番外編3 やったことない、はやらない理由にはならない
登場人物
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
就職後、サイズスペックありきの型を引くことは日常だった。というか、サイズスペックがなければ型を引くわけにはいかなかった。それが職場の決まりだった。
だが、「□O:△O」のアイテムはサイズスペックありきではない。あくまでもシルエット重視、なのだ。
例えば、ボックスプリーツの開き具合が納得行かないとなるとためらいもなく切り返しで調整する。
結果、出来上がったものがサイズスペックになる。
この瞬間、「服を作ってる」感覚になる。
決まりきった仕様の組み合わせではなく、自分達で新たに仕様を作っていくのは物凄く大変な作業だ。けれど、達成感も半端なくある。
「いや、でもこれ、現状縫えるのタカハシさんしかいないでしょ」
「どこのラインで縫えばいいんだよ」
工場の生産管理も担当するサトー氏が頭を抱える。
「やったことないだけで、やってみれば誰でも出来る。実際、わたしはやった」
「またそういうこと言う。どーにかしてこの子」
いやいや、工場の人間を見くびり過ぎだぞ?
多くはわたしが学校へ行く前から働いてた人たちだぞ? 実践では百人力ぐらいに思っとけ!
と、思いたいところだが、サトー氏の言葉を借りるなら、「工場で能動的な人はタカハシさんくらいしかいない」らしい。
うーん。うっすら、というか、なんとなく感じてはいたが、外部から移ってきた人がそう言うとかなり真に迫っている。
とはいえ、ラインで縫えないからと妥協しまくりの仕様にはしたくない。
「若手の子たちを積極的に抜いてきて叩き上げるしかない」
実際、わたしも現場に放り込まれて波に揉まれたことがある。
「得手不得手はあるにしても、教えないと何も出来ない」
「それは理想論。現状はかなり無理だな」
心の中でため息。
わたしが「□O:△O」に加入してから商品開発がグンとスピードアップしているようだが、生産体制が全く整わない。
一体どうしたものか。
これはしばらく頭を悩ます種になりそうだ。
タカハシ頼みも連発は不可、よ?




