虹の光
この物語はフィクションです。
登場する人物及び土地、組織、能力等の名称は全て、
実際の人物及び土地、組織等とは一切関係ありません。
目の前に柔らかな虹の光が広がる。
一つ、また一つと、小さな砂場とブランコの残骸しか公園の空に、一人の少女の手によって小さな光のアーチが描き出されていく。
「すげー!!!」
少年は潤んだ目を輝かせて、そう叫んだ。
灰原 蒼真、4歳。
まだ少し充血した目をいっぱいに見開いて、不思議な光景に釘付けになる。
虹を描いていた少女・・・雨之 彩華は、そんな彼の姿を見て優しく微笑む。
「・・・ありがと!あやかねーちゃん!」
蒼真はそう言って、ピョコピョコ跳び回りながら虹の下を走って行く。
「ちゃんと前見ないと危ないよー!」
そう言いつつも、自分も空を見上げてよそ見しながら蒼真の後を追いかけて行く。
2人駆け回る公園。裏手にある墓地からは、細い線香の煙が立ち上っている。
少しして、走り付かれた彩華の元へ蒼真が駆け寄って来る。
「ひゃっ」
突然手を取られて、彩華は思わず声を上げた。
「へへへ・・・ねーちゃん」
蒼真は二ッと歯を見せて笑い、そしてそれから少しもじもじと恥ずかしそうに顔をそむけた。
「あの・・・ね」
何か言おうとしたその時、遠く離れた公園の入り口から蒼真を呼ぶ声がした。
「おーい蒼真!そろそろ帰るぞー!」
「っ」
少し枯れた、父親の声。
2人はなんだか恥ずかしくなって、やけによそよそしく互いの手を放した。
「ばいばい」
小さくそういって、蒼真は虹の消えゆく公園の中を父親の元へ走って行った。
「・・・ばいばい。」
彩華はそう言って、夕焼け空に浮かんだ消えかけの虹たちをぼんやりと眺めていた。
「・・・・・・。」
すっかり日も暮れ、月が町を照らす中で、彩華は無言のまま虚空に指をかざす。
すると、柔らかな虹色の光が指先から流れ出して、空に鮮やかな虹を描き出していった。
「・・・・・・・・・なんでだろ」
小さく呟いて、目の前に浮かぶ虹をしばらく眺めてみた。
優しい光のアーチは、少しずつ少しずつ夜闇に溶けて薄れていく。
「・・・・・・・・・・・・。」
やがて虹が消えてしまうと、彩華は寂しそうに笑った。
そうして、灯りの消えたままの家に帰って行った。
町を照らしていた月が、薄く伸びた雲に隠れて、辺りは少しだけ暗くなった。