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【コミカライズ】聖女は魔王に嫁ぎます!  作者: 狭山ひびき
第二話

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6

 午後になってソファにジオルドと並んで座って本を開いていると、ジオルドが家庭教師として雇ってくれているルシルフ先生がやってきた。

 よく晴れた空のような色の髪をしたルシルフ先生は、その明るい髪の色とは全然違って、何事にもやる気がないというか――、「めんどくせー」が口癖の人。

 左にモノクルをつけて肩までの髪は一つに束ねて、欠伸をかみ殺しながらグスタヴに案内されて部屋に入ってきた。

 ジオルドと年が近いらしくて、何かと仲がいいみたいなんだけど、わたしに勉強を教えに来たときでさえ、暇さえあればソファに横になって眠っているのよね。

 実に三日ぶりにやってきたルシルフ先生は、わたしの隣に座っているジオルドに視線を投げたあとで、何を思ったのか、反対側のソファに座って、ミントにお茶とお菓子を要求し、何を言うわけでもなくのんびりと用意されたケーキを食べはじめた。


「何の本を読んでんだ?」


 もぐもぐとケーキを咀嚼しながらルシルフ先生が訊いてくる。


「これは龍族の本です。ほら、先生が今度、龍族について勉強しようって言っていたから」

「そんなこと言ったっけか?」


 ルシルフ先生が記憶を探るように視線を下に向ける。

 その様子を見て、ジオルドがため息をついた。


「雇ってやったんだから少しはしっかりしろよ」

「つってもな、別に俺が頼んだわけじゃねぇし。つーか、お前が教えりゃいいだろ」


 あー、それはやめた方がいいわ。

 ジオルドって頭はとってもいいみたいなんだけど、人に教えるのは向かないのよ。

 一を聞いて十を理解できるような人は、その二から十を教えるのは無理なのよ。たぶん。

 ルシルフ先生は「めんどくせー」と口癖をつぶやいてから、口に残っていたケーキを紅茶で洗い流した。


「龍族っつーのはな、気分屋で怒らせると面倒くさくて、なおかつ他の種族にかかわるのを特に嫌うから、山とか湖とかでひっそりと暮らしている陰湿な奴らのことだ」


 ……それ、信じていいの?

 わたしの手元にある本には、龍族は気高く崇高で、とても賢い種族だって書いてあるんだけど。

 そう言えば、ルシルフ先生はけっと笑った。


「そりゃそうだろ。その本を書いた奴は龍族だ。自分の種族を陰湿だのなんだのと書くわきゃねー。ま、とにかく、俺が言えることは龍族をみたら関わらずに回れ右してとにかく逃げろっつーことだな。以上」


 以上って――、龍族の授業、それで終わり⁉

 唖然とするわたしの横で、ジオルドが思い出したように口を開いた。


「龍族と言えば、百年ほど前に山を一つ吹き飛ばして龍族の長に封印された火龍がいたな」


 山を一つ吹き飛ばすって、それは比喩なのかしら? それとも本当なのかしら? 訊くのが恐ろしくてわたしはただ黙って二人の話に耳を傾ける。

 ルシルフ先生はモノクルを指先で押し上げた。


「あー、そういやぁそんなのもいたな。百年か。そろそろ封印も緩んできたし、あと二十年もすれば完全に解けるんじゃないか?」

「あの龍はお前の言う『陰湿』は当てはまらないだろう」

「陰湿じゃねーけど、あいつはめんどくせー」


 面倒くさがりのルシルフ先生にかかれば、たいていのことは「めんどくせー」になるんでしょうけどね。

 ルシルフ先生は食べかけていたケーキにフォークを刺して、大口を開けて残っていたケーキを一口で食べてしまった。


「とにかく、龍族には関わらねぇことだな」


 ケーキを食べ終えたルシルフ先生はごろんとソファに横になった。

 ……この人、今日はいったい何をしに来たのかしら?

 授業らしい授業をせずにケーキだけ食べて昼寝をはじめた「家庭教師」にわたしはあきれるしかない。

 わたしは龍族が書いたらしい手元の本に視線を落として、続きを読もうかどうしようか悩んで、結局ぱたんと閉じると、ミントが煎れてくれた紅茶に手を伸ばす。

 ルシルフ先生は寝ちゃったし、新しい本を取りに書庫に行くのは億劫だし、何をしようかしらって思っていると、「おつかい、帰った」という片言の言葉とともに九官鳥のクロがスーッと飛んできて肩にとまった。

 その足には、細く折りたたんだ小さな紙が結ばれている。


「アマリリス、お茶会する」


 クロが片方の翼を広げて言った。

 クロの足から髪をほどいて広げてみると、アマリリスの綺麗な文字で、お茶を飲みながらおしゃべりしない? と書いてある。

 日付は三日後。

 ジオルドを見ると、微笑んで頷いてくれたから、わたしはさっそく了承の返事を書いてクロの足に結び付けた。


「帰ったら、サクランボを所望する!」


 なるほど。おつかいのお駄賃はサクランボね。

 わかったわと頷くと、クロは首を大きく縦に振ってから、わたしの肩から飛び立っていった。


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