのだろう。
内心で驚きつつ、手伝ってくれるなら有難いと特別何も言いはしなかった。
隣のミシンでカタカタとパーツを作っている。
フッと視線を向けると、白ベースの柄生地を黒糸で縫っているではないか。
おいおい。生地色に糸合わせろって普段から言っているくせに、自分は合わせんのかーい!!
ムッとして、
「糸色合わせなよ」
「こんなん、地縫いだからいいんだよ」
「いやいや、いつも色合わせろって自分で言ってんじゃん」
「……もういいわ。やめた」
サトー氏が乱暴に立ち上がる。
「はあ? 途中で投げ出すんか?」
言い終わらぬうちにさっさと自分の席に戻っていく。
その時は「なんだあいつ。子供かよ」くらいにしか思っていなかった。
昼休み後、スズキ氏がフラッと工場にやってきた。
「サトー君さ……」
「あ、怒ってた?」
先程の出来事を思い出して先読みしたつもりだった。
だが、スズキ氏は首を振る。
「凹んでた」
「はぁ? 意味わかんね」
理解不能な回答に思わず声を張り上げてしまう。
「サトー君、男の子だから、タカハシさんから謝ってあげて。背中ポンポンってしてあげて」
いやいや、意味わからん。
そもそもそんな大層なやり取りだったか? 疑問符ばかりが浮かぶが、そのうちなんだか可笑しくなってきた。
ミシンを踏みながらキシキシと笑う。
その後スズキ氏の助言の通り(いまいち腑に落ちないが)わたしの方から謝罪した。
どうやら体調が良くなかったようだ。そういえば朝から「帰りたい」と言っていたのを思い出す。
後日、サトー氏の「大人だから仲直りしたけど~」発言に、「いや、お前は子供だっ!」と心のなかで叫んだ。
このときは本当に意味が分からなくて可笑しかった。




