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 うーん、何度経験しても慣れないわね。

 七人いる魔王の一人であるジオルドと結婚して二か月半。

 結婚したからにはもちろん同じ部屋で寝起きしているんだけど――、目が覚めた直後に目に飛び込んでくる艶々の黒髪のスリーピングビューティーはなかなかに破壊力がある。

 ジオルドってば悔しいくらいに睫毛が長いのよね。肌も白くてきめ細やかできれいだし、寝顔によだれの痕の一つでもあればちょっとほっこりするかもしれないけど、今のところ彼の口元によだれの痕があったことなんて一度もない、

 つまり何が言いたいかって言うとね。

 わたし、本当にこの人と結婚したのよねー? ってことよ。

 二か月半も経ったのに、いまだに実感がわかないのよね。

 ジオルドは朝が弱いみたいでなかなか起きない。魔王様ってなんの仕事をしているのかイマイチわからないけど、ジオルドは、遅くに起きてのんびり一日すごして夜になって眠るっていう、ゆるーい生活を送っているわ。おかげでわたしまでぐーたらな生活に慣れそうで怖いから、朝はきちんと起きるようにしているの。

 寝ぼけたジオルドに捕まらないうちに、わたしはベッドから抜け出すと、内扉でつながっている自分の部屋に向かう。

 顔を洗ったあとでクローゼットをあけてドレスを物色していると、どこからともなく飛んできた一羽の九官鳥が肩にとまって、くわっとくちばしを開いた。


「シェイラ、起きた。起きた」


 あーもう! クロったら静かにしてよ!

 この九官鳥の名前はクロ。ジオルドが飼っているみたいなんだけど、とにかく自由な子なのよ。ふらりといなくなったり、突然現れたり。最近のクロのお気に入りは、わたしが起きたと騒いでメイドをたたき起こすこと。今まで朝がのんびりだったジオルドの世話をしていた城のメイドさんたちは、朝早いのに慣れていないからそっとしておいてあげてほしいのに。


「奥様! おはようございます!」


 ほらー。

 大慌てでやってきたメイドのミントの髪、まだまとまっていないじゃないの。白いヘッドドレスは手に握られたままだし、よく見ればお仕着せの胸元のボタンが一つ飛ばしよ。


「おはようミント、そんなに慌てなくても大丈夫よ」


 ナイトドレスのままクローゼットからライトブルーのドレスを引っ張り出していたわたしは、指で胸元のボタンを指してやる。ミントは慌ててボタンを留めなおして、髪を撫でつけてヘッドドレスを身に着けた。


「いえ! 奥様を美しく整えるのはあたしの仕事ですから!」


 ミントは鼻息荒くそう宣言する。

 ミントってば、わたしにお洒落をさせるのが大好きなのよ。放っておくとゴテゴテのキッラキラのケバケバに仕上げられるから、わたしは「ほどほど」という言葉を口を酸っぱくして言い続けている。ミントは最近、ようやく「ほどほど」を覚えてきたところよ。

 クロはミントを呼びつけて満足したらしく、わたしの肩から飛び立つと、窓際におかれているテーブルの上に止まった。そこにはクロのご飯とかお水とかがおいてあるの。

 わたしはここに来るまで塔に幽閉されていたから自分のことは自分でできるんだけど、わたしが自分で身支度を整えようとするとミントが悲しそうな顔をするから、彼女に着替えを手伝ってもらう。

 ドレスに着替えて、ドレッサーの前に座らされたわたしは、嬉々としたミントに化粧を施される。


「ドレスにあわせて青系のアイメイクにしましょうね」


 鼻歌さえ歌いだしそうなほど機嫌よさそうに、わたしの目元にアイメイクをしていくミント。ここに来るまでお化粧なんてしたことがないから、まだ抵抗感はあるんだけど、きれいにしてもらうのは嫌いじゃない。

 わたしに化粧をして、まっすぐな黒髪をコテでくるくるに巻いてハーフアップに仕上げたミントは、最後に真珠の髪飾りを止めて満足そうに頷いた。


「今日の奥様もお可愛らしいですわ。グッジョブあたし! さすがあたし!」


 ミントは悦に入って自画自賛。

 地味だと言われていた真っ直ぐな黒髪も、こうされるとずいぶんと華やかになるものね。ミントの技術には感心しちゃうわ。


「さあ奥様、そろそろ朝食の用意ができている頃でしょうから、ダイニングに向かいましょう!」


 そうね。ジオルドはまだ起きてこないから――というか、起きてくることの方が珍しいから、朝食はたいてい一人でとる。

 わたしが部屋から出ようとすると、クロがバタバタと飛んで追いかけてきた。


「うるさいの来るうるさいの来る」


 うるさいの来る?

 わたしが首をひねりながら大階段を下りていると、玄関から一人の女性が飛び込んできた。


「ジオルドが人間の女を攫ってきたのを知っているのよ―――!」


 叫びながら現れたのは、真っ赤な髪をした、猫のようにつり上がり気味の目の美少女。


「うるさいの来た!」


 クロがわたしの頭上を飛び回りながらそう言って――

 あー、なんか、嵐の予感?


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