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3

 階段を半ばまで降りたところで思わず立ち止まったわたしをロックオンした美少女は、キッと目をつり上げて人差し指を突きつけてきた。


「見つけたわよ泥棒猫!」


 泥棒猫? 

 どういう意味ってわたしが視線だけでミントに訊ねれば、ミントが小声で「お気になさらなくて大丈夫です。死語です」と答える。

 よくわからないけど、気にしなくていいらしいから聞き流していると、美少女はつかつかとこちらに近づいきた。すかさずミントがわたしを守るように前に回る。


「突然いらっしゃられても困ります、マルベル様」


 どうやら彼女はマルベルさんって言うらしいわ。


「どきなさいよ! 使用人風情がわたしの邪魔をするとただじゃおかないわよ!」

「いいえ。あたしの仕事は主人であるシェイラ様をお守りすることですから、どくわけにはまいりません。マルベル様こそお約束もなく勝手に城にいらっしゃるのは不躾ではございませんか? どうぞ、お帰りくださいませ」

「なんですって⁉」


 バチバチと火花が散りそうなほど睨みあう二人の上を、クロが二周ほど旋回して、そのままどこかへ飛んでいく。

 ミントとマルベルさんが言い争っていると、バタバタと奥からロマンスグレーの髪を撫でつけたすらりと姿勢のいい紳士が走ってきた。彼はこの城の執事のグスタヴ。笑うと二本の鋭くとがって犬歯がのぞく――吸血鬼、という種族らしいわ。

 グスタヴはマルベルさんの姿を見つけると、額をおさえて息を吐いた。


「マルベル様、あれほど突然いらっしゃらないでくださいと申し上げたはずですが」

「なによ! 何度も来たいって言ったのに、いつまでも許可が下りなかったんだから仕方ないじゃないの!」

「許可が下りなかったのは来城するなということです」


 グスタヴがぴしゃりと言うけれど、マルベルさんはつーんと細い顎をそらす。


「そんなはずがないわ! わたしとジオルド様の仲だもの!」


 うーん、妻としてはその「仲」がどんな「仲」なのか気になるところだけど、ここで口を挟むとややこしくなりそうだから我慢するわ。

 お城に来る許可が出なかったということは、やましい関係ではないと思いたいけれど――、昔の恋人とかだったら、ちょっといやだなぁ。


「ともかく、お帰りください。陛下はまだお休みになられています」


 するとマルベルさんはふんと鼻を鳴らして笑った。


「あら? 夫婦なのに一緒に食事を取らないの? そうよねぇ、所詮儀礼的に選ばれる生贄ですもの。その程度なんだわ。ふふっ」


 マルベルさんの言葉に、チクリと胸が痛む。ジオルドが朝が弱いのは知ってるし、べつにマルベルさんの言葉を真に受けたわけじゃないけど、一目ぼれだって言ってくれたジオルドのことは信じているけれど――、ここにきてまだ二か月半。彼のことを詳しく知っているわけじゃない。だから、少し。すこーしだけよ? そうなのかなって思っちゃうわたしもいるわけで。

 わたしが視線を下に向けたその時だった。


「シェイラ助太刀!」


 助太刀?

 突然クロの声が聞こえてきてハッと顔をあげれば、ジオルドが階段を下りてくるところで。


「マルベル。俺の妻に無礼は許さないぞ。俺はシェイラを愛している」


 わたしのそばまで降りてきたジオルドは、わたしの肩を抱き寄せて、きっぱりと言った。


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