8 理想のシャツジャケ シャツジャケット編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
実を言うとシャツジャケットのプロトタイプは早い段階で完成していた。
ラウンドテールの仕様には眠れなくなるほどに考え抜いたパターンと縫製アイデアが詰まっていた。
そんなシャツジャケットだったが、諸事情により敢えなくボツ。デザインをゼロから叩き上げることになった。
「ラグランでゆったり感を出しつつ、フロントスタイルはかっちり目にしたい」
参考になる資料を検索しながら「こんな感じ」とスズキ氏。
なるほど。そのリクエストに対するパターンなら心当たりがある。
「ちょっと線引いてみる」
CADに向かい、記憶の中のパターン形状を実際のスペックに照らし合わせながら形作る。どこへいけば良いのか明確に分かっているとき、わたしの集中力は上がるらしい。
納得のいく線が引けたと満足しながらスズキ氏に内線をかける。
「はや! パターン見たい」
この発言。消して低くはなかったスズキ氏の好感度が爆上がりした。
パターンを見たいだって?
今までそんなことを言ってわざわざ工場まで足を運んだ企画者がいただろうか。
知ってはいたが、彼はやはりただ者ではない。
CADを覗き込んだスズキ氏の感想は、
「あの画像だけでよくここまで引けたね」
感嘆の表情。
「見くびんな?」
軽口を返してから、本題。
「縫い代処理は巻き伏せ本縫いだよね?」
シャツジャケットのこだわりその一。
高級仕様のシャツと同じ仕立てにしたい。
これがなかなかの難点。使用する生地はシャツのように薄い生地ではないのだ。縫い代を巻いてくるとなると生地が重なり厚くなるのでなかなか難しい。
「出来そう?」
「やってみないとわかんない」
ということで、早速レッツトライ!
試作用の生地を裁断して翌日にはサンプルが上がっていた。
心配だった箇所も縫製しながら少し手を加えることで問題なく縫うことが出来た。
出来上がったサンプルをサトー氏に見せると、
「え、なにこれ。え、かわよ。これ、好き」
その反応。ありがとうございます。
見事、スズキ氏の狙っていた効果は効いたようだ。
プロトタイプのシャツジャケもなかなか良かったんだけどね。




